「さてと、今日も良い天気だし、お客さんいっぱい来ると良いな」
クレープ屋を営む川崎あおいは、今日も元気だった。
背中まである長い髪をゴムで束ね、キッチンカーの開店準備をして、車の運転席に着く。
すると突然、あおいはまぶしい光に包まれた。
「ええ!? ちょっと何!?」
光が消えた。
あおいは、宮殿の中庭に座り込んでいた。
「召喚が成功したぞ!」
「おお!!」
なんだか中世のヨーロッパの修道士みたいな服を着た人々に囲まれている。
あおいは訳が分からないまま、ぼうっとしていた。
「さて、ステータスを確認しよう」
修道士の親玉みたいな人が、錫杖をあおいにかざした。
「ほう、錬金術師とでておる」
「勇者様は錬金術師だったのか!」
「え? 何? 勇者って?」
あおいは問いかけたが、興奮した修道士達の耳には届いていないようだった。
「それでは早速、錬金術の腕を見せてもらおう」
「錬金術? そんなもの使えませんよ?」
あおいの言葉に、修道士達は怪訝な顔をした。
「試しにあの魔法の釜で、爆薬を作って見て欲しい」
「爆薬!?」
「材料は入っている。後は魔力を集中させてかき混ぜるだけだ」
「ええ!?」
あおいは状況について行けないまま、言われるとおりに魔法の釜に入れられた棒をかき混ぜた。
すると、釜の中身がまばゆい光りを放ち始める。
「おお! 反応している!」
「え!? なんか出来てる!?」
あおいは釜の中をのぞき込んだ。
中には、ペースト状の何かができあがっている。
錫杖をもった修道士が、鑑定を行った。そして、ため息をついた。
「なぜ、ジャムが出来ている!? もう一度、顔を見せなさい」
「え!?」
あおいは言われるがまま、錫杖を持った修道士を見た。
「鑑定! ふむ、わかったぞ! 此奴が作れるものは食べ物のみ!」
「ええ!?」
修道士達に動揺が広がる。
あおいはまだ状況が飲み込めずに、立ち尽くしていた。
「そなたはどうやら手違いで召喚されてしまったようだ」
「ちょっと、人の人生を手違いで済ませないでよ」
あおいが怒ると、錫杖を持った修道士はため息をついて言った。
「よろしい。町外れの工房と、その魔法の釜をそなたに授けよう」
「え? それだけ? 元の世界には帰れないの?」
あおいは動揺した。
「そなたには十分な施しだ。分かったら王宮を出よ!」
「私がご案内します。レイスと申します」
「……私は川崎あおいと言います」
魔法の釜を抱えた見習い修道士のレイスに着いていくと、町外れのおんぼろ小屋に案内された。
「こちらが、あおいさまの工房になります」
「こんなぼろ屋、何時崩れても不思議じゃないじゃない」
「あとは、支度金として100ゴールドお渡しします」
「え、お金くれるの?」
「はい、ですが一回きりですので、よく考えてお使いください」
「はい、分かりました」
あおいは腑に落ちないまま、お金を受け取り部屋の掃除を始めた。
「あ、魔法の釜を置いていきますね」
「ありがとう……」
台所には大きなかまどがあり、魔法の釜を置くとぴったりと収まった。
裏庭を見てみると、台車が合った。
「とりあえず、市場を見に行こう」
あおいはそう呟いて、市場を探しに町へ行った。
市場はすぐに見つかった。
牛乳や小麦粉らしいものもあった。
「しかたないなあ。出来ることをしようか」
こうして、あおいはクレープ屋を開くことにした。
クレープを作る道具は、鉄のプレートや木のへらなどで代用した。
問題は生クリームや砂糖、チョコレートが売っていないことだった。
あおいは思い出した。
「確か、あの修道士、私のこと食べ物限定の錬金術師って言ってたよね」
あおいは牛乳や小麦粉、さとうきびやカカオに似たものを買った。
1ゴールドは1000シルバーだった。
買い物を終えると、1ゴールドが無くなった。
家にもどると、魔法の釜に牛乳を入れてかき混ぜた。
頭の中にホイップクリームを想像しながら釜をかき混ぜると、釜の中が光った。
「やった! 思った通りできた!」
釜の中には、角の立ったホイップクリームが満たされている。
あおいは同じ要領で、サトウキビから砂糖を、カカオからチョコレートを錬成した。
「よし! これでクレープ屋が開ける!」
あおいはチョコクレープを10個、生クリームのクレープを10個作ってかごに入れて市場に売りに行った。
「おいしいクレープ、入りませんか!?」
大きな声で叫びながら市場を歩いていると、若い女性のお客さんが来た。
「クレープ? 何それ? 美味しいの?」
「はい、それはもう」
あおいは笑顔で答えた。
「一ついくら?」
「50シルバーです」
「それなら一ついただこうかしら」
「ありがとうございます」
あおいは異世界で初めてのおきゃくさんがどんなリアクションをするか、ドキドキした。
「いただきます」
そういって若い女性は、チョコクレープにかじりついた。
「……美味しい!! 甘くて苦くて、良い香りがしてる!!」
「ありがとうございます!」
あおいはそう言って笑うと、心からほっとした。
「なに、何か新しい食べ物があるの?」
「美味しいって、それのこと?」
お客さんの声を聞いて、新しいお客さんが現れた。
「クレープと言います。ひとつ50シルバーです」
あおいはあっという間に、20個のクレープを売り切った。
「よかった、この世界でもクレープは通用するのね」
あおいはからになった大きなかごを抱えて、ぼろ屋へ帰って行った。
1ゴールドで買ってきた材料はまだ半分以上残っていた。
「もういちど市場に売りに行こうかな? でも、今日は疲れたし、もう休もうかな」
あおいはシャワーを浴びて、ほころびのあるベッドに寝転んだ。
「なんとか暮らしていけそうね」
あおいは眠りについた。
夜が明けた。
「ドラゴンが現れたぞ!」
「ええ!?」
錫杖を持った修道士が、あおいの家のドアを叩きながら叫んでいる。
「ドラゴンなんて、倒せないよ!?」
「ドラゴンの好物の、ドラゴンの実と、猛毒のキノコを持ってきた」
あおいが固まっていると、修道士が言った。
「コレでドラゴンに、毒薬を作って食べさせてくれ!」
「はい!?」
あおいは言われるがまま、魔法の釜にドラゴンの実と猛毒のキノコを入れ、かき混ぜた。
そして、クレープを焼き、釜に入っている、猛毒のドラゴンの実のジャムをべっとりと塗った。
「出来ました!」
あおいはそう言うと、家の外に出た。
そこには大きなドラゴンが居た。
あおいはできたてのクレープを、ドラゴンの口に放り込んだ。
ドラゴンは美味しそうにクレープを味わうと、その後すぐに倒れた。
「おお! さすがは勇者様じゃ!」
「私、勇者なんかじゃありません! ただのクレープ屋です」
あおいはそう言って、家に戻るとドアをバタンと閉めた。