遡ってデンが元禄時代から盗んだ花伝書の行方はというと……。
クエスト忠臣蔵を終え、急ぎ自宅へ戻るデンちゃん。メディエを抜け出るまでは心臓が苦しいほど胸を叩いた。興奮冷め止まぬまま部屋に駆け込むと、障子の目を気にするようにゆっくりと本を取り出す。
「え?」
デンちゃんは思わず大声を上げる、何故なら……
「違う!!」
明らかに新しい紙。現代の製本。何が起きたのかデンちゃんには分からない。バッグを逆さまにして荷物を全部ひっくり返してみても、花伝書はない。
「花伝書は?!」
違うと分かっていながらも乱暴にページを捲る。するとそこには見覚えのある字と、お世辞にも上手とは言えない可愛らしい絵が……。
「ナミちゃん…………」
吐いた息程重い気持ちではなかった。それは『時代法』に怯えていたデンちゃんの心の重荷……がっかりよりもホッとした方が大きかったことを意味する。
ナミは知っていた。デンちゃんの様子が違うことを。デン家の事情を。だからナミは密かに花伝書をすり替えたのだった。
女の子らしい少し丸い文字でこう書かれている……
【ゴメンね、デンちゃん。勝手なことしました。デンちゃんが悩んでいるのは分かっていました。だからデンちゃんに断りもなくランちゃん先輩に相談したんだ……】
【ランちゃんから教わったことを書くね。赤穂浪士はやっぱりホントは47士なんだって。
【苦悶した重実さんは、主君の月命日を自分の最期の日と決め、京都の山科の大石さんに遺書を書いて切腹しちゃったんだって】
【デンちゃんもお父さんを想う気持ちで早まらないで欲しい。重実さんのお父さんだってこの結果は望んで無かったと思うし、このことでお父さんも苦しむことになると思う】
【だからゴメンね】
ナミが一生懸命写したのだろう、花伝書の図柄がページいっぱいに描かれていた。デンちゃんはその絵を全て丁寧に見たのなら、『大事な物入れ』にそっとしまった。ところどころインクが滲んでいたのはきっと、ナミの涙であろう……。
* * *
イイネ様が言っていた『死んだ方がましなのさ』、鎌倉時代の信仰が酷く短慮に思えた。だから……源義経にも、ここで自刃を立てさせるわけにはいかない、そう決意するのだった。