交代時間ということで野亥がクラスの出し物へと戻ることになる。
再び一人になる神小は、とりあえずクラスの男子と一緒にまわろうと思っていたのだが……。
「神小く~ん! ヒマっすか? ヒマっすよね! 一緒にまわりましょうよ!」
「ほわあぃっ!?」
神小の驚きと共に男子達の殺意が膨れ上がり、一部のオスの動物たちも気を昂らせる。
どうやら動物界隈でも、ああいったものには敏感らしい。
一方で女子達は気ぶりになったりならなかったり、野亥はそれと反比例して冷たい視線になったり……。
野亥に午前を譲り、自分は午後いっぱい神小を連れまわせることを狙っていらのであれば致し方ない。
「……樹の下……埋める……」「……墓穴……バラバラ……」「灰……塵……」「合法……合法……!」
モテ期と死期が同時に来た神小。
"卒業"と"彼女"と"臨終"、どれが先に来るかは神のみぞ知ることだろう。
さて、そんなことがありながら神小はゆかりに引っ張られて校内を散策する。
もしここで手を繋いでいれば流れ矢、もしくは流れ包丁が飛んでくるところだが、袖を摘まんで引っ張っているのでまだセーフである。
ただし満杯になったコップの水が表面張力でギリギリを保っているだけなので、ふとした拍子に人力の事故が発生する事態には変わらない。
「ねぇねぇ! 午前中は野亥ちゃんと一緒にまわってたんすよね? なんか面白いのあったっすか?」
「あー……あんまり見てなかったから、分かんないかなぁ……」
「え~、もしかして野亥ちゃんことばっかり見てたってことっすか~?」
「たぶんそう 部分的にそう」
正確には野亥の機嫌を損ねないよう、一挙手一投足を注意深く観察していただけなのだが、ゆかりは何かを誤解したように頬を膨らませていた。
「むぅ~! あんまりジロジロ見てたらダメっすよ~!」
そう言って、ゆかりは摘まんでいた袖をブンブンと大きく振る。
傍から見れば繋いでいた手をこれ見よがしに見せつける行為だ。
ふと、神小が違和感を覚えて周囲を確認する。
陸上部が、一列に隊列を組み槍投げの構えをしていた。
もしも中世の戦争中であれば、ジャベリンの一斉投擲があったことだろう。
幸いにもここは現代なので手には何もないのだが、神小の目には槍の形をした殺意が構えられてるようにしか見えなかった。
「あー! あそことか面白そうじゃない!? ほら、あそこ!」
「わっとっと! いきなり引っ張ったら危ないっすよ!?」
神小は逃げるように適当な教室へと向かい、ゆかりもそのあとに続く。
「お~? 神小じゃん、デートか。死ぬか?」
「ナチュラルに殺そうとしないで……ってかここ何の店?」
教室には"ドッキリ! パニック! キリングルーム!"と書かれている。
どう考えても"キリングルーム"は学園祭の出し物につける名前ではない。
「あれだよ、お化け屋敷みたいなもんだよ。どうする? カップル専用難易度もあるぞ」
「いやいやいや! カップルじゃないから!」
「専用!? 面白そうっすね! やりましょうよ! せっかくの文化祭なんすよ!?」
必死に首を横振って否定する神小とは違い、むしろゆかりの方はノリノリな様子であった。
「はーい! それじゃあお二人さん、デッドマン・ウォーキング難易度でご案内ー!」
「待って! なにその難易度!? どういうやつなの!?」
「それは入ってからのお楽しみ。ほらほら、入った入った」
無理やり背中を押して教室の中に入れられる。
中は薄暗く、狭い通路になっていた。
「お、おぉー……意外と普通だった……」
「そりゃあ学園祭っすからね。いきなりホラー映画みたいに首とか並んでたらヤバイっすよ」
それもそうかと納得し、二人は通路を歩く。
だが数歩の時点で遠くから叫び声が聞こえてしまい止まってしまった。
《ギャアアアアアアアァァ!!》
「……なんか、わりとガチの悲鳴じゃないっすか?」
「ほ、ほらアレだよ……お化け役のやつがうっかりボディタッチして女子がキャーって言っちゃうやつ……」
とはいえ、流石に不安になってきたのでそっと後ろの逃げ道を確認すると……。
「フー……フーッ……!」
「ほわあああぁぁあいいいっ!?」
突如として、バットを振り上げた不審者が真後ろにピッタリとくっついていた。
「なんでなんで!? ガチ犯罪者!?」
「大丈夫! 何もしないから! 絶対に何もしないから! 何かあった時用だから!」
不審者……というより、かつて受付だった男はそう言い訳するも、どう見ても何かする側にしか見えなかった。
「あの……ほんとに何もしないんすか? 信じていいんすか……?」
「フゥー……フゥー……大丈夫……女子には、手を出さないから……!」
それは逆に言えば男には何かするという宣言にしか聞こえなかった。
「ゆかりさん、情けないけどガチで怖いからさっさと行こう!」
「ど、同感っす……これは予想よりもヤバそうっす……」
そうして二人の男女と一人の不審者はズンズンと通路を進む。
《ブォオオオオオ!!》
「うおおぉわぉ!?」
「うひゃぁっ!?」
突如、壁から無数の手が生えてきたせいで後ろに飛びのく。
その様子を不審者は冷めた目で見つつ、解説を始める。
「えー、左右に見えますは男だけを引きずり込む手でございます。ご注意ください」
「捕まったらどうなんの!?」
「捕まったら…………捕まるということです」
「だから捕まったらどうなるの!?」
頑なに答えないせいで、余計に恐怖が膨れ上がる。
なんとか壁からうごめく手に触れないよう、二人が肩を寄せ合って通路を通る。
そのせいで余計に手が激しく動き、さらに二人が密着するという負のスパイラルが完成してしまう。
無論、二人はそんなドギマギなイベントに気付いていなかった。
とにかく早くゴールしようという思いしかなかった。
それが驚かし役達の逆鱗に触れた。
あと少しでゴールというところで、手だけではなく顔まで突き破って出てきた。
《ガボボブ! バババボググゲボバゴォ!!》
それはヒトの顔というには、あまりにも恐ろしく……そして醜かった。
化粧などはしていない。
彼らはただ、嫉妬の心に狂っているだけでその顔を引き出していた。
ある意味ヒトの醜さを体現しており、芸術作品に匹敵するものであった。
「やばいやばいやばい殺されるぅ!」
「ひいいいぃぃっ!」
だがそんなものが突如として壁から生えてきたら誰だって平常心を失う。
二人は急いで通路を駆け抜け、転がり込むように出口から脱出することに成功した。
そして、そんな二人を不審者だった受付の男が冷めた目で見ていた。
「はーい、お疲れさん。楽しんでもらえたかな?」
「どこがじゃ! 楽しさの欠片もなかったわ!」
「ハァ……ハァ……ガチの怖さはヒキョーっすよ……」
「仲良くお手々つないでおいてよく言うぜ」
そこでようやく二人はお互いの手をガッシリと掴んでいることに気付いた。
「ケッ、もう来んなよ! またな!」
来てほしいのか来てほしくないのか、どちらか分からない言葉を残して男子は受付へと戻っていった
「あ、あはは~……」
神小は自分から指摘するのも恥ずかしく、困った顔をしてそのままにした。
ゆかりも困ったような顔をしながらも、手を離さずブラブラとさせていた。