「母と別れ兄弟と別れ、周りには平氏の者しかおらず、友などいなかった。だから天狗に武芸を習った。見返してやりたかった、だから兵法を必死に勉強した」
義経がゆっくりと話し出す。下戸の義経は少し酔っているようでもある。皆がその言葉に耳を傾ける。
「思えばたとえ生まれ変わろうとも、もう一度自分になりたいとは思わない。そう思うのは極僅かな勝ち馬に乗った者だけだ。周囲の理不尽に抗えず、世に出たところで、それは何一つ変わることはない。この幾年か耐えに耐えてきたけれど、居場所など無かった」
大きく吐いた息、夜はまだ少し肌寒いけれどもう白く濁らない……その存在を示すこともできずに溶けた。
「生きるっていうのは誠に苦しいことよ」
誰も言葉を挟む者などいない。ただ一つの星だけがその間を割って流れた……。
「希望は心の
きっとユリウス暦1051年の前九年の役の頼義の衣川の合戦、それと後三年の役の頼義の長男・源義家⦅* 八幡太郎義家⦆と清原清衡⦅* 藤原清衡⦆から今に至る、100年に渡る縁を義経はこの地に感じていたのだろう。
義経は死を覚悟している。やはりここ平泉が義経の終焉の地となるのであろうか次の言葉を見守るしかできない。
「失望したのだ、だから舞台からもう降りようと思う」
◆◇◆◇
「今僕たちが生きてる世界と変わらないんだね。手柄を奪い合ったり、
藍もそれを悟っているかのように呟いた。シーカーたちだけになったこの一刻。イイネ様はバズの膨らませたボールをクッションのようにして寛いでいる。
「社会は失望したした者に優しくできていないんだよね」
デンちゃんの父親は華道の家元だ。以前は大勢の弟子たちがいて、デンちゃんらが生きる現在まで古き良き日本文化を伝えてきた。しかしこの時代、華道なんてものは道楽みたいなものとされ、その道は、その心は『食うに足らぬ夢想』とされ、年を追うごとに衰退していた。
***
「華道がもっと広まるように、俺もなにかできることをするよ」
「そうか、デン、父さんも今、生涯をかけた大作を発表しようと頑張ってるんだ。これは華道の歴史を変える程の超大作だ。見てろよ!」
デンちゃんは純粋にその気持ちを、ただ本当に華道を広めたかった……そしてデンちゃんは得意の機械工学からAIなどを駆使して一つの傑作を造り上げた。
「見て見て父さん! このロボットは父さんの過去の全作品を学習させたんだ」
そこには作品が一つ置かれていた。生けこみに要した時間は20分だという。
「これは……?」
「この間、父さんに協力してもらったモーションキャプチャで、生ける力の加減や鋏の入れ方、その他の所作まで学習させて生けさせた華さ! よくできてるだろ?!」
華道は花を通した想像力と感情の創造である。正解は存在しない。また完成もない。プロセスを愉しみ花とその時間を調和して世界を創る。
「こんなものは華ではない」
デンちゃんの父はバッサリ切り捨てた。
しかしこのロボットが生けた花は世間の目に留まり、注目を集めた……。