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第27話

 デンちゃんは山田宗編の庵であるものを目にしてしまう。それは……デンちゃんがこの時代のクエストを切望した動機となった花伝書『古今立花大全』『立花図并砂物』『瓶花図彙』の三巻である。


「これを父さんに持ち帰れば……」

 花伝書を目の前にして心が揺らぐデンちゃん。頭で『ダメだダメだ』と邪心を振り払うけれど、花伝書をペラペラ捲ってみたのなら、心が邪をくすぐる、父さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ……持ち帰ることは時代法に抵触するのは分かっているけれど、デンちゃんの心に魔が差しこむ。周囲を見渡すと手が伸びる……。



◆◇◆◇



 ナミたちが情報をもたらした12月5日の茶会は延期となる。しかしながら横川勘平が12月14日の茶会の情報を得る。ここに運命の討ち入りが決定したのである。一度延期になった討ち入りが引き波となって、この好機は大波と化す。もはやナミたちに討ち入りを食い止める手立てなど微塵もなく、浪士たちの士気は高まった。




 12月14日浅野内匠頭の月命日である討ち入り当夜、吉良邸を守る人間は、茶会で酔っている武士が多いものの、邸内には30人ほどいて総数は赤穂浪士の倍以上の数が詰めていた。



 前日の雪が積もる午前4時……竹を押しつぶすような物音が微かに鳴っている。少しの間があって静寂が打ち破られる……門扉を打ち破り、吉良邸に突入したのだ。


 照らすのは未明の弱い月の光のみ、邸内に押し入った浪士らは提灯と廊下に蝋燭を立てて進む。吉良邸護衛の者たちが大勢出て来る。しかし準備の差がモノを言う。一向二裏いっこうにうらの3人1組体勢で戦い、吉良邸護衛の者たちは一方的に倒されていく。討ち入りから約1時間、5時には抵抗は止んでいた。

 一番の働きは不破数右衛門ふわかずえもんで、刀がのこぎりのように刃こぼれするほど切り倒したという。



 ナミたちは吉良邸の北塀で接する旗本土屋主税と共に、この討ち入りをただ観戦した。義士たちは礼儀正しく土屋邸にも壁越しに挨拶していた。


 空が白み始めた頃、再び土屋主税へと挨拶が呼びかけられた。


「ただ今、吉良上野介殿を討ち果たしました。騒動を起こし、ご迷惑をおかけいたしました。すべて済みましたこと、ご報告いたします」


 塀の向こうから吉田忠左衛門の使いの者がそう告げたとき、ナミは何故だが涙が零れた。こうして大石たちの討ち入りは静かに終わった。


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