あおいは怒っていた。
「なによもう! 王宮から出てけとか、王宮に入れとか、勝手ばかり言って!」
誰も居ない部屋の中で叫ぶと、すっきりしたらしく、機嫌は直った。
「それにしても、クレープの種類が二つだけって言うのは少ないわね」
あおいは考えた。
「そうだ! 裏山にクレープの材料になりそうな物があるか探しに行こう!」
そうと決めると、あおいはかごを持って裏山に入っていった。
すこし歩くとせせらぎの音が聞こえる。
「水辺をちょっと歩いてみよう」
小さな川の両脇には草が生えていた。
よく見るとステータスが現れる。
「薬草か。美味しいかな?」
あおいは薬草を摘んでかごに入れた。
その後も歩いて行くと、崖っぷちに桑の実を沢山見つけた。
「やった! 桑の実のジャムが作れる!」
あおいは桑の実を沢山摘んで、やはりかごに入れた。
「豊作! 来て良かった」
そのとき、若い男性の声がした。
「お嬢さん! 気をつけて! スライムが居ますよ!」
「え!?」
振り向くと、そこにはスライムがフルフルと震えていた。
あおいは植物を刈るための鎌しか武器がなかった。
仕方なく、鎌を構えた瞬間、スライムが消えた。
「まったく、不用心ですよ。お嬢さん」
「たすけてくださってありがとうございます。貴方は?」
「私はキール王国の冒険者、ロイドと言います」
「私はあおいといいます。クレープ屋をやっています」
あおいの言葉に、ロイドは、ああ、と頷いた。
「市場で話題になっているようですね」
「そうですか」
あおいは改めて、ロイドの事を見つめた。
ロイドは優しい目をしていて、少しクセの付いた赤毛が印象的だった。
アレックスとは違うが、やはり彼も美形だった。
あおいは自分の顔が赤くなるのを感じた。
「私、もう家に帰ります」
「そうした方が良いですよ。今後は無理しないで下さいね」
「はい、分かりました。今度市場で会ったら、お礼にクレープをプレゼントしますね」
「ありがとう」
ロイドが笑った。
あおいはロイドと別れて、ぼろ屋に戻った。
「さてと。桑の実のジャムと、薬草のソテーを作ろうかな」
あおいは桑の実からジャムを錬成し、クレープにする。
ジャムの残りは冷蔵庫にしまった。
そして、薬草をみじん切りにしてペースト状のソテーを作り味見をした。
「うーん、薬草はほろ苦くて大人の味ね」
あおいは試作したクレープ二つを食べてみた。
「薬草のソテーのクレープ、ベーコンとチーズ入れた方が美味しいかな?」
あおいはそう言って、新しく焼いた薬草のクレープにベーコンとチーズを入れてみた。
「うん! 美味しくなった!」
あおいは新製品のクレープと、今まで通りのクレープ、合計4種類を持って市場に出かけた。
市場は賑わっていた。
「クレープいりませんか? 新製品がありますよー」
「お、あおいじゃないか? 早速出来たのか?」
「ロイドさん!? こんにちは。はい、お礼のクレープです」
ロイドは薬草と桑の実のクレープを受け取ると、一口ずつ食べた。
「美味しい!」
「でしょ!?」
あおいは得意げに微笑んだ。
ロイドはクレープを食べ終えると言った。
「外の世界に冒険に出るときは、冒険者をやとうと良い」
「そうですね」
あおいは素直に頷いた。
「俺は冒険者の館によくいるから、声をかけてくれ」
「ありがとう、ロイドさん」
あおいはクレープを完売させると、ひとりぼろ屋に戻っていった。