俺達はツムギリフォームの本社に戻って来た。
ここは俺の実家でもあるが、社員達の住まいでもある。
田舎町というだけに土地の広さはどこまでもあり、そこに社員寮と食堂、それに俺達の住む家がある形だ。
まあじいちゃんが工務店を運営していただけに、建物は改築改築でどんどん社員寮だけでなく色々な物が作られ、近所の人が集まる集会所的なものもあり、また、児童館も母さんとその友達が運営している。
また、子供が遊ぶのに外で遊べるようにと、木で出来た大型のジャングルジムや運てい、肋木等もあり、一種のアスレチックみたいな感じになっていてこれも全部じいちゃんや甚五郎さん達が子供達の為にと造った物だ。
木造の遊具は棘で怪我しないようにニスや塗料が塗られ、角の部分は怪我防止のゴムが付けられているので安全対策もバッチリだ。
だから俺の家は普段は人の出入りが激しいが、今は朝の時間なのでまだ誰も来ていない。
俺達は朝食を採る為にツムギリフォームの食堂に向かった。
食堂では母さんが社員のみんなの料理を大鍋で用意してくれていた。
もし……俺達が怪異に皆殺しにされていたら、いやいや、こんなこと考えちゃダメだ。
ペドロさんや甚五郎さん達は自分達の部屋に戻り、私服に着替えていた。
まあ夜勤で仕事のあった時は次の日は休み、これはウチのスタイルなので、今日はもうツムギリフォームの仕事はお休みの日になる。
これはじいちゃんが決めたやり方で、下手に工期に余裕の無い状態にすると事故が起きるから、むしろ余裕をもって確実に仕事をする為のルールだ。
俺は
「母さんただいまー」
「あらあらまあまあ、どうしたの? そんなに泥だらけで。食事の前にシャワーしてきなさい。あら、この子達は?」
「あ、母さん、実は……」
「あら、かわいい子達ね、
母さんは何か勘違いしているみたいだ、それに朝帰ってきて女の子を連れて来たなんて不自然すぎるだろ!
「違うよ、この子達は、実は……」
「えっと、確か巧さんたちは古いアパートの解体のお仕事だったわよね。この子たち、ひょっとして、まだ立ち退き決まらないまま行くところ無くなっちゃったの?」
母さんは何かもっと誤解しているみたいだ。
「い、いや……ワシらは」
「そーやねん、あのなー、あーしら……家決まる前に立ち退き決まってしまった可哀そうな姉妹やねん」
「な、何を言っとるんじゃおぬし……」
「しっ、ここはあーしに話合わせとけ。悪いようにはせーへんから」
満生さんが何か悪だくみを考えてるような顔をしていた。
だがその後臭い演技でいかにも自分達が荷物も持ち出す事も出来ずに立ち退きの期間が決まってしまい、行くところが無いと言った話で母さんに泣きついていたのは、俺も流石に唖然としてしまった。
「せやねん……毎日毎日、カップ麺とパンの耳、それに半額の総菜が買えたら運がええ、時にはソースだけでご飯なんてのもザラやったねん」
「おい、ワシはそんなひもじすぎる生活、
「あらあら、それは可哀そうな話ね。お父さんお母さんと離れて姉妹で暮らしていて、お姉ちゃんが頑張って稼いでいたのね。妹さんはまだ働ける年じゃないから、お姉ちゃん頑張ったわね。いいわ、まずはここでご飯を食べていきなさい」
母さん、お人よしにもほどがありすぎだろ! 満生さんの浪花節狙いのまるで何とか新喜劇にでも出て来そうなありえない演出を聞いて涙目になってぽんぽんと肩を叩いてあげているんだから。
紗夜姫はそんな満生をジトーとした目で呆れて見ている。
だが、何とも美味しそうな匂いが漂って来たので、それにフラフラと釣られて食堂の方に向かってしまったようだ。
今日の朝食は、ハムサラダに焼き魚、それにみそ汁と漬物とご飯、勿論ご飯とみそ汁はおかわり自由だ。
どうやら野菜とか米とかはじいちゃんがずっとこの町で仕事をしていたので、安く家を建て直してもらったり、台風でボロボロになった小屋や倉庫等を直してもらった人達がお礼として売り物にならなかった不揃いな野菜等をタダでくれているものが多いので、食費はほとんどかかっていない。
それに休みの日には子ども食堂も運営しているので、そういった補助金も少々出ているから食費も社員から取らずにやっているくらいだ。
「ううー、美味そうな焼き魚なのじゃー、しかも、川の物では無く海の物、こんなの数百年ぶりに見るのじゃー」
紗夜姫が目をシイタケのようにして輝かせていた。
一方、満生さんは、勝手に冷蔵庫をあさり、ビールを出そうとして、俺の母さんに冷蔵庫を閉められていた。
「お姉ちゃん、お酒は朝から飲むものじゃないわよ……」
「は、ははは……これは、すんまへん」
ニコニコ笑っているが流石に母さんの無言の気迫に、満生さんも勝ち目は無かったようだ。
「ママさん、ツケモノくださいデース!」
「はいはい、ちょっと待っててくださいね」
ペドロさんは昨日とはまた違った特撮ヒーローのお茶碗を使ってご飯を食べている。
どうやらこのアニメや特撮のヒーローのお茶碗で食事をするのが楽しいみたいだな。
「うむ、今日のアジも良いもんじゃな、房総沖で昨日採れたヤツか」
「甚五郎さん、それ、昨日スーパーで買った分ですわ」
そのスーパーが地元密着だから房総沖のアジなのかもしれないけど、この会話かみ合ってないな……。
ツムギリフォームの社員達は十人程で食事をしている。
その席の二つに隣り合わせに紗夜姫と満生さんが座っている形だ。
「その魚、ワシのより大きいのじゃ!」
「そっちのハムの方が大きいからお互いさまや! 人のやつ取んなや!」
この二人は……食べ物で醜い争い繰り広げないでくれ。
まあなんやかんやで無事食事が終わり、俺は母さんと一緒に紗夜姫と満生さんをどうするかの話を進める事にした。
「それで、紗夜さんと満生さんっていうのね。元々鬼哭館ってアパートに姉妹で住んでたけど、立ち退きしなければいけなくなった。でも保護者がいないのでその書類を記入する前に話が進んでしまって結局解体までに間に合わずに行くところが無くなっちゃったってことなのね」
「せやねん、だからあーしら、めっちゃ困ってますねん。どうか、ここに置いてくれまへんか? 何でもお仕事しますよて」
「お、おい。仕事と言ってもワシは……」
「ええから黙っとき!」
母さんは少し何かを考えたようだったが、その後にっこりと笑って満生さんに語りかけた。
「良いわ、そうね……女の子二人を社員の寮に入れるわけには行かないから、それなら亡くなったお爺ちゃんの部屋はどうかしら」
「か、母さん、勝手に決めちゃ……」
「巧さん、この子達行く場所無いんでしょ。それならすぐにでも決めてあげないと」
母さんは普段ほわほわしているが、コレと決めたらすぐに動く人だ。
だから母さんがこの二人を俺の家に住ませると決めたからもうこれは決定だろうな。
父さんがいない今となっては、この家の決定権は母さんにある。
「そ、そんな……悪いのじゃ」
「おおきに! おばさん、めっちゃ感謝してます!!」
満生さんは母さんの手を握り、飛び跳ねながら喜んでいた。
紗夜姫ももう知らん、こうなったらなるようになれって感じの投げやりな態度だ。
「でもおばさん、それなら一度お爺さんに許可もらわんと」
「え? でもお爺ちゃんもう亡くなってて……」
「あーしの力なら、お爺さんと話できるねん、やっぱここはきちんと筋通さんとあかんと思ってさ」
満生さんはそう言うと、俺の亡くなったじいちゃんの部屋に向かった。