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第19話 三億円事件

 親の心は親になってみなければ分からない。2度目のクエスト『松本人志、芸能活動休止スキャンダル』に繰り出したナミは父親に窘められた。ナミだってただデンちゃんと居たいからだけで、クエストに参加している訳ではない。


(何でお父さんは分かってくれないのよ……)

 しかし父の心配も考慮して次のクエストは春休みまで我慢することにした。それはデンちゃんの卒業を意味していた。ケンカして終わった2回目のクエストだったが、味わった達成と初めて見る景色たちは2人の気持ちをクエストへと誘っていた。

 ナミの春休み、待ちに待ったクエストはレベル1段飛ばしで挑戦した『レベル3 東芝府中3億円強奪事件』は、グレゴリオ暦1968年12月10日、東京都府中市で現金輸送車に積まれた3億円が奪われ、1975年に時効が成立、未解決事件となった、完全犯罪。



◆◇◆◇



「あ゛?! ぇ゛?! 最悪ぅ~。この自動販売機、貨幣専用だって~」

「すごい! 化石物の自販機だ!」

 認証センサーの前でうなだれるナミを見て、デンちゃんが少年の輝きで振り返る。メカヲタクの血が騒ぐ。


「これ、分解したら犯罪だよね?」

「ね~デンちゃんお札もってない?」

「……ごめんもってないや……分解すれば中に入っていると思うけど」

 デンちゃんは自分の独り言のような質問をスルーされてもまったく気にしないでナミに応える。


「今時超レアよね」

「わたし画像でしか見たことないの」

 この時代、紙幣や硬貨などを使用している人間など見たことない。国の担保なんて当てにならないこの時代、偽造防止の技術や製造コストを考えれば、サイバー通貨の方がメリットが多い。それでも『円』を基準とした経済が続いているので日本通貨は存在している。

 1000円札はノーベル体育賞の『国枝慎吾』。5000円札は現在裏ルートで生写真すら売っている『卑弥呼』。10000円札は四次元紙幣と呼ばれる『動くドラえもん』。二千円札は『二宮尊徳』。

 そこからナミの『現ナマがたくさん見たい』とクエスト挑戦に至る。




 因みにクエストは事件が起きた9:15以降、第一現場とされる現金強奪現場などでの取り押さえは不可とされており、犯人を捕まえることが達成ではなく、警察に犯人を捕まえさせることが主たる目的となっている。

 だから東京都小金井市本町の団地敷地内の駐車場、『第四現場』と呼ばれる場所に向かってナミとデンちゃんは走っている。ジェラルミンケースが残されていた現場で、現金を移し替えた可能性のある現場である。

 逃走用に使われた『第2カローラ』は、事件の翌日にはすでにここに乗り捨てられていたのだけれど、発見されたのは事件から4か月後となる。歴史を知ってるナミたちはこの遅れを早めることでクエスト達成を目指した。初めからナンバーまで分かっている、多摩5ろ3519。


 因みに『第2カローラ』とは、奪った現金輸送車『セドリック』から、国分寺市西元町の七重塔跡近くの墓地入口にて乗り換えられた逃走車両のことを言う。




 府中のランドマークとなる東芝のエレベーター試験塔ができるのはまだ先のことで、当時は刑務所内の監視塔が一番高所かもしれない。


「ねー、デンちゃんこのクエスには自動車免許があった方が良かったんじゃない?」

「ナミちゃん、俺もそう思ってたところ……」



 5階建ての団地群をの入口に差しかかった2人の前に、エンジンが掛けられたままの赤白ペイントバイクが止められている。上の方から『ごめんくださーい郵便でーす』と声が降ってくる、2人は揃って上を見上げる……どうやら持ち主はこの集合住宅の上階にお届けしているようだ。


「わー、本当に昔は手紙を各戸に届けてたんだねー」

「この時代は個人携帯も普及してないようだしね」


「ね、デンちゃん。バイクの免許は持ってたよね? ちょっと借りちゃいましょ?」

「え? それってドロボーじゃ……」


「イイネ様も言ってたじゃない?! これくらいなら平気よ、郵便物だけちゃんと卸して……ちょっと借りるだけ」

「でも……この後ろの箱をとれば2人乗りできるけど……左手にクラッチレバーがないし……どうやって運転するのかな……」


 それでもメカヲタクで機械工学を学ぶデンちゃんは仕組みを直ぐに理解したようだ。赤白のバイクは2人を乗せて軽快に走って行く。

 犯人が信号無視で右折したと言われる『刑務所角』を過ぎたなら景色は大分淋れていた。


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