もう一つ皮肉なことがある。それはデンちゃんが作るロボットにはナミの父親の技術が必要だった。
ナミの家の
しかしデンちゃんのロボットのおかげで、ナミの家の技術は日の目を見る。
「デンよ……世話になっといてあんまり言いたかねーけどよ……伝統とか
ナミの家に行くとデンちゃんは、ナミの父親にそう言われたものだ。デンちゃんの父親は華道の家元として地に落ちた。弟子は離れ、ついには自身の生涯を懸けた作品を手掛けるのを止めた。その描いていた構想を、情熱をかけ探し求めていた数々の花を、その思考をやめた。
そんな父に社会は、優しい手など差し伸べたりはしなかった。
だからデンちゃんは歴史を変えたい。父の作品が完成する未来へと。並行して自身の作ったロボでナミの工場の技術が認められた過去は変えずに。
歯車が少し変われば実績だけを残して、良い未来に代わることはできないのであろうか?
世界にはこれを変えることができるパワーが存在している。それがこの世界の常識なのだから。
***
「一張一弛に生きようとしても、緩めてしまうことの恐怖が疲弊させ、逆に張れない者は叩かれる」
ネガティブシンキングが飛び交う。場がどんどん平泉の闇夜に侵されていく。周囲のポジティブは時にハラスメントとなる、強要されるものではない。『頑張れ、頑張れ』と言われ続けるのも時に苦しいけれど、ネガティブはポジティブよりも伝染しやすい。
「でも死んじゃダメだよ」
それでもナミはそう言わない訳にはいかない。誰かが、否定しなければいけない、そう思ったからだ。
「じゃあ、なんで生に拘るんだい?」
今までずっと黙っていたイイネ様が口を挟む。イイネ様たちはナミたちの口添えでここ、平泉に居る。静御前を一緒に助けたことで、郷御前と義経も気を許したようだ。
「『なま』じゃないだすよ」
「決してイヤらしい話ではないガス」
勿論エモもバズもいる。そして文じゃなければ成り立たないボケをかましている。
「この時代の信仰は念仏・題目を唱えれば誰でも救われる・極楽に行けるんだ、死んだ方がましなのさ」
イイネ様は、まるで義経がこのままここで歴史通りに最期を遂げる方が良いかのように続ける。クエストは未達でも良いのだろうか、その真意が読めない。
衣川の戦いは、もう迫っている……。