翌日の朝のホームルーム、通り魔のニュースもあったことで、教師から重大な発表があった。
「――――というわけで皆、二人一組を作れー」
「うっ!」「ひでぶ!?」「ぅ……ぁ……ヵ……っ!」「すいませぇん! 日本語で喋ってくださぁい!」
何人かの生徒が突然苦しみだしたり、抗議を開始する。
「まぁ二人一組じゃなくてもいいが、とにかく一人での下校は危ないから禁止。適当にグループ作るなりしてさっさと帰宅するように」
とはいえ、それで静かになる奴らではないので、教師は重要なメリットについて語る。
「モテない組、女子と一緒に帰れるチャンスだぞ。もっと喜べ」
「「「「っ!?」」」」
該当する男子生徒は互いに顔を合わせ―――――。
「ふっ、本気を出す時がきたか」「先生、家の中まで一緒に帰っても許されますよね!?」「はい死刑執行」「いい奴を……いや、悪い奴を亡くしたよ」
他にも急にメガネをクイっとしながら教科書を読みだしたり、カッコつけたるする奴らが出てくる。
もちろん、いつもの醜態を知っている女子達は白い目で見ていた。
「ちなみに別クラスの奴と帰ってもいいから、モテない組にチャンスはほとんどないぞ」
「それが担任の言うことかよォ!?」「救いは……おれらに救いはねぇのか!?」「いや待て、別クラスの女子ならワンチャン!」「それだぁ!」
教師は"無理だぞ"と言わなかった、わずかな情けであった。
どうせあとで現実を思い知るからと、放置しただけとも言えるのだが。
「そういうわけで、通り魔を倒してモテモテになろうとか考えないように。いいな、神小」
「なんで俺だけ名指しなんスか!?」
「一回成功したら、もう一回って考える奴が出るからな。いいな、神小」
「そんな念押ししなくてもやりませんって!」
「モテモテになれるとしても?」
「………やりまぁ~~~~~~~っっせん!」
ギリギリまで溜めてから、苦痛を堪えるように否定する。
以前のように≪催眠アプリ≫を使えば一発で相手を倒せるとはいえ、どうしてもリスクを考えると無茶できなかった。
もしも≪催眠アプリ≫での成功体験を積んでいたならば、迷いなく使っていただろう。
万能の力による成功体験は、麻薬よりも性質の悪い依存性を引き起こし、それ以外の手段などを考えられなくするからだ。
「モテない男子組もアホなこと考えないようにな。神小もやるなよ、フリじゃないからな」
「だからやんないですって!」
「よしんば、トップアイドルが襲われてて、助けたら熱愛関係になれるとしても?」
「や、やぁ………やりまぁ~~~………うううぅぅ…………すぇん!!」
限界まで引っ張り、断腸の思いで否定する。
アイドルは男子の夢なので、致し方なかった。
もちろん、それを見ていた一部の女子……野亥はじと目を向けていたが。
そして帰りのホームルームを終えて帰宅する頃、神小は勝利を確信していた。
何故なら他のクラスメイトとは違い、前に野亥と一緒に下校したという実績があったからだ。
「いや、私は――――」
「一人はダメだって言われたじゃない」「帰ってくれないなら大変なことになるよ?」「後ろにピッタリくっついて一緒に帰る」「女王様みたいに見られるね~」
野亥は押しに弱いわけではないのだが、少し前に神小を誘ったことで隙があると思われてしまい、女子からの押せ押せの勢いにたじろいでいた。
「……面白いこととか、期待しないで」
「やったー♪」「大丈夫、勝手にこっちで面白いことしてるから」「全然まざっていいからね」「なんなら何もしなくてもそれだけでオモロイから」
こうして神小の頼みの綱は千切れてしまった。
だが、まだ望みはあった。
催眠仲間……というと大きな語弊があるが、ゆかりであれば、以前の事件の縁から土下座しながらお金を渡せば一緒に帰ってくれると考えていたのだ。
「それじゃ、あたしは隣のクラスの皆と帰るっす! みんな、また明日~♪」
幸せの青い鳥は飛び去った。
手を伸ばしたが、今から追いかけたらストーカーとして通報されそうなので伸ばしただけだが。
「くそっ、寝取られたああああぁぁぁ!」
「寝てから言え」「寝言だしな」「おやすみ、勘違いくん」「こいよ、クレバーに抱きしめないでブン投げてやるぜ」
結局のところ、いつもの流れに帰結するのであった。
そうして学校から帰る途中、下校する群れにはカップルらしき二人組が多く見受けられ……男子達は嫉妬で狂うのだった。
翌日、新たな被害者が報道された。
まだ中学生であった。
犯人はまだ捕まっていない。