巨人がボイコットしたはずのドラフト会議。巨人は今回、見事に江川交渉権を得る。よって晴れて誰に後ろ指さされることなく『巨人江川』が誕生する。
しかしながら投手力の底上げが優勝戦線への前提としていた阪神は金銭によるトレードで巨人・小林繁を得ることになる。これまたプロセスは違えど小林の阪神入団も史実の通りとなる。
更には当初78年ドラフトで巨人が指名すると言われていて、江川事件により巨人ドラフト会議ボイコットで指名をされなかった落合博満も、巨人が江川を指名したため履歴の通りロッテに入団する。
よってアプローチの違いはあれど変わらぬ鞘に収まったが、その後の個々の成績は彼らの努力次第で変わってくるかもしれない。
上記が『クエスト終了後報告』に記載されていた大まかな内容である。これはシーカーが参加したクエストにより、歴史変動があった場合などの詳細が記載される報告書である。クエスト毎に登録者へと送られてくる。
この報告書を読む限り、つまりは歴史は変わらない結果に落ち着いた、と言うわけである。
正史において、果たして不平を感じたのは巨人であろうか? 野球協約には確かに契約可能な1日が存在している。それを使って江川と契約を交わした巨人の論理は間違ってはいない。良識、倫理、道義みたいなものが、世論が、巨人を不正にしたような気もする。それと同時に巨人の野球界における権威を見せつける結果でもあった。つまりは野球協約という社会の物差しを以って不公平を挙げた阪神が、巨人の持つ社会的人気⦅=力⦆に負けた。そう言うことに他ならない。
しかしながら今回のクエスト成功に不満を持つ者はいないであろう……。
◆◇◆◇
ナミたちはクエスト成功でこの場を離れようとした。
「帰る前に正子さんが江川家訪問の手土産に買ったケーキでもお土産にしましょ!」
ナミたちが店に立ち寄ると、店員がドタバタと駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。今度いらしたらこれを……」
そう言って1通の手紙が手渡された。2人は顔を見渡してから手紙に視線を落とすとそれは……。
『どなたか分からない恩人へ』と宛名された菊地正子からの手紙であった。封を開けたのなら中から何か光る球のようなものが飛び出した。
デンちゃんとナミは思わず身構える。
「キャッ! なに、どーしたの??」
「ナミちゃん、離れて!」
慌ててデンちゃんがナミを背に隠す。店員には見えていないのだろうか? 周囲の誰もがなにも動じていない。その代わりデンちゃんとナミには気付かれないところで、隠れて見ていた小太り中年男が一言呟いた。
「こんなレベルの低いクエストで、アレが現れるなんて……」
小太り中年男が言うところの『アレ』は音もたてずにデンちゃんに吸い込まれた。勿論デンちゃんは避けようとしたけれども、『アレ』とデンちゃんは互いを引き寄せ合うように重なり『アレ』は見えなくなった。ナミはデンちゃんの身体に触れて一つ一つを確認しながら問う。
「デンちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫……何ともない……今のは何だったんだろうか?」
デンちゃんも自身の身体に視線を配り確かめるも、異常は感じない。その姿を確認したナミが、顔を上げたデンちゃんとアイコンタクトを取ろうとした瞬間、ナミの視線が止まる。
その方向はデンちゃんの後ろ奥、ナミには正子が微笑んでいたように見えた。
デンちゃんがナミの固まった視線を追って振り返ったのなら、そこには何も居なかった。そして手紙の最後はこう締めくくられていた。
『本当にありがとう。あなたのおかげで卓さんは野球に専念できます』
◆◇◆◇
「ナミちゃん、情報のタレコミをどうして正子さんに?」
「だってデンっちゃん『江川の契約を
「そっか……でもどうやって?」
「正子さんはケーキを持って訪問したってきいてたから、店員さんに頼んで、サプライズでメッセージカードを送りたいからって、こっそりそこに手紙を入れてもらったの」
「この時代はまだそう言うのが緩い時代だったんだね」
「そうね、古き良き時代……近所付き合いや助け合いがまだ色濃く、非常時だけじゃなく平時から絆を大切にしていた時世」
「でも……正子さんはお客さん側だろ? 手土産ならホスト側である蓮実や船田、江川の両親らがケーキを受け取る。それでは手紙は正子さんに渡らないはずじゃない?」
「正子さんは江川さんとの交際を反対されていたらしいわ。だから正子さんがご自身でケーキを開けるかも、そう思ったから……」
「ナミちゃんのおかげだね」
「正子さんのおかげよ」
「
「そ、愛の力です!」
「いずれにしても……」
声を合せた2人は満面の笑みで見つめあう。そして同時に大きく地面を蹴って跳ね上がった。
「
「やったね!!」
ナミはデンちゃんに向けて、一つウィンクを送る。
「報酬も何だか査定良かったし……」
「わたしたちは