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第11話

「ナミちゃん、やる気出したところで申し訳ないんだけど、多分きっと、江川を阪神に入団させるの報酬ボーナスは厳しいと思う」

「どーして?」


「前回のドラフトでクラウンライオンズ⦅現西武ライオンズ⦆は九州に本拠地を置いていた。江川は『九州は遠い』と断っている。その理由が江川の婚約者正子さんとも言われていて、江川は後年『大洋⦅現DeNA=横浜⦆』『ヤクルト⦅東京⦆なら入団もあり得たかも』、と言っている」


「すごい! デンちゃん、勉強してきたのね! ってことは阪神⦅大阪⦆はあり得ない遠いってこと?!」


「江川に関西の恋人なり、愛人が必要となる」

「江川さんが今から浮気するには時間がないわね」


「それに……あのエルメスをみて江川が浮気すると思う?」

「江川さん、なんか好感度アップね」




「水を差すようだけんども、江川本人はライオンズ⦅九州⦆に行っても良いと思ってたべが、親せきらに説得された親父さんに止められたって話もあるべさ」


 突然座席後ろの通路に立っている男から話を折られる。びっくりしてナミが後ろを振り返ると、先日の帽子の男が……確かエモと呼ばれていた……。


「どーしてあなたが……?」

「まさか2組挑戦中のパーティの内の1組って……」


「もう1組は?」

「それは……さて?」

「びっくりした顔も可愛いねぇ、お嬢ちゃん」


 イイネ様が78年ディスコファッションを着こなしデンちゃん側の通路に現れる。ダイナマイトボディのイイネ様が、フロア中の男の視線を集めた気がしてちょっとしたジェラシーを覚える。

 因みに今回のナミはカーゴパンツ風サロペットにミリタリーブーツのコーデ。部活ではレオタード姿で身体のラインをみせてるから、普段着はこんな感じが多い。



「クエストチャレンジ中のパーティってば俺らのことなもんで」

「クエスト挑戦中のパーティには後から参戦するパーティがあるって情報は配信されるべ、まさかお宅らだっただべか……」


 バズも姿を現す。このタイミングで同じクエストに挑戦中の同業者に出会うのは良くない。きっと方法が被り、取り合いになる可能性が高い。

 相手側の動向を探る必要がある。


 イイネ様たちがナミたちの存在を先に気付きながら、隠れて様子を見ることなく姿を晒したことから、イイネ様側に何かしらのアイデアがあると深読みしたくなる。


「アメリカから日本へ帰国する前日のパーティで『どこに指名されてもプロに行く』っていう覚悟が本人にはあったって情報もあるべ」




「じゃあイイネさんたちはこのクエストをどうクリアするつもりなんですか?」


 デンちゃんが側に居るイイネ様に問う。『イイネさん』ってデンちゃん、ちょっと馴れ馴れしくないかしら? なんてことをナミは考えたりする。


「そうね、あたいたちは特別報酬ボーナスを諦めるわ。だってメインクエストは『空白の1日』の阻止だもんね」

「そうそう、もし阻止に成功したんなら、歴史は変わって阪神が交渉権を得るとは限らなくなんべ」

「そうそう、したら交渉権を得たチームに江川が入団すること間違いないべや」

「空白の1日の阻止と江川阪神入団は両立しないでがす」


 3人が代わる代わる出しゃばって少しウザイ。それでもナミは一つの疑問が浮かぶ。


「ね、それなら『空白の1日』を阻止しないで・・・・・・歴史通り阪神に交渉権を取らせて、わたしたちが江川さんを阪神に入団させた場合、特別報酬ボーナスだけ貰えるの? どーなるの?」


「……」「……」「……」「……」


 4人全員黙った……。



◆◇◆◇



「ま、まぁ、『空白の1日』を阻止しなかった時点でクエストは失敗、それにそうなったら交渉先が阪神以外になるだけで歴史通り江川は結局、巨人入団ってことになるでしょ」


「……ってことはとりあえず、このクエストはミッションクリアを目指すのが正しい選択ってことになりますかね」


 イイネ様の言葉にデンちゃんが乗る。これがナミの疑問の着地点としては正解なのかもしれない。小さくナミは呟いた。


「エルメスのバッグが……」


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