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第3話

「世の中には『嫌悪感』という不可視を図る物差しがある、それは損得とは別の物差しだ」

 デンちゃんはある種の答えに辿り着く。しかしそれは女性であるナミには未だ理解できない領域と言えた。それは遠足のおにぎりのおいしさが増すのと逆の発想と言える。つまり不貞を働く人間の作った料理は『おいしくない』と言うより『食べたくない』わけだ。


「俺たちがこのクエストを達成させるには、芸人へのステレオタイプを覆し、性的事件に対する女性優位を払拭するのが近道かも知れない」

「どういうこと?」

「女性が『この人に触られました』と男性を指したら、その男性は濡れ衣を着せられる可能性が極めて高い」

「被害女性が嘘をついているってこと?」

 ナミが少しばかり不満を見せる。


「確たる証拠がない場合、嘘でなくても思い込みや勘違いの可能性もあるってことだよ」

 女性を敵に回すような言い回しをしたかも知れないと、デンちゃんは慌てて取り繕う。


「女子が被害を公にするのってかなり勇気が要るものなのよ、もう」

「でも、クエスト達成するには……」

「いいわよ、とりあえずデンちゃんの作戦を聞くわよ、話して」

「…………。と、とりあえず疑問に思ったのが…………。まず、女性が被害を公にした。そしたら松本側が名誉棄損で報道を訴えた。そしてその訴えを取り下げた」

「そうね」

「それで終わったのかなって?」

「それで終わったんじゃないの?!」

「それっておかしくない?」

「何がよ」

 ナミの機嫌は上向かない。デンちゃんのお伺い口調がそうさせている。


「松本が取り下げたのは自身の名誉棄損であって、松本側が怒って振り上げた手を降ろしただけなわけでしょ? 女性側の勇気の訴えはどこに行っちゃったの?」

「和解したってことは、女性側の怒りも収めたってことなんでしょ?」

「じゃ、女性側は『何がしたかったの?』ってことにならない?」

「なにそれ……」

「訴えた女性側にメリットが何もない」

「松本さんは謝ったじゃない」

「松本側は『不快にさせたのならごめんなさい』って謝罪の仕方でしょ?」

「……」

「だから不平を言い出した女性は何かしらの『約束』が交わされていたけれども、約束の結果に満足がいかなかった、だから松本を追及したんじゃないのかな?」

「約束ってなによ」

「多分それは公にできない約束なんだと思う。だから和睦に応じた」

「…………」

「そうなると、『売名行為』とか『金銭の授受』とか言われちゃうんじゃない?」

「知らないわよ、松本さんが痛い目を見たからスッキリしたんじゃないの!」

 ついにナミは声を荒げてしまう。


 こうしてナミの怒りでこのクエストは失敗に終わる。


「そもそも何でこんなクエスト選んだのよ!」

「日本の伝統芸能に認定されて『笑いの神』とも言われた人だから、華道の、その……何か父さんの役に立たないかなって……」

 そう言われるとナミは黙るしかない。


 果たして損をして不平を訴えたのは松本側なのか女性側なのか……それを明らかにする必要はないのかもしれない。


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