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第25話


 何とかマンションに辿り着いたものの、奈央の部屋のインターフォンを何度鳴らしても応答がない。


 もしかして出掛けているのか?


 気持ちが焦り、インターフォンを何度も押してしまう。

 悪戯かと疑われてもおかしくないが、『頼むから家にいてくれ!』という切実な願いが、ピンポンダッシュをせずにはいられない。


「うるさい! バカ教師!」


 突然、勢い良く開いたドア。そこには怖い顔をした奈央がいて、開口一番雷を落とされた。


「奈央が出るの遅いからだろ」

「トイレ入ってたの」

「便秘か?」

「さようなら」


 声を低くした奈央にドアを閉められそうになり、慌てて手で押さえる。


「待てって! 悪かった。下痢だったか?」


 今度は無言のまま、凄い力でドアを閉めようとするが、何とか隙間に足を割り入れ、痛みと引き換えに阻止には成功した。


「ちょっと何なのよ」

「いいからこれ持ってろ!」


 チキンとケーキとシャンパンが入った袋を無理矢理奈央に押し付けると、ポケットに忍ばせていたものを取り出して、その紐を引っ張った。


 パンッ!  と、乾いた音が響き渡り、色とりどりの紙テープが玄関先に飛び散る。

 驚かしたつもりなんだが、残念なことに奈央の表情はピクリとも動かない。


「敬介、何がしたいの? 近所迷惑なんだけど」


 一段と怖い顔をして睨む奈央に、このフロアには俺とお前しかいないんだが、という口答えは、2回目の落雷被害を避けるために呑み込んで、勝手に靴を脱ぎ捨てる。


「奈央~、クリスマスパーティーするぞ~」


 そそくさと部屋の中へと入って行く俺の背中には、冷たい視線がビシバシと飛んでくるのを感じるが、気にしたら負けだ。


 それに、奈央の塩対応にも良い加減慣れてきた。何より酒の入ってる俺は、普段よりも気がでかくなっている。諦めろ。


「あ、やっぱお前勉強してたのかよ。今夜はもうダメー。勉強終了!」


 リビングに入るなり、机の上にあった開いたままの問題集やら参考書を見つけ、勝手に閉じては棚へとしまう。その様子を壁にもたれながら怪訝な目で奈央が見つめている。


「勝手に決めないでよ」

「そう言うなって。折角、色々買ってきたんだから、付き合えよ」


 呆れて言葉も出ないのか、もたれ掛かったまま動かない奈央から持たせていた荷物を奪うと、それらをテーブルに並べ始めた。


「ほら、ボケーッと突っ立ってないで、お前も座れ。あっ、その前にシャンパングラスってあるか? なきゃ何でもいいから、持って来いよ」


 壁に預けていた体をお越した奈央は、グラスを取りに行くかと思いきや、無表情でソファーに移動し腰を下ろす。


 足を組んでこちらを見る奈央は、さながら女王様のような貫禄だ。ここは、お姫様みたいな可愛らしさを、ちょっとでも良いから出して欲しいところだが、生憎と顔にさざ波一つ刻まない。


「敬介って、クリスマスとかではしゃぐタイプの人だったの?」


「だよなぁ?」


「だよな、じゃない。私が訊いてるの」


 それでなくても機嫌は低空飛行なのに、俺のとぼけた切り返しがお気に召さなかったのか、細められた視線はどこまでも冷ややかだ。


「いや、俺もビックリ」

「⋯⋯」


 そんなに怒んなよ、と目で訴えたが効果はなし。

 何とか空気を変えようと、まだ持っていたクラッカーを鳴らしてはみたものの、反応無しの奈央の前では弾けた音がやけに虚しい。


「俺だってクリスマスなんて興味なかったよ。でもな⋯⋯、」


「なによ」


「⋯⋯楽しいんだわ、俺も。お前といると」


「⋯⋯」


 言ったはいいが、羞恥心が半端じゃない。何も反応されなければ、尚更だ。

 居たたまれずまた『アレ』を取り出す。


 パン! 


 乾いた破裂音は、ラスト1個のクラッカー。

 沈黙を打ち破りたくての行動だったが、やっぱり奈央は微動だにしせず瞬き一つしやしない。


 ああ、もう! と髪を搔き回し口を開く。


「だからな、お前とならクリスマスパーティーも楽しめるかと思ったんだよ。それにお前、あんま一人でいることに慣れんな!」

「⋯⋯」


 羞恥塗れの俺の勇気をことごとくスルーしやがって。いつまでそうやって黙ってるつもりだ。こうなったらもう開き直りだ。


「いいからお前は俺と楽しめ! それとも何か? 文句でもあんのか?」


「あるわよ」


「っ!」


 開き直りは直ぐに撃沈。身が縮こまる。


 喋ったと思ったら、文句のオンパレードで俺を追い詰める気か?

 何を言われるんだ、俺は。


「な、何だよ」


「さっきからうるさい。無駄にクラッカー鳴らさないでくれる?」


「奈央がいつまでも黙ってるから悪――」


 話の途中なのに、奈央がいきなり立ち上がり背を向ける。


「奈央、コラッ! お前どこ行く気だ!」


 立ち止まった奈央は、俺を見ずに無愛想に答えた。


「シャンパングラス、いるんでしょ?」

「へ?⋯⋯お、おぅ」


 何を言われるか構えていただけに、気の抜けた声を漏らしてしまう。


 全く可愛げのない女だ。ミニスカサンタとは大違いだ。俺が誘ってんだから、少しくらい喜んだっていいじゃねぇかよ。


 一人悪態つきながらも自然と緩んでしまう頬は、どう頑張っても抑えることは出来なかった。

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