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第14話:無能の働きと前兆

 神小は考えていた。

 ここで野亥さんとその家族についてフォローすれば好感度が上がるのではないかと。

 だがら必死に頭をひねり、ねじり……1080ほど回転させて結論を出した。


「というわけで……≪催眠アプリ≫で何とかしたいので、どうすればいいのか教えてください!」


 放課後の教室……そう宣言した神小を、全員が信じられないような目で見ていた。


「あちゃ~……それ、あたしに喋ったらダメなやつじゃないっすか?」

「へ? でも催眠解けたら忘れてるし問題なくない?」


 それを確認するように、野亥の方へ顔を向けると――――。


「……………ッ!」

「ひぃっ!」


 射殺すような視線を受けて、反射的に後ずさる。


「はいはい、どうどう。かわいいお顔が台無しっすよ~? つんつん♪」

「……ちょっと、そんなに触らないで……」


 二人のイチャつきを見て、神小は両腕を組みながら深く頷く。

 これくらい図々しくなければ、生き残れなかったことだろう。


『そもそも、そっちの女は助言役だろう。お前がどうこういう筋合いはない』

「人様の家庭の問題に他人が口出すのは良くて、当事者は口をはさむなとか、何様なのか教えてもらっていいですか」

『…………』


 開発者は何も言えなかった。

 あとついでに神小も流れ弾に被弾していた。


「ちょ~っと言葉が強いっすけど、あたしも野亥ちゃんに同意見すね~」

「止めてくれ、ゆかりさん。これ以上、正論神拳を叩きこまれたら死んでしまう」

「いやいや、そんな殺傷力が高い言葉は使わないっすよ」


 ここに審判は存在しない。

 ダウンしてもレフェリーストップがない以上、死ぬまで……死んでも正論で殴り続けられる可能性は十分にあった。


「何とかしてあげたいって気持ちは、あたしも同じっす。だけど、自己満足な優しさは逆に迷惑なだけっす。人の気持ちを考えないと」

「ふぐっ!」

「今はあたしも神小くんも何もできないし、しない方がいいっすよ。ぶっちゃけ邪魔っす。嫌われていいなら止めないっすけど」

「こぶらっ!?」

「……もしかして、毒あるやつの名前を叫んでる?」

「るくせんぶるく」

「どうして急に国名が出てきたんすか」


 無論、何も考えないからである。

 正論をまともに受け止めると死ぬ、だからこうやってダメージを受け流して生きてきたのがこの男だ。


 そしてその防御を貫通できるのが野亥である。


「……人の話もまともに聞けない人が何かしようだなんて、おこがましい。まだ雑草の方が酸素を生み出してる分、生きてる価値がありますね」

「ぷりおんっ!?」


 敗因は緑葉素を持たないことだった。

 持っていても勝てたとは限らないが。


「ほら~、いじけない、いじけない。こういうデリケートな問題は、時間がかかるもんっすよ。あたし達にできるのは、野亥ちゃんを信じることっす!」

「………まぁ、何かあったら相談するくらいはします。二人とも、今はそれで納得してください」


 これは"いざという時は頼りにする"するという、野亥なりの信頼の言葉だ。

 それに気付いたゆかりは、嬉しそうな顔を向けた。

 気付かなかった神小は、床でいじけていた。


「…………あれっ?」


 だからこそ、誰かがこちらに気付いてくる足音に気付けた。


「やばい! 誰か来る!!」

「えぇっ、誰って……誰っすか!?」

「足音がかわいくないから男なのは確実!」


 足音だけで性別を判別するその異常さに、ゆかりはちょっとだけ引いた。


「と、とりあえず催眠を解かないと!」

『待て、小僧。いま解いたとして、バックストーリーは用意してあるのか!?』


 今ここで野亥とゆかりの二人の催眠を解いた場合、何故か三人で放課後の教室に集まっていた状況となり、必ず不信感を持つことだろう。


「じゃ、じゃあどうすればいいの!?」

『この女の時のように、教室に入ってきた奴を催眠して帰せばいいだろう』

「そんなポンポン使ってたら、いつかバレるって!!!!」


 そうやって言い争っている間も、足音は徐々に近づいてくる。

 全員が必死に考えている中、珍しく神小が妙案を出す。


「そ、そうだ! 教室にカギかければ!」


 教室のカギをかければ入ってこれない。

 よしんば不審に思われて無理やり入ってきても、時間は稼げるとふんだのだ。


 善は急げと言わんばかりに、神小は慌てて扉へと向かう。


「きゃっ!」

「あっ……!」


 だが急ぎすぎたせいでぶつかってしまい、机やイスと一緒にゆかりと野亥が転んでしまった。


 その音を聞きつけ、足音の主は速足で歩き教室の扉を開けたのであった。


「おーい、派手な音がしたけど何があった?」


 ガラリと扉を開け、入ってきたのは担任の教師であった。

 教師は慌てている神小と、その近くでくんずほつれつと倒れている野亥とゆかりを見つけてしまった。


「ち、違うんです先生! やましいことなんて何も!」

「神小、お前………」


 もはやここまでかと、神小は≪催眠アプリ≫を用意する。


「なるほど……そういうことか。先生は、二人が真剣ならそれで良いと思う」

「………へ?」


 どうやら、野亥とゆかりが女同士の……そういう関係であると勘違いしたようだ。

 流石に風評被害がひどいので、野亥が弁明しようとする。


「あの、先生……普通に転んだだけで、何かあるわけじゃ……」

「あぁ、そういうシチュか? うんうん、先生はそういうのにも理解がある。ちゃんと秘密にする、約束しよう」


 ある意味、教師としては大丈夫ではない発言だったのだが、下手に藪を突いて変なものが出ても困るので三人共スルーすることにした。


「そして神小………お前がその二人の間に入るというなら、先生はお前を伝説の樹の下に埋めなければならない」

「あの伝説って、曰くつきのやつなんスか!?」


 どうやら神小はお邪魔虫だと認識されているらしく、下手をすれば駆除されるところだった。


「――――っと、そんなことはどうでもよくてだな。教室に残ってるのはお前らだけか?」

「そうですけど、何かあったんスか?」

「実はさっき警察から連絡が来てな、近くで通り魔が出たらしい」


 通り魔という単語で、ゆかりがわずかに顔をひきつらせてしまう。


「あぁ、橋渡は怖いよな。そういうわけで、念のために校舎に残ってる生徒は教師が車で家まで送ろうって話になったんだ」


 一先ず、≪催眠アプリ≫やもっと大きな問題ではなかったことに神小達は安堵した。


「神小は……むしろ手柄首を取りたいだろうし、徒歩でいいか?」

「その時は、教師が女子生徒二人を車に連れ込んだって警察に連絡するんで」

「馬鹿野郎! 教師が手を出すわけないだろう! 後ろの席でイチャイチャしてくれればそれで十分だ!……録音くらいなら合法だよな?」

「おまわりさーん! ここに通り魔よりも危ない奴がいまーす!!」

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