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第22話

 この間、吉良は内匠頭の悪口を梶川に散々言い聞かせていた。『田舎侍が』その言葉が耳に聞こえたとき、内匠頭は琴線が切れたと感じていたのかもしれない。


「この間の遺恨覚えたるか!!」


 本来突くほうが効果的な武器であるはずの脇差で斬りかかったのは、やはり逆上していたと言わずにはいられない。

 内匠頭の叫びよりも早く行動したはずの2人。刀を抜かせないようナミがヨーヨーを取り出すも、慣れない打掛と腰巻衣装が邪魔をする。わずかなタイミングの遅れがありつつも放たれたヨーヨーだが、内匠頭の乱心はそれを跳ねのけ抜刀。

 浅野内匠頭の1太刀目をデンちゃんが十手で防いだ。しかし吉良上野介を刃から守ることが成功ではない。


 浅野内匠頭が抜刀した時点で内匠頭の切腹とお家の取り潰しは免れまい……徳川綱吉の逆鱗に触れたことが忠臣蔵の遠因であるのだから。つまりはクエスト失敗と言える。



 上野介は背を見せて松之廊下を逃げる。それを追う乱心した内匠頭。デンちゃんが再び内匠頭を止めに掛かろうとするも、あろうことか旗本、梶川与惚兵衛がデンちゃんを蹴り飛ばして内匠頭に加勢した。


「デンちゃん!!」

「大丈夫! ナミちゃんは内匠頭を!」

 そう言うデンちゃんだったが、ナミの耳にはその言葉は届かない。


「デンちゃんに何すんのよ!」

 お返しとばかりに梶川与惚兵衛を蹴り飛ばす。屈強な体躯の梶川与惚兵衛、さすがにナミが蹴とばしたくらいで倒れたりはしない。一歩、二歩よろけさせられたのなら『何奴?!』とナミを睨みつける。間髪入れずに平手打ちをお見舞いするナミ。それには梶川も大層驚いて、間抜け顔を披露する。

「目が覚めた?」


 その間、内匠頭が上野介の裾を踏んだのなら同時に大喝する。浅野内匠頭長矩が生涯発した声でこれが最初で最後の大発声と言えよう、天狗が駆け抜けたかの如く松の画が揺れる……。全員が内匠頭の喝で我に返る……ナミのヨーヨーが大喝で圧っせられた空気の間隙を縫って内匠頭が踏んでいる裾を切り裂き上野介を自由にする。しかし声に驚いた上野介が振り向いたのなら、内匠頭が上段から刀を振り落とす。


「ひぃぃぃぃっ」


 醜い声が廊下を這いずり、上野介の額から鮮血が飛び散るも、金輪の烏帽子が助けて肉は切れたが骨まで達しない。再び上野之介がジタバタと大広間へと逃げ出す。その背に内匠頭の2太刀目が振り抜かれた。


 丁度そのタイミングで大力無双の梶川が正気に戻って、後ろから羽交い絞めに抑えて四方に叫ぶ。上野介の背中の傷は浅い。


「おのおの方、お出合いそうらえ。浅野殿、刃傷にござる」




 内匠頭はそのまま取り押さえられた。そしてその後の内匠頭は即日、切腹となったはずである。因みに後年、梶川は5百石の褒美を得たが、武士の情けの部分で老中たちから嫌われたことにより退職に至る。


 梶川は、殿中の法度と武士の風骨との狭間に揺れたのかもしれない、それが一方で内匠頭を助け、もう一方で内匠頭を制した……。理想と現実、マジョリティと信念、刹那に天秤で選ばされるとき、人の心は葛藤に抗えずに整合性のない行いをしてしまうのだろう。

 人間の心の不完全さ、だからこそドラマを生む。



 どうであれ後世における忠臣蔵の経済効果は計り知れない、ナミはそれを思うと刃傷阻止が成功しなくて良かったのかも、なんて感じたりもした。


 そしてデンちゃんとナミも不審人物として御用が掛かる。当然に逃げる2人、捕り物が始まる。



***



 ナミたちのクエスト挑戦より後、同時期に、このクエストに1人で挑戦した人物がいる。名を新道藍しんどうらんという。


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