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第40話

 遡ってデンが元禄時代から盗んだ花伝書の行方はというと……。


 クエスト忠臣蔵を終え、急ぎ自宅へ戻るデンちゃん。メディエを抜け出るまでは心臓が苦しいほど胸を叩いた。興奮冷め止まぬまま部屋に駆け込むと、障子の目を気にするようにゆっくりと本を取り出す。


「え?」

 デンちゃんは思わず大声を上げる、何故なら……


「違う!!」

 明らかに新しい紙。現代の製本。何が起きたのかデンちゃんには分からない。バッグを逆さまにして荷物を全部ひっくり返してみても、花伝書はない。


「花伝書は?!」

 違うと分かっていながらも乱暴にページを捲る。するとそこには見覚えのある字と、お世辞にも上手とは言えない可愛らしい絵が……。


「ナミちゃん…………」

 吐いた息程重い気持ちではなかった。それは『時代法』に怯えていたデンちゃんの心の重荷……がっかりよりもホッとした方が大きかったことを意味する。

 ナミは知っていた。デンちゃんの様子が違うことを。デン家の事情を。だからナミは密かに花伝書をすり替えたのだった。


 女の子らしい少し丸い文字でこう書かれている……


【ゴメンね、デンちゃん。勝手なことしました。デンちゃんが悩んでいるのは分かっていました。だからデンちゃんに断りもなくランちゃん先輩に相談したんだ……】

【ランちゃんから教わったことを書くね。赤穂浪士はやっぱりホントは47士なんだって。萱野 重実かやの しげざねって人がいて、重実さんを心配するお父さんに他家へ仕官を強く勧められて、赤穂のみんなや浅野さんへの忠義とお父さんへの孝行との間で板ばさみになった人です。親にも他言できない仇討ちの約束だったから】

【苦悶した重実さんは、主君の月命日を自分の最期の日と決め、京都の山科の大石さんに遺書を書いて切腹しちゃったんだって】

【デンちゃんもお父さんを想う気持ちで早まらないで欲しい。重実さんのお父さんだってこの結果は望んで無かったと思うし、このことでお父さんも苦しむことになると思う】

【だからゴメンね】


 ナミが一生懸命写したのだろう、花伝書の図柄がページいっぱいに描かれていた。デンちゃんはその絵を全て丁寧に見たのなら、『大事な物入れ』にそっとしまった。ところどころインクが滲んでいたのはきっと、ナミの涙であろう……。



 * * *



 イイネ様が言っていた『死んだ方がましなのさ』、鎌倉時代の信仰が酷く短慮に思えた。だから……源義経にも、ここで自刃を立てさせるわけにはいかない、そう決意するのだった。


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