何とも妙なバイトが増えたもんだ。
その罪堕別狗をワンパンで倒した紗夜は、なんとその三人を舎弟にしてしまい、俺の家に連れて来た。
そこまではいいんだけど……紗夜は今日朝からゴロゴロとテレビばかり見ている。
どうやら地方局のシバテレビで時代劇の再放送をやっているようだ。
「のう、タクミよ。この者は何度転生しておるのじゃ?」
「へ? いったいどういう事?」
「いや、先程からのう、同じ顔の者が出て来ておってな、それがどう見ても時代や場所が違うのに何故同じ者がおるのかが気になったのじゃ」
あ、これ……俳優さんが同じって事が分かってないってやつだ。
「紗夜ちゃん、そんなワケあらへんやん。あのなー、それはなー、全員兄弟や親せきやねん」
「そうなのか、だから同じ顔をしておるのか」
あのー、
これ後でバレたらめちゃくちゃ怖い事になりそうだけど、俺どうすればいいんだろ。
仕方ない、黙っておこう……。
――だが、案の定、この嘘八百が原因でこの後、満生さんがタヌキ着ぐるみパジャマの紗夜に追いかけまわされていた。
「往生せいぃぃぃ! 介錯はしてやろぅうううっ!!」
「堪忍やてぇ、っほんのおちゃっぴいやん!」
もう予測可能回避不可能、どうやら
追いかけまわされた満生さんはそのままパンツスタイルに『話せばわかる! 問答無用』変Tで家を飛び出し、どこかに行ってしまった。
晩御飯の時間になっても帰ってこなかったので俺は少し心配していたが、紗夜は、あんなうつけ者どこかで頭を冷やしてこればいいのじゃ! と突っぱねていた。
まあその後ぽてりこをカリカリかじって少し機嫌は良くなったみたいだが、今度は時代劇の俳優がバラエティでクイズに出ているのを見て、操太の言っていた意味がようやく分かったらしい。
――そして、満生さんが帰って来たのは、夜遅くだった。
その後ろには、昨日の連中とは違ったド派手な赤青黄色の装飾でフルフェイスヘルメットの傷だらけになっていた三人組が立っていた。
何だ何だ、昨日は紗夜で今日は満生さんか?
フルフェイスヘルメットの三人組は、抱えきれない程のアームストロング缶チューハイを抱えていた。
昨日はぽてりこで今日はアームストロング缶チューハイか。
俺は……満生さんに事の顛末を聞いた。
◆
超激おこの紗夜から逃げた満生さんは、家を飛び出し、そのまま走り続けたらしい。
でも流石に走りすぎて喉が渇いたので、近くにあった喫茶嵐山に入ったそうだ。
喫茶嵐山? ここからだと10㎞先のドライブインの近くじゃないか!
満生さん、そんなとこまで走ったのか。
そこで酒とカレーを注文した満生さんは、店の中にいた暴走族三人組にナンパされた。
それを軽くあしらったのが彼等の怒りに火をつけたようだ。
さらに店の外に出た満生さんは、暴走族三人組相手に火に油を注ぐ事を言ったみたいだな。
「あーしの相手したかったら、下の毛が生えてからにするんやねー、このチェリーボーイ」
「な、何だと! オレ達を馬鹿にするのか!」
「俺達は、この辺りで名を轟かせたチーム」
「その名も……」
「「「惨婆瑠漢(サンバルカン)だ!!」」」
何なのよそのチーム名、どこかの特撮ヒーローか?
満生さんはその連中を冷たい目で見ると、何事も無かったかのようにその場を去ろうとした。
「おっと、オレ達を無視して帰ろうとは、そうはさせないぞ」
「アホか、車転がすなら房総半島で暴走せいや。あーしはアンタらの相手してるほど暇やないねん。実はちょっとええこと考えとるからな」
「ふざけるな、ちょっと俺達とお茶するくらいいいだろ」
「なんや、結局相手してもらいたいんやろ。ほなええで、相手なったるわ」
これを聞いた惨婆瑠漢の連中は少し興奮したようだ。
「ただし、あーしに勝てたらやけどな!」
そう言って満生さんは指を鳴らしたらしい。
「お姉さん、それ本気なんだね。それじゃ行くぜ!」
惨婆瑠漢の三人は派手にバク宙をすると、カッコを付けたらしい。
「オレが二代目
「
「
「な、何やねんこのアホども……」
カッコを付けた三人はフルフェイスのまま、ポーズを決めた。
「あのなー、アンタら。二代目って言ってたけど、初代はどないしたねん」
「フフフフ、聞いて驚け、なんと……初代
い、いや……それをドヤ顔で言うってコイツラマジもののバカか?
「はーアホらし。アンタらの相手なんてしてられんわ」
「そうはさせないぞ、不本意ながら力づくでお友達になってもらうからな」
「そうだそうだ、一緒にカラオケ行ったりしたいんだ」
「ミサさんは喫茶店のマスターが怖くて相手できないんだよー」
三人のフルフェイスが満生さんに一斉に襲い掛かった。
だが、満生さんは軽く体をかわし、一人を地面に叩きつけ、二人目を派手に蹴り飛ばし、三人目に激しいパンチをぶちかまして喫茶嵐山の看板にぶつけたらしい。
あーあ、これまた弁償案件だ。
昨日の紗夜とは違ったが、それでも満生さんはあっという間に惨婆瑠漢の三人をのしてしまい、彼等は土下座したらしい。
「参りました!」
「姐さんと呼ばせてください!」
「その強さ、是非舎弟にしてください」
ありゃまあ、これ昨日と同じ流れじゃないかよ。
「えーめんどいわ。まああーしの言う事行くなら舎弟にしてやってもかまへんけどな、せやな……アームストロング缶チューハイ買えるだけ買ってくれへんか」
「勿論です! 喜んで!!」
で、舎弟にしたこの連中にアームストロング缶チューハイを買わせて、ようやく家に帰って来たという事みたいだ。
まったく、酒代やぽてりこ代より店の修繕費用の方が高くつくんだけど、仕方ないな……。
惨婆瑠漢の三人は俺達にお辞儀をすると、派手なバイクで帰っていった。
そして家に帰って来た満生さんはじいちゃんの部屋に戻り、紗夜と布団を隣り合わせて寝る事になった。
「そっちの方が広いのじゃ、もっと幅を広げんか」
「そっちのほうがはみ出てるでしょ、畳の縁はみ出てるんやけど」
あーあ、この二人は、まあ部屋はじいちゃんの部屋しか使えないのでここで寝るみたいだけど、二人共背中を向け合わせて顔を合わせようとしていない。
まったくこんなので俺はこの人騒がせな居候二人と一緒にやっていけるんだろうか……。
――ダメだダメだ、考え過ぎても仕方ない、今日はもう寝よう。
そして次の日、俺は仕事で喫茶嵐山を訪れ、看板の修理を受け持つ事になった。
満生さんのせいだからこれも無償だ、まあ仕方ない。
そしてマスターは工事が終わるとカレーを提供してくれた、これがかなり美味しいモノだったけど、仕事としては赤字だなーそろそろ何か大きな仕事を考えないと……。
満生さんは、昼過ぎから何かをしているみたいだ。
どうやら鬼哭館から持ち出した荷物の中の古い文献を真剣な目で見ている。
「せやせや、これや。見つけたで、これならバッチリや!」
「おぬし、いったい何をしようというのじゃ?」
いったい満生さんは何を考えているのだろうか?