子ザルの作造は和室の上の欄間を開け、そこから様子を見てくれたみたいだ。
二人の服装は、紗夜はいつものぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ、そして満生さんは『骨まで愛して』と書かれたTシャツを着ていた。
マジでこのセンス、そんなシャツどこで売ってるの? と問い詰めたい。
そして、俺は作造の中のじいちゃんから
その内容はこうだ。
◆
「しかし許せんな、マジで女の敵やで!」
「そうじゃな、ワシの
「そっか、それ忍者の事やな、それより何やねん! 売れへん時に支えてくれた彼女を、慣れへん仕事までさせて金づる扱いしてやで? その上、病気なっても見舞いにも来んと、ちょっと売れたらストーカー呼ばわりとか、ほんま許されへんわ! マジで女の敵や、今回はあーしもトサカ来たでー!」
といった話だったようだ。
その後、紗夜と満生さんが話し合い、満生さんは美紅さんを成仏させる、そして紗夜はクソ男のレントに死なないまでも二度と女に手を出せないようなキツイお仕置きをする事で話がついたらしい。
そして、いきなり紗夜がぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマをその場に置いて姿を消した。
それから少しして戻ってくると、ゴスロリスタイルで滅茶苦茶良いドヤ顔をしていたそうだ。
「おかえりー、ほんで、どないなったんや?」
「フッフッフ、ワシの悪霊姫としての本領を見せてやったのじゃ、ここでそれが見られれば良かったんじゃがな」
「なんや、そんな事ならあーしの水晶玉で見れるわ」
「そうか、ワシももう一度見てみたいもんじゃな、さぞ痛快じゃったぞ」
満生さんが水晶玉に念を送ると、紗夜が何をやって来たかが再現ビデオのように映し出された。
その映像で見た紗夜、見た目は美紅さんの姿なんだが、その姿でレントの前に現れ、抱き着く。
そしていきなり服はそのまま、肉が無くなり……骸骨だけの姿になった。
一緒にいた女達は全員がいきなりのホラー開始に一目散に逃げだした。
「レント……よくも……ワシを裏切ったな……」
「ひいいぃい、美紅!? お前、死んだんじゃないのかよ! 確かマンションで死んだってニュースで見たぞ!! こっち、こっち来んな!!」
「許さん……ワシを……よくも、呪ってやる……」
「ひいいいいいー、わ、わるかった、悪かったから。お前を本当に迎えに行くつもりだったんだー」
よくもまあこの期に及んで嘘を重ねたもんだな。
「ウソをつけ……ワシを金づるだとか、すとーかーだとか言っておったのは聞いておるぞ……」
「美紅、一体どうしたんだよ、何か変なもんにとりつかれてるのか?」
「変なもんとは何じゃ……ワシは美紅じゃ……」
い、いやそれどう考えても美紅さんじゃないから、素の紗夜丸出しだから。
「わっわっわわわわ、悪かった、だから、だから成仏してくれ」
「成仏じゃと……片腹痛いわ……」
そう言って大量に姿を見せたのは、滝川の部下の皆様のエキストラ。
手を出さなくてもそこに数十人の骸骨や幽霊がいるってだけでもうホラー。
「ひぇえええええっ!! たたた、助けてェエ!!」
「ならぬ、ここでくたばるのじゃ!!」
そしてレントが滝川の骸骨に斬られた。
「ギャアあああー!! あ? アレ??」
だが、斬られたはずのレントは無傷、だが別の骸骨に今度は火を付けられた。
「ギャアああア、熱いっ、熱いッ!! く、苦し……くない? え……一体、どうなってるんだ!?!?」
どうやらレントは幻の中で何度も紗夜とその部下達に殺され続けたようだ。
流石にそれがずっと続くと、もう彼は正気を保てなくなり、よだれを垂らしてだらしない笑いが止まらなかった。
「だだだ、誰か、助けてェええっ!!」
そんな中、どうにか一瞬、正気を取り戻した彼は、一目散に部屋を逃げ出した。
骸骨になっていた紗夜は再び美紅さんのゴスロリを着たいつもの可愛らしい姫の紗夜に戻っていた。
「ふふん、ワシの裁きに恐れ入ったか! これに懲りたら二度と悪さするでないぞ、クズめ!」
で、ここからは紗夜も見ていなかったところみたいだけど、満生さんの水晶玉は今度は滝川の乱破の霊の視点に合わせてくれたみたいで、警察署に駆け込んだレントの顛末がまた傑作だったようだ。
「おままわりさんっ! たたたっ助けてクダサイ、すすす、ストーカが、悪霊になって大量の骸骨でオレをを、オレを何度も殺したんですすっす」
「落ち着いてください、アナタ、大丈夫ですか? 何か、変な薬やってませんか?」
「くっすすりなんて、あやややっやってません、はやくっく、たたっ助けてください、骸骨が、骸骨が―っ!!」
あまりの呂律の回らなさに警察はレントの言動を疑い、彼を薬物検査に回し、留置場に入れたそうだ。
そしたらやっぱり出て来たのが薬物反応。
そしてレントの家は家宅捜索され、しっかりと違法薬物が見つかったようだ。
こりゃ完全に終わったな。
……といった流れが紗夜の悪霊姫としてのお仕置きの顛末だったらしい。
◆
「
「そうなのじゃ、もうがーるずとーくは終わったのじゃ」
「そ、そうなんだね……」
俺はじいちゃんの口からこの顛末を聞いたとは話さず、三人でゲームをやってから自分の部屋に戻って休む事にした。
次の日、俺は昨日の事を知らないふりしながら、紗夜と満生に様子を聞いてみた。
「それで……どうなったの?」
「そうじゃな、万事解決といったところじゃ」
「あーしはちょっとやりすぎやないかなって思ったけど、まあいいんやないかな」
「そうなんだ、ところでぽてりこ切れてない?」
俺が話をごまかすと、紗夜はもうぽてりこが無い事に気が付いたようだ。
「あー本当なのじゃ、ぽてりこを持ってくるのじゃー」
しかし紗夜は動く気配が無い、どうやら紗夜の周りには人魂がゆらゆらしているようで、その人魂がぽてりこを取りに行ったらしい、一体どれだけものぐさニート姫なんだよ!
ぽてりこを人魂に台所から持ってこさせた紗夜はゴロゴロとしてテレビを見ていた。
すると、ニュースでロックバンドのボーカルが覚せい剤所持で逮捕されたというニュースが流れて来た。
「人気ロックバンド『エンジェルダスト』のボーカル、レントこと
「やっぱこうなったなー」
「こやつ、不愉快なのじゃ。なぜこのようなクズ男に我が滝川家の銘刀と同じ字が使われておるのじゃ!?」
「おーい、ぽんぽこ姫、何か言ったんかいな」
「い、いや。何でもないのじゃ、なんでも……」
紗夜の怒りが何だかまったく別方向な気がするが、とにかくこの二人のおかげで美紅さんを騙していたクズ男が逮捕されたのは結果オーライってとこかな。
俺達はその日の夜、美紅さんのマンションを訪ね、再び彼女の霊を呼びだした。
「ほな、始めるでー」
満生さんが降霊術を行うと、彼女の生前の部屋が再現され、美紅さんの霊が姿を見せた。
「あのなー、ちょっとキツイ事言うけどな、アンタ、完全に騙されとったんや。あのレントってやつ、他に大勢の女ひっかけまくった挙句、アンタの事はな……ストーカーと言ってて、死んだこと知ってなんも気にせんかったんや」
「そうじゃ、あまりのクズっぷりにワシがキツーイお仕置きをしてやったわい」
いや、あのホラー映画も真っ青のオシオキは誰でも心折れるって。
「そう……だったんですか、アタシ……やっぱりバカだったんですね」
「そんな事無いで、アンタはべっぴんさんやし、道間違えただけやねん。だからな、もう今はここを離れて、新しい人生で幸せになるんやで、アンタなら出来るからな」
「みなさん、ありがとう……ありがとうございます……」
満生さんが何かの呪文を唱えると、辺りがどんどん光で満たされていった。
そして……涙目の美紅さんは、俺達にお礼を言いながらどんどん姿が薄くなっていった。
どうやら、本当に成仏する気になったらしい。
「そうじゃ、ワシももっとどうしょうもないクズ男を知っておるが、いつか絶対に復讐してやると考えておるのじゃ、美紅どもも頑張るのじゃ、同じごすろり好きとして応援するのじゃ」
「紗夜さん……ありがとうございます、お隣の方とどうぞ、お幸せになって下さい。それでは……さようなら」
そして、怪異マンションの幽霊、美紅さんは成仏して去っていった。