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第33話 静御前

 源義経。牛若丸とも九朗とも、遮那王でも有名だ。天狗の武を体得し、『太公望兵書』を諳んずる義経は治承・寿永の乱以後、一ノ谷・屋島・壇ノ浦の合戦を経て源氏最大の功労者となった。



「『六韜⦅太公望兵書⦆』を盗み覚えるときも、女は騙され役で義経さんに在り処を教えちゃうんでしょ?」


 まったくどいつもこいつも自分の野望のために女を利用しやがって……ナミの怒りは歴史の不公平を言い当てている。



 そして1185年2/16 屋島出陣。同3/24壇ノ浦の戦いで平家を滅亡させ、英雄として4/24に都に凱旋する。


 しかし5月には平家追討において、3種の神器のうち草薙剣を取り戻せなかったこと、兄である頼朝の許可を得ることなく後白河院より左衛門少尉、検非違使を拝したこと、頼朝の家来である後家人を使役・処罰するなどの独断専行を行ったこと等が頼朝の不興を買い勘当されてしまう。




「これまで勝手に振る舞いながら、今更慌てて弁明しても、もうとり上げることは出来ない」

「こちらが不快に思っていると聞いて初めて、こうした釈明をするのでは、とてもじゃないが許せない」


 義経は弁明のため、壇ノ浦での捕虜を伴い鎌倉へ向かったが、頼朝との対面を願うも鎌倉入りさえも許されず、都へ戻る事を余儀なくされる。

 この仕打ちに義経は怒り、1185年の6月に都へ戻る道中で頼朝との断交を宣言。


「関東に於いて怨みを成す輩は、義経に属くべき」


 更に義経は頼朝に先んじて後白河院に頼朝追討の院宣を発するよう頼み込みこんだものの、義経とともに鎌倉に歯向かおうという武士は少なく、うまくいかなかった。そうこうしているうちに頼朝が鎌倉を出発すると、後白河院は頼朝を恐れ、逆に義経追討を発することとなった。


 そうして今、都落ちし西国へと逃げる最中である。



「なんかさ、教科書だと頼朝は出るけど、義経は功労者なだけで幕府設立や立法なんかに関わってないから、ぶっちゃけよく知らなかったんだよね」

「本やドラマではよく題材になってるから、僕にはイメージあったんだけど……」


「何かねー、ラン先輩から聞いてた義経像と目の前の彼、全然違うんだよねー」

「そうなんだよね、ラン先輩の話だと、悲運のヒーロー的な……」

「なんか、ごめん……僕も観たドラマとかだと、才能ある若者なだけに疎まれて、軍略は天才的でも世渡りは不器用で素朴な男、って描かれていた印象で……」




 目の前の男はガサツで女好きで短慮だ。とても奇を突く策略家とは思えない。後の伝書で本人の悪い記録は、側近の素悪な人物のせいにして書き換えるなんて常習だ。


「昔見たKABUKI⦅歌舞伎⦆でも短慮を起こすのは、いつも武骨な武蔵坊の役目で義経は冷静沈着って感じだったけど……」

「弁慶のとっさの機転で危機を乗り越えたって、無かったっけ?」

「『如意の渡し』の逸話だね」


 義経一行は渡し船で正体を見破られそうになる。弁慶は『お前が義経ににているせいでこのようなことになる』と義経を扇で打ち据えたことで、『主人を扇で打つなんてあろうはずがない』と難を逃れた話は有名だ。


「え~?! それって『勧進帳』って話じゃないっけ?」


 加賀国安宅関あたかのせきで冨樫なにがしという人物にとどめられた。ここで弁慶は、偽りの勧進帳を読み上げ、更に『如意の渡し』同様に義経を打ち据える。冨樫某はうすうす勘づいたものの、その忠臣ぶりを思って酒を始めた。弁慶もまた『酒を飲んでる間に逃げよ、というのだな』と悟り足早に立ち去る、という話は『如意の渡し』を盛った、代替え話とされている。




「歴史の改ざんだな」

「そー考えると、昔って結構簡単に『過去を変える』ってできてたんだね」


 ナミの言葉は一理ある。きっと過去を変えたネジ曲げられた歴史なんだろう、だから氾濫した、乱という混乱の時代……映像の男の言葉が蘇る……。


 弁慶は『武』に恵まれていながら、源平合戦では『将』でない弁慶が目立つ機会がない。そこは遠く中華において『殷』を討ち、『漢』を興した王佐の書を携えた義経の見せ場。

 五条大橋での劇的な出会いがありながらも、途中史実から消え去ったかにも思える弁慶を、再び義経のラストへ導く見事な案内人として弁慶をクローズアップせざるを得なかったかのような、歴史の改ざん。




 ??? 氾濫⦅乱世⦆となったから、歴史はネジ曲げられた? それともネジ曲げようとするから、歴史は氾濫する乱れる……???




 そしてメディエはこのタイミングで新たなクエスト参加パーティが1組増えたことを知らせて来た。

 ナミたちがクエストに参加したときには、すでに挑戦中のパーティが居たのは知っている。そしてそれはイイネ様パーティなのは分かっている。


 なぜならイイネ様たちは義経に手柄を立てさせないよう奔走したり、功を評されないよう策を巡らせているのがチラホラ見えていた。そして失敗に終わったことも……。


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