「イイネさん、もう一回聞いてもいいですか?」
「なーに坊や。何でも聞いていいのよ」
イイネ様の吐息が甘ったるく変わる。どーしたらそう言う声が出せるのかナミは考えてしまう。
「どうやって阻止するつもりですか?」
「そんなの教えるわけないべや」
エモとバズの声が揃う。
「教えてあげてもいいわよ」
「イイネ様!」
またしても2人の声が揃った。イイネ様はそんな2人を気にも留めずにデンちゃんを見つめる。その視線の先を見てエモとバズはデンちゃんを睨みつける。そしてナミはイイネ様を睨んだ。
「協力お願いできるかしら?」
「内容次第では」
「そんなズルい提案が通るわけないだぎゃ!」
「先にお前の作戦を聞かせろだや!」
エモとバズが交互に捲し立てる。ナミもデンちゃんの作戦が気になって、デンちゃんに視線を移す。
「まだ考えてもいない」
エモ、バズ、ナミの3人はズッコケる。
「じゃぁあたいたちのやり方……教えてあげる」
スチュワーデスが丁度ナミたちの横を通り過ぎようとした時だった。イイネ様は2人に
「こうするんだぎゃ」
「協力ってこっちのことだっぺ」
「静かにおしッ!」
2人の男はデンちゃんとナミを後ろから拘束し刃物を喉元に押し付ける。イイネ様は拳銃を出してスチュワーデスに付きつける。
「この飛行機の目的地を変更おしッ!」
……ハイジャック……浅はかな作戦だ……これで江川の到着を遅らせるようってことだろう。そして例え自分たちが捕まっても、江川が巨人と契約できずに11月22日を迎えた時点で、クエストエンドで脱出ってところか。
「この方法は関係のない乗客やスタッフをも巻き添えにしてよくない」
デンちゃんがイイネ様に声を飛ばす。チラリとデンちゃんを見たイイネ様は、何も言い返さずにスチュワーデスに詰め寄る。そこへ不意を突いた勇敢な小太りの中年男性がイイネ様の拳銃を奪い取ろうと襲い掛かった。
サッと身を引くイイネ様のアクションには艶がある。小太り中年男の身体は空を掴んだ勢いで、大きくバランスを崩す。そこを透かさずイイネ様が足を払い、小太り男を突き倒す。
うつぶせに倒れた男の背に靴底を叩きつけると、拳銃を向ける。男は短い悲鳴を上げた。
「ブヒッ!」
「下手なことしようなんて思うんじゃないよ!」
別のスチュワーデスが壁際をこっそり這うように動く。小太り男の腹を一撃蹴り飛ばすと銃口が乗務員に向けられ、拳銃が大きく吠えた。壁を伝っていたスチュワーデスの顔の横に穴が空く、ヘナヘナと座り込んだ。
この時代、客室乗務員は女性が占めていて、暴力が制圧に適していたと言えなくない。
「次は外さないよ! 女がチョコマカ、コソコソするんじゃないよ!」
イイネ様の大立ち回りは周囲を恐怖に落とし込む。拳銃の扱いも見せつける結果となって乗客たちは観念した。まず乗客たちに結束バンドでお互いの手足を拘束させる。
バズは得物を刃物から銃に変えた。