西国に向かう一行は、大物浦からの船旅で暴風に遭い転覆して散り散りになって再び港に戻ってきてしまう。一行は仕方なしに天王寺で耐え凌ぐ。
すでに後白河法皇が頼朝に『義経討伐』の院宣を出していたため、京に戻ることはできない。
「船が壊れた今、もはや九州で再興することは叶わぬ。なれば陸を逃げねばならぬ。足手まといはごめんじゃ、みんな散れ!」
「
「あーもう、うっとおしい。お前らみんな国へ帰れっ!」
この逃避行の中、義経の周りには数十人の妾がいたが、義経は静御前一人を残して、あとは親元へ帰した。
そして義経は吉野山へ向かう。すでに一行は世話役以外には義経、武蔵坊弁慶、源有綱、堀景光、静御前ら数人にまで減っていた。
さらにこの吉野山で追手に囲まれた一行は、諦めかけた義経を逃がし、自らは荒法師・
頼朝に会うため黄瀬川宿へと、奥州から義経の常に傍らに参じていた佐藤兄弟もついにこの吉野山で別れ、その後、逃避路を見届けることなく討ち死にしてしまう。⦅* 兄・継信は屋島の戦いで討死⦆
義経は吉野山から大峰山を越えようする、しかし大峰山は女性禁制の山。
「静……。しばしお別れだ」
「お別れしとうございません」
「許せ、静。ここまで共をさせておきながら……奥州に着いたら必ず呼び寄せる」
義経と静御前はここで別れることになる。静御前は義経秘蔵の手鏡と初音の
二人は山彦が響くほど互いの名前を呼び続ける。2人の熱を帯びた言葉が山を揺るがせ雪を溶かし、山中の斜面を覆う白は山肌を見せる程の切ない別れ……。見つめ合った顔を離さぬままそれでも2人の間は離れていく……。これが今生の別れとなることを知る由もない。
義経は静御前が安全に山を下りられるように供をつける。ここまでついてきてくれた従者に信頼を置いていた。しかし、山を下りる途中で、供の者どもが静御前から金品などを奪って逃げてしまう。
恐らく彼女の悲劇の始まりはこの、義経からの『別れ』であったに違いない。義経は鬼一法眼から『六韜』を得るために女2人を騙し失意させる悪党だが、それでも義経を想う静の気持ちは捨てて置けない。
「ダメもとでもいいから、ここで静御前を助けよう!」
ナミたちは静御前の行く末を知っている、歴史を知っている。だからこの後捕まって鎌倉送りになるのは分かっている。そのおかげであの、鶴岡八幡宮での法楽、歌と舞が披露されるのも分かっている。それでも……
『よし野山 みねの白雪ふみ分けて いりにし人のあとぞ恋しき
しづやしづ 賤のをだまき繰り返し 昔を今になすよしもがな』
【吉野の山の白い雪を踏み分けて隠れていったあのお方の跡が恋しい
静、静と呼ばれていた昔⦅
今ならまだ追いかけられなくはない。まだ戻れるかもしれない。静御前がこの先行く道は吉野の山より厳しい。
由比ヶ浜での悲劇だって……。
独り何とか蔵王堂に辿り着いた静御前は、義経捜索隊である吉野衆徒の僧兵達に見つかってしまう。義経が都落ちした1185年10/29から僅か1か月も経たない11/17のことだった。
「そこに居わすは、静御前であらせるか! 豫州殿⦅* 義経⦆はどこぞにあるや!」
声に、下ろしたばかりの腰を浮かせて発とうとする静。その前に素早く回り込む吉野衆。
「逃げて! 義経さんを追って!」
立烏帽子に白の水干、
「なんだ貴様らは! 鎌倉殿の命に逆らうつもりか!」
薙刀の間合いからはまだ遠い僧兵らは、邪魔立てする声に向かって礫を投げつけてくる。それをナミは手にした鉄扇で払いのける。
今回からは新兵器である。十手術にもある鉄扇を採用。今回のクエストに装備申請したところ、ナミの白拍子衣装に扇は付きもの、さっそく役に立った。
この鉄扇はただの鉄扇ではない。扇には空気の吸い込み口が備わっていて、ベルヌーイの定理による少量の空気を高速で動かすことで風を増幅する。
そしてナミの鉄巻ヨーヨーが僧兵たちの足元に突き立つ! その鉄巻ヨーヨーも今回からは改良版、超高熱線版巻使用となっている。突きたったヨーヨーが表面の雪を溶かし、地中の水分を蒸発させ煙を上げる。弁慶でさえ進むのを躊躇うのではないかというほどの視覚効果だ。
そこへイイネ様パーティがナミたちの援護に加わった。
「イイネ様?! どうして??」
「あたいたちも御前らが不憫で、このまま黙ってるなんてできやしないよ!」
イイネ様の鞭が唸る。
「バズ、『爆音』は使うんじゃないよ。雪崩が起きる」
「アイアイ」
バズがピコピコハンマーを振りかぶったのなら、イイネ様がナミらに指示を出す。
「みんな、目を閉じな!」
ピコピコハンマーがその可愛い音色を立てたのなら、閃光が弾ける。そしてその光を直視してしまった者は、目が眩み足元が定まらない。
幸運にも光を避けた幾人かの僧兵が接近戦を挑んでくる。
ナミよりも前に出て、最前線にて僧兵たちの薙刀を受けるはデンちゃんの新十手。こちらは
一方イイネ様は鞭の内側に入られてしまったら分が悪い。僧兵の薙刀がイイネ様に襲い掛かったのなら、エモの棍の先のボールが瞬時に膨らむ。球体は薙刀に切られて弾けたが、その弾力性のある球は薙刀の 一振りを妨げるには十分である、エモのガラス吹きのような棒は棍だ。怯んだ隙をついてエモの棍が僧兵を突く。
「なっ、何だお前たちは!」
妖術にも思える業物に臆した僧兵たちは慌てて逃げ出した。それをバズ、エモがしばらく追撃し威嚇する。
静御前が捕まることを防いだナミたちだが、冬の吉野山に身籠った身体で隠れ住むことは酷であり、静御前を無事に京にある母・磯禅師のところまで送り届けることにした。
「これは悲しい恋物語だよ……」
イイネ様もそう呟いていたのがナミの心にいつまでも残る。