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第35話:学園祭

 文化祭当日、準備中の出来事―――――


「いや~、あの時は早とちりしちゃって……よく考えたら、神小くんがそんなことするわけないっすよね!」

「そうだね、ぼく、そんなこと、しないよ」


 言葉通り優しいヒトなのか、手を出す甲斐性がないと言われているのか分からないので、神小は適当な返事で濁した。


「ところで、本当に俺当番しなくていいの?」

「はい! 今回、大事な仕事とか割り振りとか面倒なの全部やってくれたから、今日くらいは羽を伸ばして遊んでもらおうって女子の皆で決めたっす!」

「…………男子は?」

「最初はすっごい反対されてたんすけど、途中でいきなりオッケーって……なんかあったんすかね?」


 非モテの男子にとって学園祭は逃せないイベントの一つである。

 確かに神小がほとんどの段取りを整えてくれたとはいえ、それはそれとして抜け駆けは許せなかったのだが……。


「よく考えたらアイツ一人でまわっても意味なくね?」「女子と一緒に作業できるおれらの方が脈ありじゃね!?」「ピー――――」「脈ないなった!」


 ……とまぁ、こんなことがあり見逃されたわけである。


 そんなわけで、外部からのお客さんがいない初日は自由に歩き回れる時間を手に入れたのだった。

 いつもの神小であれば一人で時間を持て余すところだが、今回は違った。


「時間も限られてますから、さっさと行きましょう」


 ゆかりが気を利かせてくれたのか、それとも余計なお節介か、野亥と一緒にまわることになってしまった。


 当然のことだが、神小は女子と一緒に学園祭をまわった経験などない。

 それどころか大体のイベントは男子だけで行動していたので、エスコートなどもってのほかだ。


 もちろん、そんなことは野亥も承知済みであるので、期待はしていなかった。

 そして一番最初に二人が向かった場所はというと…………。


「な~んで、出てった矢先に戻ってきたんすか」

「だって……だって……動物好きって、聞いてたから……!」


 いきなりクラスの出し物である動物ふれあいスペースへ来たのであった。

 野亥は抗議するような視線を向け、神小はそれから逃れるようにオロオロとしていた。


「ほ、ほら野亥さん! ハムスターかわいい! やったー!」

「それ、モルモットです。そんなことも分からないんですか?」

「マジ!? ってかどっちも同じネズミってことしか知らない……」

「耳の形とか全然違います。ほら、ココとか」


 そうして野亥のネズミ講座が始まる。

 最初は渋々といった感じであったが、モルモットを触っている内にそれもなくなり、途中からは無言でエサやりをし始めてしまった。

 他にもウサギやアヒル、カピバラなどの動物も丹念に撫でまわし、結局一時間はそこで時間を潰すのであった。


「あのー、野亥さん? お楽しみのところ大変恐縮なのですが、そろそろ他の場所にも……」

「ッ!?」


 野亥が驚き周囲を見渡すと、男女ともに微笑ましく彼女を見守っていた。

 いつもの彼女からは考えられないくらい、無表情のままひたすらに動物をかわいがっている姿が珍しかったので仕方がない。


「……そうですね。ずっとここにいても邪魔ですし」


 そう言って立ち去ろうとする野亥の足元に、ウサギがすり寄る。

 その仕草があまりにも可愛く、野亥は足を止めてしまい……他の動物たちも寄ってきた。


「頑張って、野亥さーん! 可愛いのは分かるけど、なんとか誘惑を振り切ってー!」


 神小がなんとか一匹ずつ引き離し、野亥を解放する。

 囚われていた時の方が幸せそうだったのは、恐らく気のせいだろう。


 そうしてようやく二人は、学園祭本番に参加するのであった。


「野亥さん動物が好きならペット飼わないの?」


 一先ずどのクラスで何をしているのかを見る為に散策二人だったが、珍しく神小の方から話題を振った。


「はい、母さんが多分ペットロスに耐えられそうにないので。もし飼うとしたら、一人暮らしになってからですね」


 なにせ父親を亡くしてからまだ立ち直れていないのだ。

 ペットで悲しみを癒したところで、また同じ状況になるのは目に見えて分かっていた。

 そしてデリケートな答えをぶっこまれたせいで、神小が頭を抱えてしまう。

 これについては、野亥の方が悪いと言えるだろう。


「それで、神小くんは飼わないんですか? 一人暮らしですから、好きに飼えると思いますが」

「あー……ペットってお金かかるし、世話も大変だし、それに……」

「それに?」

「命を預かるのに可愛いから飼うって、なんか駄目な気がして」


 ペットから必要にされることはあれど、神小からすればペットは必要なものではない。

 だからこそ真剣に考えすぎた結果の答えだった。


「…………ごめん」

「えっ!? なんで!? お、俺の方こそごめんなさい!」


 可愛い・癒されたいという欲求が強い野亥は自分の浅はかさを恥じ入って謝り、神小はまた地雷か何かを踏んだかと思い謝る。

 ある意味、お似合いの二人であった。


 そんなことがありながらも二人は順調に構内をまわると、おかしな屋台通りを見つけてしまった。


「……なんでここ、焼きそばだけで4つも並んでるんですか」

「さぁ……?」


 異様な雰囲気を感じ取り、速足で通り抜けようとするも、店員は逃がさなかった。


「らっしゃい! 野球部はサッカー部より安いぞ!」

「サッカー部はハンドボール部よりも高いが、テニス部よりは安い!」

「テニス部は野球部よりも高いぞ、気をつけろ!」

「ヘイ! 野球部の値段は二番目に安いぞ!」  


「「「「さぁどれが一番安いかな!?」」」」

「中間が終わったのに頭を使わせないでくれます!?」


 買うまで絶対に逃がさないという意志がヒシヒシと感じられる包囲網であった。

 しかも値札を置いてないので、単純に比較することもできない。

 なんとも性質が悪い屋台であった。


「じゃあハンドボール部の焼きそばで」


 だがこの空気にのまれず、野亥はさっと安い焼きそばを注文した。


「おぉ、正解! 早いなぁ。……ところで、スマホで何してるか聞いてもいい?」

「ハンドボール部の焼きそばが一番安いって宣伝してあげてますが、何か?」

「あああァァアアア!! ネタバレ止めて!」

「もう一度問題を作り直せばいいじゃないですか。戻りますよ、神小くん」


 こうして、運動部の嘆きの声を背中で聞きながら二人はクラスのもとへと帰るのであった。

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