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第11話:モテ期、そして終末

 翌日、神小はウキウキしながら学校へ登校するほど気分が上がっていた。

 今まで恋愛面で全く頼りにならない開発者しか相談相手がいなかったのだが、強力な……それも可愛い味方ができたからだ。


 そして、その気分は学校に来てから数時間で冷水をぶっかけられたかのように落ち込むのであった。


「ナァー! 神小ってやつ、どいつ~?」


 別のクラスや学年から人がやってくること、これで五度目である。


 朝、全校集会にて以前の事件に関することが説明された。

 危険な場所には近寄らない、何かあったら警察に任せる。

 当たり障りのない注意喚起ではあったが、わざわざ全校集会をするほどの事件なのだと生徒たちが認識してしまったのが問題だった。


「ナァ、ナァ! 一発で大人をノしたんだろ? ボクシングやろうぜ! 今からでも大会間に合うって、マジで!」


 "アイツ調子にノってっからワカらせてやろうぜ"という男子はいなかったが、話題の中心人物ということでちょっかいをかけてくる生徒たちが後を絶たなかった。


 最初こそ丁寧に対応していた神小だったが、流石にもう辟易としていた。

 それを助けてくれたのが、クラスの男子達であった。


「へぇー、ボクシングってカッコイイっすね!」「やっぱモテるんすか?」「大会でも結果出してますもんねぇ!」

「オウ、モテるモテる! ボクシングしたら、すぐに彼女できるって!」


 まずは相手に花を持たせるように、話を盛り上げさせる。


「そりゃあスゴい!」「じゃあユーもガールフレンドがいるんですよネ」「そりゃ当然だろ?」「ボクシングやっててモテないとかないっしょ!」

「えっ!? お、オウ! いるに決まってんだろ!?」


 しかし、これこそが罠であった。


「あ、不純異性交遊っすね」「担任に連絡しときます」「あーあー、カワイソウに」「推薦、なくなっちゃうね……?」

「スマン! 嘘だ! だから担任には言わないでくれッ!」


 モテる部活ならば女子と付き合ってるはずだと誘導する。

 いないと言ったならばお祈りメール、いるなら通報という極悪コンボであった。


「おう、帰れ帰れぇ!」「今後のご健闘をお祈り申し上げます」「さようならぁ!」「今度は女子マネ連れてきてください!」


 こうして、神小への負担をクラスの男子達が肩代わりしているのであった。


「すいませ~ん。神小くんって、いますか?」


 もちろん"今までパっとしなかった男子が実は強かった"という噂を聞きつけて、興味本位で女子も訪ねてくるようになったのだが……。


「はい、はい、はーい!」「そいつは違う! おれが神小!」「元祖・神小です、よろしく!」「こいつら偽物です! 騙されないで! 真・神小は僕です!」

「あっ………その、なんでもないです……失礼しました~……」


 クラスの男子達がそれを許すはずもなく、女子生徒はヤバイ奴らから逃げるように去っていった。


「……ありがとう、お前ら。俺、涙が出そうだよ」

「へっ、気にすんなって」「おれたち、仲間だろ?」「お前の純潔は、俺たちが守る!」「それはちょっとキモい」


 モテない同盟男子達による熱い絆は、呪いの装備と化していた。

 ちなみに抜け駆けしようとしたら、お互いを繋ぐ絆の紐が絞首台のロープに早変わりする。

 ままならないものである。


 スマホで"こいつらを消す方法"を検索していた神小の目に、ゆかりの姿が入る。

 申し訳なさそうに、両手を合わせて謝っていた。


 学校も警察も、神小が関与していたことは公表してない。

 助けられた彼女が、ハイテンションでグループ宛てにメッセージを送ったせいだった。


 もちろん事情聴取のあとに学校から口外しないようにと言われて同じグループに秘密にするようお願いしたが、秘密が大好きな女子にとっては噂を拡散させる燃料にしかならなかった。


 こうして神小は、意図せず一躍学校の有名人となってしまう。

 ただし、彼が求めているものとは全くの別物なのだが。


 とはいえ神小もゆかりが悪いとは思っていない。

 軽く手を振り、気にしていないとアピールすると、ゆかりが笑顔を向けてくれた。


 そんなやり取りを見ていた野亥が急に席を立ちあがり、神小の机へとやってくる。

 周囲は一触即発の雰囲気を感じ取り、一斉に距離をとった。

 男の熱い友情も、絶対零度のプリンセスの前では燃えカスにしかすぎなかった


 いったい何を言われるのか、どんな言葉攻めがあるのかと戦々恐々としていると……。


「今日の放課後、付き合ってもらっていい?」

「ハイ! ヨロコンデー!…………はへ?」

「ん……じゃ、またあとで」


 反射的に肯定したものの、彼女の言った内容が飲み込めずにフリーズする。

 そして――――。


「「「「「ええええええぇぇぇぇ!?!?」」」」」


 クラスの全員が、驚きの声をあげる。

 今まで野亥から男子に話しかけることなどなく、しかも放課後に誘うことなど天変地異よりも異常な事態であった。


 ガヤガヤと騒ぐ外野はさておき、脳みその再起動が完了した神小はようやく何が起きたかを自覚した。

 ≪催眠アプリ≫を使用した時は何度も会話したが、何もない状態では初めてである。


 恐らく人生初となるラブコメっぽいイベントに、神小の鼓動は激しいビートを刻んでいた。


「おう、コモノくん?」「ちょっと話があるんだ」「話だけだから口しか使わないと約束しよう」「歯はセーフだよな」


 そしてその鼓動は、間もなく止まるということを理解してしまった。

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