普通の霊能力者は対象の霊を誰かに憑依させるか、本人だけが霊の姿を見れて何かを説明するくらいだが、満生さんの力は、俺達みたいな一般人にも呼び出した霊を見せたり声を聞かせる事が出来るとこだ。
しかも、この能力……俺の無意識の力で発動した封印の壺に本来の能力の大半が吸い取られ、十分の一の力でこれなんだから、元の力がどれくらいか考えると凄いものだということが分かる。
まあ実際、重機も何も無しに、
あんなもん、怪獣映画か特撮じゃなきゃ不可能な事だ。
「それで、胡散臭い仕事に手を出すからワシの許可をもらおうと思って呼び出したってワケじゃな」
「せやねん、あーし、このままここでタダ酒飲みの居候やってるのも肩身狭くってな、だから仕事やろうと思ったねん」
「うむ、ワシは別にめんこい娘が二人ただ酒のみやゴロゴロしておっても家が傾かん程度の稼ぎは出してきておるが、その心意気やヨシ。良いじゃろう、お前達の思うようにやれ。ワシはもう
「わかりました、作造さん。必ずや、この新ビジネス成功させて見せます!!」
どうやらじいちゃんはこの仕事の方向性に理解を示してくれたようだ。
満生さんの能力があれば、本当に事故物件を解決する新ビジネスが成功しそうだ。
「満生さん、本当に死人と話が出来るってこれでみんな分かってくれたから、これから本格的に事故物件のリフォームを進めましょう」
「せやな、でもあーしの力はこんなもんやないで、もっと凄いもん見せたるわ」
あーあ、これで満生さんが調子に乗ってドヤ顔で何かを始めようとしているよ。
「ほな、見てな。これがあーしの力や! 来い、鵺!!」
満生さんが呪文を唱えると、黒い塊の中から何かが姿を見せた!
――でも、鵺って!! こんな場所で出したら家がぶっ壊れないのか!?
「ピュウピュウ……」
へ? 何この可愛らしい鳴き声。
そして……姿を見せたのは、黒くて小さな羽の生えた肉球のある子ザルだった。
「な、何なのじゃ……この可愛い生き物は」
「可愛いー、みつきお姉ちゃんすごいなー」
「これが……鵺……ですかい」
「Oh,ジャパニーズモンスター、ベリーキュート!!」
いや、それなんか違うだろ。
俺が鬼哭館で見た鵺とはかけ離れた、小さな子ザルが姿を現した。
いや、確かに可愛いよ。
コレが鵺と言われたらどう考えても違うだろと言いたくなるデザインだ。
まあ、どうやら……能力十分の一で召喚術を使ったらこうなってしまったようだな。
「ふむ、
満生さんの後ろにいつの間にやら残念な平安貴族がいた。
まあ、どうやらこの霊力実体化の結界の内側だったからじいちゃんの霊だけでなく、 この平安貴族の
それよりもみんなはこの可愛らしい子ザルに夢中だ。
もう名前を決める会議が勝手に始まっている。
「やっぱりバブルスでしょ」
「ボナンザがいいよー」
「ここはあえて、太郎丸でいかがですかい」
「チャッピーちゃんなんて、可愛いと思うのよね」
「絶対に鵺之介なのじゃー」
「ゴンザレス……あ、コレ、ワタシの名前デシター」
みんな好き勝手に名前を決めようとしている。
「アンタら、真面目に考えやー。名前知られたら、霊やら何やらが操られる危険があるんやで?」
「え? そこまでのものなの!?」
「そんなんやったって、知らんかったんか? 名前をつけるってことは、その相手に力を与えるってことや。それだけじゃない、相手が何者かによっては、名前を知られただけでその名前に操作される危険もあるんやから、慎重にせんと」
満生さんの一言で、全員が一気に黙ってしまった。
まあ、この可愛らしさ、確かにツムギリフォームのペットになってもいいかなって感じではあるけど。
でもどれもしっくりこないんだよな。
実際鵺っぽい子ザルはどの名前もイヤイヤしているみたいだ。
どうやら、満生さんが呼び出したものの、一応自分の意思はあるみたいだ。
結局名前が決まらず、あーだこーだと言っている間に、母さんが怒ってしまった。
「もう、それならおじいちゃんの名前で良いじゃない」
「じいちゃんの名前って……作造?」
「な、なんじゃぁぁ!?」
俺がじいちゃんの名前を言った途端、じいちゃんの霊が姿を消した。
え? いったいどうなってるんだ?
狼狽える俺に、鵺の子ザルが肩を叩いてきた。
「巧、一体これはどうなっておるんじゃ?」
「その声……じいちゃんなのか!?」
マジでどういう事だ? 俺がじいちゃんの名前を言った途端、鵺の子ザルからじいちゃんの声が聞こえて来た。
「あちゃー、どうやら……アンタがお爺ちゃんの名前付けてしまった事で、お爺ちゃんの霊と鵺が一体化してしまったみたいやね」
何だよそれ!? でも霊能力者の満生さんが言うなら間違いないのかもしれない。
実際、俺がじいちゃんの名前を言った途端、霊が姿を消して鵺から声が聞こえて来たんだから。
まあ、じいちゃんが鵺に宿ってしまったってのは想定外だが、それでも満生さんの霊能力が凄いのはみんなが納得していた。
「ほな、方向性決まったし、明日から頑張ろなー。頼んだで、巧」
「わかった、『おお事故てる』とかも見て、この近隣の事故物件調べてみるよ」
本来ならあまり頼りにしたくないサイトだが、この仕事を成功させるなら必須になってくるからな。
「ほな、もうええな。結界を解くで」
満生さんがじいちゃんの部屋の結界を解除すると、先程までじいちゃんの声を出していた子ザルが、なんだかキョトンとした表情で俺を見つめていた。
「ピュウ……ピュウ」
「あれ? じいちゃん?」
「ピュウ……」
どうやら、死者を具現化する結界が消えたので、じいちゃんの霊も消えたみたいだ。
まあ、子ザルの作造は俺達のペットとして積木家の新たな家族になった。
さあ、明日から本格的に事故物件請負人の仕事スタートだ。
――次の日、俺は『おお事故てる』を元に、色々な不動産に連絡を入れてみた。
どこの不動産もやはり事故物件は腫物扱いで、言った瞬間イタズラ電話だと思って電話を切られたところもあったくらいだ。
だが、そんな中、俺達の話をイタズラ電話や冗談では無いと思って話を聞いてくれる不動産があった。
話を聞くと、かなり深刻そうな内容みたいだ。
俺はその不動産会社を訪れ、家の主と連絡がつかない事を聞いた。
どうやら、ここの主は数年前に亡くなり、家がそのままになっていたようだ。
俺達はスーツ姿で後日、再度この家の持ち主の不動産会社の社長にお邪魔する事にした。
「おお、ツムギリフォームさんですか、お世話になっております。それで、本日はどのようなご用件ですか?」
「実は、あの三丁目の角のお宅の事なんですが」
「ああ、あの家ですか。実はわたくし共も困っているんです。解体したくても、持ち主がおらず、その身内もどこで何をしているやら……」
なるほど、身内がどこにいるか聞いていないので、本人が亡くなった後、遺産相続がどうなっているか分からないパターンか。
確かにこれは死者に直接聞くしかないな。
「わかりました、もし……その家の持ち主の家族等がわかれば、あの場所の解体はウチが引き受けてもよろしいでしょうか」
「い、いえ。もしやっていただけるなら、是非ともお願い致します」
よし、これが俺達の事故物件請負人の最初の仕事だ!
俺達は不動産会社に鍵を受け取り、ゴミ屋敷の中に踏み込んだ。
「な、何じゃここは。物置よりひどいのじゃ」
「あー、あーしの部屋。これよりはマシだったわー」
俺達が踏み込んだ家は、4DKの木造二階建て、本来なら二世帯住宅になるはずだった家だった。