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第30話

『レベル5 インド・ムガール帝国防衛』、旧国家間の垣根を超えた国外レアクエスト。

 他国⦅旧国家=現・他エリア⦆のクエストは他国の歴史に介入すると言えるわけで、かなりのレアクエストである、しかもレベル5……。旧国家間の国境や民族の歴史に関わるクエストは現コミュニティ同士で規制している。これはクエストに『○○を殺せ』『○○を滅亡せよ』『○○の破壊』と言ったクエストがないことが決められているからである。


 きっと全エリアのメディエにおいて、このレアクエストが張り出され大騒ぎになっているに違いない。勿論このエリア24区メディエにおいても例外ではない。張り出されたクエストを中心に大きな人だかりができていて、想い想いのことを語り合っている。


「ムガール帝国をイギリスから守るってクエストか……」

「これでレベルMAXじゃないなんて」

「イギリス東インド会社相手の大がかりクエストだぞ?!」

「きっかけとなったセポイの反乱を防げば何とかなるのか?」

「イギリスを破るのは、何と言っても世界初のロケット部隊だな」


 輪の一番外側からナミたち3人はクエストを眺めたのなら、大きなため息を吐く。


「僕たちもその内あんな大きなクエストに挑戦したいものですね」

「じゃ、試しに挑戦しちゃう?!」

「ヤーよ。そんななんだか埃っぽいクエスト……」


「じゃ、ナミちゃんは次、なんのクエストがいいのさ?」

「そうねー……これなんかロマンチックでいいんじゃない?」


 ナミが色っぽく摘まんだ紙に書かれたクエストタイトルを読む。


「ええぇぇー?!!」


 藍が大声をあげる。その声にデンちゃんたち以外のシーカーたちからも注目が集まる。そこには……


『レベル3 北大西洋タイタニック号沈没事故』またも国家間クエストが張り出されている。


国外レアクエストがここにも……」

「わたし、映画で見たことあるわ」


「お嬢ちゃん、お目が高いね」

「いよいよレアクエストに挑戦かい?!」


 3人に近寄ってきたのは現実と案中途の2人。この人たちはずっとここで待機しているのであろうか? 居なかったことなんてただの一度もない。


「僕は旧日本国所領地以外行ったことないんです」

「わたしも出てみたいなぁ」


 ナミはうっとりする。映画の世界に入ったのであろう……目を瞑ると、1912年4月の大西洋が浮かんでいるのであろうか……両手を広げて満足気に口元を綻ばせる。

 折しも今日のナミのコーデはライトベージュのトレンチコート。ベルトのウェストマークがふんわりスカートとのボリュームのバランスを取っている。

 春、そしてイギリスを感じさせる。


「ナミちゃん、俺たちは江川の時にアメリカに行ったじゃん?!」

「……そーねえ……あのときは地球を取り巻く空気全体に包まれた感覚がしたわ……あーあ、また体感したいなぁ……そー言えばあれは『海外クエスト』じゃないの? 実さん?!」


 唇に指を置いて少し考え込むナミ。何気ないアクションが皆の視線を唇に巻き込む。トレンチコートの下に着ている白のパーカーが唇の色を強調する。



「あんなのはアメリカを出発しただけで、旧国境を跨いででクエストを活動したわけじゃないから数にもならないよ」

「そう言うのは誰が決めているの?」


「それは『歴史』が決めているんだよ」

「歴史???」

「そう……『ヒストログ』と呼ばれる装置が完成されたグレゴリオ暦3000年代、人類は初めて歴史と対話することに成功した」

「このとき『歴史にもしもをいうのは無意味』という時代は終わりを告げた」


「そう、『過去は変えられない、未来は変えられる』から『過去を変える、だから未来も変わる』にシフトした」

「それがクエストね」


「メディエが歴史と対話することで『クエスト』はできている」

「各クエストは歴史が承認したミッションであり、『変えることが許された事件』しかクエストは招集されない」


「じゃーシーカー側からはタブーが発動しないって言うのも……」

「あぁそうだ、『歴史』がそうさせないってことだ」


 初めから歴史は知っていたのかもしれない。『赤穂46義士』で寺坂がクエストの数に入っていなかった、ということは……、ナミはそう感じた。


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