ノリノリの
いやまあしかし、普通に造形レベルでいえばテレビの地方ローカルヒーローに負けない出来になってるな、実際シバテレビでは温泉とタイアップの地方ローカルヒーローの特撮とかやってるし。
確か、熱風! シモウサイバーだったっけ、ウチでも市のイベントで子供用の配布グッズを配ってほしいと市の観光課から頼まれた事あったな。
「覚悟するのじゃ、このきめんらいだーさーや、ぱにっしゅふぉーむが相手なのじゃ! ズババババーンとやっつけるのじゃ!」
「グロロロロロー、ボールーゲー」
ノリノリの紗夜が対峙しているこの着ぐるみ怪人、確か……超人間ダロムマンって作品のメダマボルゲとクチボルゲだ。
昔のヒーローの無料特撮動画配信ネットでも話題になったやつで、物凄く気持ち悪い怪人(ボルゲ魔神)が出てきて、外国人の似た名前の子がいじめの対象になるから名前使わないでくれと親が投書したら、番組の冒頭に『この番組に登場するボルゲはかくうのもので、じっさいの人とは関係ありません』のテロップが出る用になったって作品だから、俺でも知っているくらいだ。
他にも少女漫画でネタとして出て来たヤゴボルゲの変な子守歌も有名だったよな。
「うわー、ごっつキモいわー、あーしでも引くレベルやわー」
ゴキブリでも平気な
まあ実際に俺が見ても相当気持ち悪いデザインで、こりゃ当時の子供も泣くわ。
どうやらここでお化け騒動が起きたようで、スタッフが着ぐるみを回収し忘れて逃げたのが今怪異と一体化して動き出しているってのが正解かもな。
「きめんらいだーさーや、きゅーんきゅんと変身じゃ、往生せい!」
紗夜がクチボルゲを思いっきり殴り飛ばすと、怪人は脆くなった壁をぶち破りながら下に落下した。 コレ中にスタントマン居たら重症確定だわ。
だが、怪異の入った着ぐるみは、何事も無かったかのように階段を這いあがって来た。
怪異には骨が無いのだろうか、くにゃくにゃしながら登ってくるのがマジで気持ち悪い。
「うわっぁあああ、気持ち悪い!」
「拙者、お化けは苦手でござる」
「あひゃー、こっちくんなて」
罪堕別狗(ザイダベック)の三人は致命傷にならなかったみたいだが、戦闘には何の役にも立たなそうだ。
まあ……俺もはっきり言って戦力外なので人の事言えないが。
「だーかーら、こっち来んなやぁー!!」
満生さんが喧嘩キックでメダマボルゲを蹴っ飛ばした。
蹴っ飛ばされたメダマボルゲはむき出しの鉄骨に突き刺さり、ジタバタしている。
これ、着ぐるみの中に人がいたら即死案件だわ。
それでも着ぐるみはジタバタしながら動いているからマジで不気味としか言えない。
さらに外はもう夕方から夜になってきてますますお化けの時間だ。
早くここから帰らないと母さんが食事作って待ってくれているはずだ、急いでこの変な案件を終わらせないと。
「紗夜、もうごっこ遊びはいいからそろそろ終わらせてくれないか」
「ちぇっ、わかったのじゃ。それではワシの必殺技……ぱーとわんでとどめを刺すのじゃ」
この必殺技パート1って、完全にノリが鬼面ライダー骸(ムクロ)じゃないのか。
「グロロロロー、ボールーゲー」
この怪人、台詞それしかないのか?
紗夜は霊力を体に集め、そして一気に瓦礫を駆け上り、高い場所に移動した。
ヒーロー番組でヒーローは高い所から飛び降りてキックすると誤学習してしまったみたいだが、紗夜が大怪我したり死ぬわけが無いのでもう俺は何もツッコミを入れずに見ているだけだ。
「行くのじゃ! ワシの必殺技、だいなみっく……きっくなのじゃー!」
「グロロロロ! ボールゲェエエー!!!!」
オイオイ最後までそれかよ。
ボルゲ魔神のクチボルゲとメダマボルゲは二匹まとめて紗夜の霊力を込めた飛び蹴りで爆散した。
まあ流石に火薬を仕込んでいたわけでは無いので、大爆発とはいかなかったがそれでも着ぐるみだった物が木っ端みじんだ。
「流石っス! 紗夜姉さん半端ないっス!!」
罪堕別狗の
でも……本当はこれでも本来の十分の一の力なんだけどな。
「そう悠長な事言っとる場合やあらへんでぇ、お客さんどんどん増えてるわな」
満生さんが辺りを見渡し、鋭い目つきで何かを睨んでいる。
どうやら、着ぐるみ怪人が倒された事で、他の怪異が俺達を敵とみなし、わらわらと姿を現したみたいだ。
紗夜はドヤ顔で着ぐるみ怪人を倒した余韻に浸り、この状況にまだ気が付いていない。
「しゃーないな、ここはあーしの出番ってとこか、作造、大人しくしてるんやで」
「ピュウ……」
満生さんは、お化けマンションの下の方からわらわらと這い出てきた悪霊や怪異の中に一人で飛び降りていった。
まあ、彼女ならそれでも倒せるんだろうけど、武器とか無くて戦えるのかな?
「満生さん、武器とか無くて戦えるんですか?」
「武器なら持っとるわ、これがあーしの武器や!」
そう言うと、満生さんは胸元に手を入れ、法具の独鈷を取り出した。
でもあの独鈷で何をするのだろうか? 彼女の持っているのは通常、三独鈷と呼ばれる物だ、あれで祈る事で怪異を退けるのだろうか。
――だが、満生さんの行動は、俺の想像を超えたものだった。
「これがあーしの武器、なんちゃってビームソードや!」
なんと、満生さんが独鈷を横に持つと、その三本の部分から青白い光が伸び、剣のような形に姿を変えた。
「ええーい、寄らばKILL! なんちゃってな! 覚悟せいやっ!!」
満生さんは襲って来た悪霊を次々とばっさばっさと独鈷からの霊気の剣で斬り伏せた。
その姿はまるで、映画に出てきたアクションスターのようにキレが良く、彼女は宙返りや反転、また縦斬りや横切り、袈裟斬りといった殺陣を見事に披露しながら数十という悪霊を片付けていった。
だがやっつけてもやっつけてもどんどん悪霊が増えてくる。
それはまるで何かに後ろから急かされて現れているようだった。
そして、怒号が聞こえた。
「貴様ら、何をやっておるか! 労働標準作業量はまだ達しておらんのだぞ! 早く邪魔者を排除せんか!!」
この声、相当高圧的だ。
声が聞こえた途端、悪霊の動きが大きく変わった。
まるで、もう後がないかのように一気に満生さんに襲い掛かって来たのだ。
「ちょ、ちょっと待ちや、そんなに一気に相手出来ひんってね」
流石の満生さんも半狂乱で躍起になった霊にはてこずっているようだ。
そこに紗夜がやって来た。
「何じゃ、この程度で根を上げるのか、だらしないのう」
「じょーだん! この程度あーし一人でどうにかできるわ!」
紗夜と満生さんは背中を向き合わせながら囲んできた悪霊を次々と吹き飛ばした。
「貴様ら、それでも帝国臣民か! この程度の輩何故排除できん!!」
うわー、これブラック上司そのものだ。
いや、ブラック上司が悪霊になったといったところか。
大半の悪霊が紗夜と満生さんに倒され、しびれを切らした敵は、何かを呼び出した。
それは……とてつもなく巨大な工場のクレーンやプレス機といった機械だった。
「吾輩はこの志葉帝国軍需工場の工場長だ! 大日本帝国の敵である貴様らを粛正する!!」
うわー、この悪霊、旧日本軍の軍需工場のブラック工場長の霊かよ。
そうか、コイツが死んでなおここに居座って他の霊をこき使っていたってワケだな。
「口ばかり達者な痴れ者め、貴様に人を導く資格なぞ有りはせぬわ、覚悟せい。本当の為政者が何たるものかその体に教訓を叩きつけてやるのじゃ!」
どうやら紗夜はこのクソ工場長の霊にかなりの嫌悪感を抱いたようだ。