「
「ぽてりこ……とな、それはこの時代の糧食か? ずいぶんと細長い形の兵糧じゃな、しかし、食事が事足りておるのに兵糧を食すとは……これが今の時代じゃというのか?」
紗夜は
「うーむ、ワシは糧食にはいい思い出が無いんじゃ、どうせ水が欲しくなる味気ない戦に備えた干したものなのじゃろう……」
「いいから食べてみなよ、美味しいから」
紗夜はおそるおそる、ぽてりこを口に入れた。
すると、紗夜の身体が固まった!!
「!! な、何じゃこの芳醇な香りと甘じょっぱさは!? 噛むとじゅわっと広がるこの醍醐の芳醇な香りとほのかに感じる昆布出汁の旨味! これが本当に糧食じゃというのか!?」
い、いや……大袈裟すぎるだろ、紗夜は操太の持っていたぽてりこについつい指を入れ、次々と食べだしてしまった。
「あー、それボクのぽてりこー……」
涙目の操太を尻目に、紗夜は憑りつかれた様にぽてりこを口に運んでいた。
気が付くと……ぽてりこの紙容器が空になってしまっていた。
操太は涙目、それに気が付いた紗夜はどうにかなだめようとしていた。
「す、すまん。ワシとした事が、つい夢中になって食ってしもうた。この詫びはするのじゃ、同じ物……用意すればいいのじゃな。タクミ、これはすぐに手に入るものなのか?」
「あ、ああ。コンビニに行けば売ってるから、俺が金出そうか?」
「わかったのじゃ、ワシがすぐにぽてりこを用意するのじゃ」
紗夜は俺から金を受け取ると、タヌキ着ぐるみパジャマのままコンビニに。
大丈夫なんだろうか……俺の心配をよそに、紗夜は夜21時近くに外に出てしまった。
いや、俺の心配は女の子の一人歩きの事では無い、むしろ……十分の一の能力とはいえ、滝夜叉姫としてのチートともいえるあの力で他人を傷つけてしまわないかの方の心配だ。
そして……三十分後、紗夜が帰って来た。
「只今帰ったのじゃ」
「お帰り……って何なのその後ろの人達!?」
「あ、どうも……お世話になりっス、オレっちらは姉さんの子分っス」
この短時間で一体何があったんだ??
紗夜は後ろのどう見ても暴走族といったヤンキーに大量のぽてりこを持たせて帰って来た。
「あらまー、ずいぶんとけったいな連中連れて来たもんやなー、後ろの奴なんて頭に巻きうんちゃん乗せとるやん」
「巻きうん〇いうなや! これはかっちょいいドリルヘッドや!」
「いや、どー見ても立派にかっちょいい巻きうんちゃんやろ」
満生さんはこの三人組の髪形を見て滅茶苦茶笑っていた。
いや、今の貴女のTシャツに書かれている『人の振り見て我が振り回せ』のTシャツもかなりのものなんですけど……。
そして、俺が紗夜から聞いた話はこんな流れだった……。
◆
夜21時近く、家の近所のコンビニ、セブンソンマートに行った紗夜は、駐車場でおかしな連中を見かけたらしい。
その見た目は、時代遅れのリーゼント、それもテトラポットかどこかの国民的アニメの主婦のような三方向に飛び出した膨らんだリーゼントのリーダー、それにコウモリの翼のような髪型、さらにどう見ても巻きう〇こにしか見えないとぐろを巻いた髪型で変なサングラスの三人組だった。
「何じゃ? あの傾奇者気取りの阿呆どもは?」
「んー、お嬢ちゃん、お買い物かな、偉いねー。でもね、夜出歩くと、こわーいお兄さん達がいるから気を付けるんだよー」
紗夜が声をかけられたのは、この辺で走り回る暴走族、罪堕別狗(ザイダベック)の三人だったようだ。
「ほう、忠告は聞こう。しかしそんな傾奇者気取りの阿呆を相手にするほどワシは暇ではないのじゃ、ワシは操太どのの為にぽてりこを買って帰らねばならぬのじゃ。それにいったい何じゃ、おぬしらのその珍妙な髪の毛と変な馬のようなガラクタは? おぬしら、子供向けひーろーの『あたまいざー』とかいうのに似ておるのう」
「誰が陳腐なガキ向け番組のヒーローだっつーのッ! ……お嬢ちゃん、あまり人を怒らせない方が良いよ。お兄ちゃん達は本当はこわーい人なんだからね」
リーダーらしい変なゴーグル型サングラスの男が凄んだ。
「そうでござる、拙者達はあまり女子供には手出しをしたくないのでござる」
服リーダ―らしい男は楕円のサングラスをしている。
「
巻き〇んこに似た髪の男は垂れ目の離れたサングラスでまるでコメディアンだ。
紗夜はこの見るもわけわからない連中を冷たいジト目で見た後スルーして帰ろうとしたらしい。
「さっさと去ね。おぬしらのそのような珍妙な格好で市中を練り歩くのはうつけ者の百鬼夜行じゃろうが」
紗夜はこのコンビニ駐車場にたむろする三人組を乾いた笑いで見ていたようだ。
「おぬしらこそさっさと帰るのじゃ、この近辺には恐ろしい悪霊姫がおるというからのう……フフッ」
「な、何でござる! 拙者達を愚弄するとは」
「泣く子も黙る暴走族、罪堕別狗をコケにするとは……許せんッ!」
どうやら紗夜の言い方はこのコンビニでたむろしていた暴走族の罪堕別狗を怒らせるものだったようだ。
「お嬢ちゃん、世の中怒らせちゃいけない人がいるんだからね、少しこわーい目にあってもらうね!」
罪堕別狗の錆田がタヌキ着ぐるみパジャマの紗夜を威嚇する為に大きく振りかぶった。
「この戦国の姫たるワシの道を阻む者は万死に値するのじゃっ!!」
だが、紗夜はその瞬間、着ぐるみパジャマの手の部分で軽くパシッとはじき返すように払った。
「のっ!? のわぁぁぁぁぁあ!?!?」
「錆田はぁーん!」
ドガラガッシャァアァンッ!!
紗夜のワンパンはリーダーの錆田ごと、彼等のバイクと伊蛭、蕪羅もろともコンビニの壁まで吹き飛ばしたらしい。
そして、無惨に転がる罪堕別狗の改造バイク、それをリーダーの錆田が慌てて起こそうとハンドルを掴んだ次の瞬間——。
スポンッ。
ハンドルだけが無残に外れた。
「ま、マッハジャンケル号がぁぁぁぁぁ!!」
「ぷくく、馬が手綱だけになってしまったのう……」
完全に心が折れた罪堕別狗の三人は、泣きながら土下座。
「すみませんでしたぁぁ!! どうかお許しをぉぉぉ!!」
「拙者達の完全敗北でござるぅぅう!!」
「かんにんやー、かんにんしたってぇー!!」
「うむ、反省する者を討つほどワシは狭量では無い、よきにはからえ」
こうして罪堕別狗を舎弟にした紗夜は、彼等にコンビニのぽてりこを買うように指示。
「わっかりました、紗夜姉さん、店のぽてりこというぽてりこ、全部買い占めます!」
「い、いや……そこまでせんでもええのじゃが……」
「オレっちら罪堕別狗! 錆田!」
「
「
「行く道一つ おおただ一つ!」
「それが、ワイらの生きる道!」
「まことに何なんじゃコイツら……」
だが、罪堕別狗の三人は店員がビックリする中、店中のぽてりこを在庫分まで全部買い占めたらしい。
こうして、罪堕別狗は紗夜の舎弟となり、ぽてりこを買い占めるという謎の使命を負わされることになった。
その後、満面の笑みで帰宅した紗夜の手には、ぎっしり詰まったぽてりこの袋があったそうな。
◆
「操太どの! ワシは買い占めてきたのじゃ!」
――と、これが一連の流れだったようだ。
そこに丁度帰って来たのが居酒屋に行ってた甚五郎さんだった。
「おう、帰って来たぞ。おや、そこにいるのは……
「げっ、あ……アナタは、甚五郎さん!?」
「何じゃい、儂のこと知っとるんかい」
「す、すみませんでしたぁー!!」
どうやらツムギリフォームの社員には暮田工業高校の卒業生もいるらしく、彼等はOBから甚五郎さんの事を聞いていたらしい。
次の日、コンビニの店長に呼び出されたオレ達は、無償で壁修理をする事になった。
まあ、それほど大した工事では無いのですぐ終わるが……しかし十分の一の力でも数人のヤンキーとバイクを大破させるって、紗夜の力マジで半端ないな。
罪堕別狗の三人組は俺の指示で工事の手伝いをし、壁はほぼ一日で完全に新品のように修理できた。
「お前達、やるじゃないかい。どうだ、儂のとこでバイトしてみないか?」
「っじ、甚五郎さん。はい、わかりましたっス、オレっちたち、お世話になりっス!!」
そうして、罪堕別狗の三人は大破したバイクのパーツ代の為にウチで不定期のアルバイトをする事になった。