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第7話 名前なんて記号にすぎない

 でも、それでも、天才として死んで自身の芸術が昇華するなら、まあそれも本望かも。堕落した理性であれ、不純な祈りであれ。

 どんな人生であれ、この人と一緒ならなんだっていい。


 「手なんてつないで、どうしたの? ルソーさん」

 「べつに、なんでもない」

 「寂しくなっちゃった?」

 「ずっと一緒にいてほしいって思っただけ」

 「ルソーさんにも、可愛いところがあるじゃない」


 再度の弁明だけれど、このときアンリさんは、ボクのことを確かに名前で呼んでいた。

 名前なんて記号に過ぎないものだから、便宜上、ここでは仮名を使っているだけで。 

 ルソー、ルソーと実名のごとく書き記すのは、なんだかムズムズと居心地が悪い。だけど、冒頭にそんなルールを勝手に設けたのだから仕方がない。

 評価されないままに文献の隅で死ぬって、アーティスティックでかっこいい。大きな拍手とともに過大な墓に埋葬されるって、俗物的でなんだか退屈。

 期待すべきはその中間で、誰かの思い出の端にひっそり残って。

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