次の日俺は、経理の倉持さんに呼ばれた。
「社長、不動産会社からお電話です。どうやらシステムマンションのリフォームの件との事みたいですが……」
そうか、あのシステムマンション、ついにリフォームの仕事が始まるのか。
「はい、
俺が不動産会社の社長に聞いたのは……システムマンションリフォーム中止の件だった。
どうやら、あのシステムマンション、セキュリティやオート電化で元から人気物件で入居希望者が殺到していたのだが、マンションの中で女性の声が聞こえるだの、電波やWi-Fiが勝手に接続されるだの、あの
だが、その怪異が解決された事であっという間に全室満室になってしまい、リフォームをする必要も無くなり、時間をかける事も出来なくなったそうだ。
「そうですか、それではまたの機会に……えぇ?」
でも悪い話ばかりではなかった。
あのマンションが怪異の事故物件で無くなったのは俺達のおかげだと感謝した不動産会社の社長は、ツムギリフォームの本社をわざわざ訪れ、分厚い札束の入った封筒を俺に手渡してくれた。
どうやらリフォーム代としてはお渡しできないが、あの事故物件を解決してくれた除霊のお礼としてのお金という事みたいだ。
こういった事故物件を解決できる業者は他には聞いた事が無い、と不動産会社社長は驚いていて、つい酒の席で友人にこの話を漏らしてしまったらしい……。
また、何か仕事があった際にはウチに頼むと言っていたので、これは損して得取れって事かもしれないな。
実際、ウチにはその次の日、佐藤武蔵建設から仕事の電話が入って来た。
佐藤武蔵建設という事は、また無茶振りされなきゃいいんだが……。
前回の鬼哭館解体はどうにか間に合ったが、今度同じようなヤバいもんだったらマジでどうしようか。 なお、鬼哭館の跡地には新型マンションのメゾンキコクが建つらしい。
だが……
地方局あるあるの地元密着施設のコマーシャルってやつだ。これ、絶対に完成したら連れて行けーって言われるやつだな。
で、その佐藤武蔵建設からの仕事は……まさにその大型ショッピングモールららもーとに関する事だった。
どうやら、ららもーとが建つ予定の場所は、曰く付きのお化けマンションの跡地になるそうだ。
このお化けマンション、どうやら軍需工場の跡地に建てたらしく、完成直後から心霊現象多発であっという間に住民が逃げ出し廃墟になってしまったらしい。
その後は、解体途中を利用して昔の特撮ヒーローの悪の軍団のアジト等として使われたので、初代鬼面ライダーやX3、鬼面ライダーマイティ等でも見れるみたいだ。
だがその後は風雨による腐食や老朽化が進んでいるが、それでも解体しようとすると事故多発だったり、作業員に異常が起きてしまうので結局中止のまま現在に至っている。
それでも市志葉市の市長が経済活性化の為にここを大型ショッピングモールにしようというのは、隣の
それで、今の俺達ならこの怪異事件多発のお化けマンションでも問題解決出来るだろうという事を佐藤武蔵建設のお偉方があのシステムマンションの不動産の社長に聞いたといったところか。
まあこの仕事が成功すれば、数千万にはなりそうなので本来システムマンションのリフォームをするはずだった予定と仕事に組み込む事が出来る。
そうでなければ社員にボーナスどころか来月の給料もまともに出してやれるかどうかの綱渡りだ。
そういうわけでここは断るワケには行かないんだよな。
とりあえず俺達は一度そのお化けマンションの廃墟に行ってみる事にした。
但し、本当に何か怪異事件に巻き込まれると困るので、ツムギリフォームの社員には別の小さな仕事を地元でやってもらう事にし、ここにはオレ、紗夜、満生、それに紗夜の行くところに付いていきますとついて来た罪堕別狗(ザイダベック)の連中だけでやって来た。
紗夜はいつものぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ、満生さんは『お化けのおまけ』と書いた長袖の変T姿だ、どうやら少し肌寒いからと長袖にしたみたいだが、それでもどこでこんな変なTシャツ売ってるんだろうか……。
俺は……まあ動きやすい作業着にヘルメットと安全帯、やはり現場は安全第一だ。
一応罪堕別狗にも安全の為にヘルメットを渡そうと思ったが、頭がヘルメットに入らないのであきらめた。
「紗夜姉さん、この壺、何なんっスか?」
「とりあえずタクミが持ってこいと言ったから持ってこさせたのじゃ、落としたり割ったりするでないぞ」
「へい、わかったっス」
まあその壺、落としても叩いても割れない謎のトンデモない硬さなんだけどね。
でも罪堕別狗の三人は恐る恐るそろりそろりと壺をゆっくりと運んでいる。
この壺が悪霊を抑える地鎮の壺としての役割を果たすかどうかは分からないけど、一応念のため持ってきたといったとこか。
「何やイヤーな妖気が漂っとるなー、コレあんまりよくないやっちゃで」
「満生さん、何か感じるんですか?」
「せやな、何かめっちゃキモい奴の気配感じるんや……」
滅茶苦茶気キモいやつって……一体ここに何がいるんだよ?
――だが、そのメチャクチャ気持ち悪い怪物は、夕方になってその後すぐに姿を見せた。
「グロロロロロー、ボールーゲー!」
「うゎぁあああー! でででぇ出たぁああー!!」
「あひゃー! アレは何でござる!?」
「かんにんや、かんにんやてー!!」
罪堕別狗の三人が見たのは、全身目玉だらけの巨大な目玉の怪物と、口がものすごく大きく牙の生えた不気味な怪人だった。 確か……公式50周年記念の配信でやってた超人間ダロムマンのメダマボルゲとクチボルゲだっけ??
ってこれ、特撮の着ぐるみだよな!? 中には誰も入っていないはずなのに、なぜこれが動き出しているんだ?
しかもメダマボルゲの目の部分は、造形のはずなのに電気やモーターも歯車も無いのにギョロギョロと不気味に動いているし、クチボルゲの口からはよだれか毒液のような物が垂れ落ちている。
コレは実際の特撮着ぐるみに仕込もうと思ったら相当複雑なギミックが必要な物だ、つまり……本当にこれは着ぐるみに何かの怪異が入り込んで動かしていると考えてもおかしくは……ない。
「こここ、ここで逃げたら罪堕別狗の名前が泣くぜ、いくぞ! お前達」
「おうっ!」
「やったるでー!」
罪堕別狗の三人は、無謀にもこのボルゲ魔神に挑もうとした。
「「「いけー、罪堕別狗アタックドリームアタック!!」」」
いや、何でアタック二回言ってるの?? それよりも、勝てるワケないのに無理すんなー!
「うぎゃー!」
「どわー!」
「あびゃーぁ!!」
なんのこっちゃない、三人とも軽くボルゲ魔神の着ぐるみにあしらわれて壁の方に吹っ飛んでしまった。
オイオイ、頼むから病院送りにはならないでくれよ。
「なんや情けないなー、この程度のバケモン相手に」
「ふむ、そうじゃな、あの程度の相手、このきめんらいだーさーやの相手ではないのじゃ」
「アンタ、何言っとるねん?」
ドヤ顔の紗夜は、何やらどこかで見たようなポーズを決めた。
「変身じゃ、ワシのターン!」
冗談か? と思っていたが、どうやら紗夜は霊力を使っての服装のチェンジを前にゴスロリ衣装でクソ男へのオシオキで見せた事があったので、それと同じやり方なら可能みたいだ。
そして実際に紗夜が変身したのは、再放送を見ていた鬼面ライダー骸(ムクロ)を自分風にアレンジしたような姿で、骸骨イメージにスタイリッシュにメカっぽい意匠、ところどころが紅色のライン、それにマフラーではなく振袖のような帯が巻いてあり、それでいながら紗夜の趣味やサイズに合わせているのでどこかカッコいいというより可愛い感じの桜色の混ざった衣装姿だった。
「これがきめんらいだーさーや、ぱにっしゅふぉーむじゃ!!」