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第31話 伝説のシーカー

「ねーそのスペシャルレアクエストって今まで誰かクリアした人いるの?」


「一人だけ知っている……」

「伝説のシーカー……」


「『国外レアクエスト レベルMAXスペシャル始皇帝暗殺』を達成した男……」

「クエストのタブーである『殺し』は歴史が認めた『殺し』か『スパル & マイグレ』されない限り歴史の力が及び、解放されない」


「メディエの史上唯一の暗殺クエスト」

「そのおかげで地球は7度目の滅亡の歴史を書き換え、俺たちは今ここに存在している」


 気候変動や火山噴火、氷河期、隕石の落下などによって5度の大量絶滅を経験してきた地球。5回目の大量絶滅は、白亜紀末に隕石が衝突したことで起き、6度目は経済活動や開発行為が原因で引き起こされたと言われている、そして今のエリア統治へと移り変わる。


「秦の始皇帝を暗殺したことで万里の長城は随の煬帝が整備したこととなり、徐福が『東方見聞録』を広め……そのように歴史は変わった、と未来の古文書に遺されていた」

「シンのシコーテー?」

「始皇帝って漢の劉邦って人じゃないんですか?」


「我々の学んだ歴史では、始皇帝は漢の劉邦だ。秦の国力が低下し、他の六国も度重なる争いで各国は疲弊する、そのとき巴・蜀を制し、関中王となった劉邦が漢国を興して中国を統一し、始皇帝を名乗った」

「しかしそれはクエストと歴史が変えた今いる史実だ」


 実と途が交互に説明する。その面立ちは迫っている。それに呑み込まれていく2人。ナミだけは切迫感を浴びただけで、彼らのロマンを理解するだけの志向はないようだ。


「男はこういうの好きよね」

「女子は歴史あんまりだよね」

「恋話とかないの?」


 口を尖がらせるナミ。その機嫌を拾ったのは実、素早い回答。


「あるよ」


 実は勝ち誇ったように片方の口角を上げた。


「秦王・政の母、太后は恋多き女性だった……」


 今度は実の話に正対するナミ。実は真直ぐ見つめられて少し話しづらそうに続ける。


「……太后は、大商人であった呂不韋の妾であったことを秘密にして荘襄王の室入りした後も、秦の丞相に上り詰めた呂不韋との関係を続けていた。それに気付いた秦王政との間で淫乱・・勃起・・した」

「……内乱でしょ……それに勃発……なによ全然キュンとしない話じゃない」


 フン、と横を向くナミと少しばかり肩を落とした実との間を取り繕うように話しを繋ぐのはデンちゃんの役目だ。


「つまりは秦の始皇帝って言うのがいて、それを辿った歴史は7度目の人類滅亡の危機が起こり、大災害を生き残った伝説のシーカーが秦の始皇帝を暗殺したことによって今の俺たちがいる?」


「その人って……」

「クエストは達成したけれど帰って来なかった」

「秦の始皇帝を暗殺した伝説のシーカー……」


「一強として他国を圧倒していたはずの秦国は、内乱により宮中内に隙ができた。その隙をついて暗殺は成功した。しかし後の始皇帝となるはずだった当時の秦王であった政、そいつを暗殺したのは荊軻という人物で、伝説のシーカーではないんだ」

「荊軻の暗殺計画に必要とされた男が薄索、その名で残されているのが伝説のシーカーだ」

「歴史的大偉業なのに薄索の名が残されている記録はほとんどない」


「時間があればこれを見て見ると良い……伝説のシーカーが語るメディエの販促品だ」


 そう言って途は1枚のマイクロチップを差し出した。


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