アレックスは時々振り返って、あおいがついてきているか確認しながら歩いた。
あおいはアレックスに遅れないよう、少し小走りになっていた。
「手をつなぎましょうか? あおいの歩くスピードに合わせたいので」
「ええ。分かりました」
アレックスの手は大きくて、思ったよりもゴツゴツとしていた。
あおいは自分の心臓が高鳴るのを感じた。
「どうしました、あおい?」
アレックスが振り返った。
「顔が赤いようですが、もう少しゆっくり歩いた方が良いですか?」
「いいえ! 大丈夫です」
あおいはつないだ手に力が込められるのを感じて、ドキドキが止まらなかった。
「城の図書館は初めてですか?」
「はい」
アレックスの質問にあおいは頷いた。
「では、そろそろ着きますよ」
石造りの質素な建物の前で、アレックスは立ち止まり、あおいの手を離した。
「ここです」
「意外と地味なんですね」
「入りましょう」
アレックスが扉を開くと、本の匂いが漂ってきた。
「確か、この辺にあったと思うのですが」
アレックスは本棚を指さしながら、何かを探していた。
「いろいろな本がありますね」
あおいはしゃがみ込んで、本のタイトルを眺めている。
「あった。この本ですが、古い文字で書かれているのであおいに読めるかどうか心配ですが」
アレックスは本棚から一冊の本を抜き出して、あおいに渡した。
「錬金術について、ですか」
あおいが本のタイトルを読むと、アレックスは驚いた。
「古代の文字がよめるんですね」
「ええ」
あおいは本を開いた。
そこには金の作り方、毒薬の作り方、ポーションやエリクサーの作り方が載っていた。
「へー。面白いですね」
「この本は貸し出しはしていませんから、ここで読んでいくと良いでしょう」
「はい、分かりました」
あおいが答えると、アレックスは安心したように笑みを浮かべた。
「僕はこれから用事があるので、ここで失礼します」
「ありがとうございました。アレックス様」
あおいは本の内容を覚えると、さっそく家に帰って試しにポーションとエリクサーを作ってみることにした。
「ポーションもエリクサーも、材料を買ってから帰らなきゃ」
市場にでかけて、必要な薬草や聖水を買うと、1ゴールドがあっという間になくなった。
「結構高いんだな」
あおいは呟きながら、家に帰った。
家に着くと早速ポーションから作ってみた。
材料を魔法の釜に入れ、かき混ぜる。
まばゆい光が、釜の中からあおいを照らす。
「出来たかな!?」
あおいがワクワクして中を覗くと、そこには透明なぷるぷるしたものが出来上がっていた。
「あれ? これって……ゼリー?」
出来上がったのはポーションゼリーだった。
「ああ、私食べ物しか錬成できないんだった」
あおいはがっくりと肩を落とした。
ポーションゼリーは一食分ずつ分けて丁度いい大きさの瓶に詰め、冷蔵庫にしまった。
「さて、エリクサーはどうなるのかな?」
あおいはくじけずに、エリクサー作りに取りかかった。
いくつかの薬草に聖水、砂糖をいれて釜の中をかき混ぜる。
また、釜の中が輝いた。
「出来た! どれどれ」
釜の中にあったのは、エリクサー金平糖だった。
「可愛いけど、金平糖ってどうなんだろう……」
あおいは金平糖を一食分ずつセロファンでラッピングした。
「試しに作って見られるのはこれくらいか」
あおいはのびをしてから、休憩するため紅茶を入れた。
紅茶を飲んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どなたですか?」
「俺だよ、ロイド!」
あおいはドアを開ける。
「なんのご用ですか?」
ロイドは笑顔で言った。
「明日、森に薬草をつみにいくんだけど、一緒に行かないか?」
「行きます」
こうして、あおいは初めて冒険に行くことになった。