――コケコッコー!
どこからか鶏の鳴く声が聞こえる。
まあ、田舎町の平和な朝の光景そのものだ。
だが、今俺達の居る場所はそんな牧歌的な田舎町の光景とはかけ離れた異常な場所だった。
ツワモノどもが夢の跡……じゃないが、ここは激戦の跡で、今は瓦礫しかない。
ツムギリフォームの面々は、どうにか退避した状態から恐る恐る戻ってきていた。
そう、俺達がいる場所は……見事に建物の崩壊した瓦礫の山、それも大半が霊力やエネルギーで吹き飛び、残骸が残っていた鬼哭館の成れの果てだった。
あの巨大妖怪バトルを繰り広げていた
「な、何じゃこの惨状は。儂は長い間解体作業の仕事をしておったが、これほどの惨状は戦後以来じゃ」
「Oh! ジャパニーズ怪獣バトル、リアルタイムで見れると思いませんデシタ!!」
ツムギリフォームの面々は、この非常識すぎる惨状をまともに受け入れているのだろうか?
夜通し続いた
そして残ったのは、まるで震災の後か空襲でもあったかといったような瓦礫の山。
吹き飛んだ木材にへしゃげたパイプ、屋根と壁の無くなって柱だけが残った建物の残骸に中庭の部分はまるでクレーター。
まるで少年向け格闘アニメで超人同士がエネルギーをぶつけ合ったような滅茶苦茶さだ。
元々俺達が解体作業をするはずだったとはいえ、想定外の事ばかりで俺はイライラがMAXに達していた。
下手すりゃ死人も出ていたこの大惨事にもかかわらず、紗夜姫と満生は取っ組み合いのキャットファイトを繰り広げている。
霊力を使い果たした紗夜姫の姿は、年相応の中学生くらいの姿に戻っていた。
しかしそれがまあ、頬を引っ張ったり顔を引っ掻いたり、何とも無様というかなんというか……。
満生の後ろにいた平安貴族も今は力を使い果たしていて手を出せず、おろおろしているようだ。
「だーかーらー、そろそろ諦めてくれへんかなー」
「おぬしこそ、もうヘロヘロじゃぞ……潔く負けを認めい……」
甚五郎さんやペドロさんもこの二人を止めるべきかどうするか困惑している。
この二人は……全く反省する事も無く取っ組み合いの喧嘩をしている紗夜姫と満生を見ていて、俺の中に沸き上がる怒りがふつふつと燃えて来た。
それなのにこの二人は人の気も知らず、ずっとお互いを罵倒しながら取っ組み合いの低レベルの喧嘩を続けている……。
「なんやー、この時代遅れののじゃ亡霊!」
「やかましいわ! このあばずれがっ!!」
「お前ら……そろそろ……」
「そうでおじゃる、もうそろそろやめるでおじゃ……」
平安貴族の亡霊も流石にこの二人の不毛な争いに呆れているようだ。
「ええい、止めるでない!」
「そーや、手を出すんやないで!!」
「黙れこのキツネ女!」
「うっさいわ、このタヌキ娘!!」
――ブチン! 俺の中で何かがキレたような音がした。
「お前らぁぁぁあ! いいいいぃぃ加減に……しろぉおおおおおっっ!!」
俺が大声で叫ぶと、その辺に転がっていた地鎮の壺が空中に舞い上がった。
コレってひょっとして俺の力??
だが、壺は勝手に動き出し、何か凄い光を放った後、いきなりけたたましい音を立て始めた。
いったい何が起きているんだ?
「ぬ、ぬうううぅうう、な、なんでおじゃろうか!?
「なななな、なんやー! あーしの身体からなんか抜けとるんやけどー!?」
「なんじゃじゃなんじゃ!? ワシの力が……抜けていく、まさかこれは安倍の……法力か!?」
平安貴族から青い色のオーラが抜け出し、満生からは黄色い色のオーラが、そして、紗夜姫からは桜色のオーラが抜け出し、激しく空中で三色の螺旋の光になり……それらの全てが地鎮の壺の中に吸い込まれてしまった。
そして、壺が激しく何度か点滅してから蓋が自動的に締まり、その蓋は俺がもう一度開けようとしてみても、ビクともしなかった。
どうやら俺の中にも何かの力があったのかもしれない、だがその力はこの壺に三人の能力を封印する為に使われたみたいで、俺も一気にどっと疲れが襲って来た。
俺がフラフラしながら立ち上がり、鬼哭館の成れの果てを見渡すと、そこには座り込んで大泣きする二人の女の子の姿があった。
「なんでやー、あーしの力、ほとんど持ってかれてしもたー」
「なんなのじゃー、ワシが空も飛べんし、霊力が出せぬのじゃー……」
この二人が昨晩まで本気の殺し合いをしていたとは、とても思えないダメダメっぷりだ。
びーびー泣いている姿を見ると、ただの年相応の女の子にしか見えない。
「何じゃ何じゃ、この女の子二人が激しく殺し合いをしていた妖怪じゃというのかい」
「Oh、ジャパニーズキュートガール。キモノがとてもプリティーデース」
他のツムギリフォームの面々も、その後にピーピー泣いている二人を見て困惑している。
俺達はなんだか二人が気の毒に思え、声をかけてやった。
「まあ、とにかくいったんここから離れよう」
「いややー、ここはあーしの安住の地なんやー。絶対ここから離れんでー、地縛霊なっても居座ったるー」
い、いや……もう建物が瓦礫の山でとてもここ人が住める場所じゃないんだけどな。
鬼哭館は完全に全壊、かろうじて結界を張っていたはずの二階の満生の部屋だけが残っていたが、これだけ屋根も無く電気も水道も壊滅状態だととても住む事は出来ないだろう。
「あああ、あーしの、あーしの部屋がぁぁぁー」
「満生、気の毒でおじゃるが、これはもう無理でおじゃる。平安の世のように雨風の中でも生きれるなら良いのでおじゃるが、満生には到底無理でおじゃろうて」
「当たり前やー! 誰が野宿なんて出来るねん、このアホ!」
気の毒ではあるが、立ち退きに応じなかった彼女の自業自得と言えばそうなる。
それに、佐藤武蔵建設から預かっていたはずの立ち退き合意の書類がこの騒動でどこかに吹き飛んでしまったので、彼女の立ち退き先も不定のままだ。
「と、とりあえず……ここにいても仕方ないから、ウチ来てご飯食べませんか?」
「うぐっ……うぐっ……あーし、この後どうすればええねん」
「満生、己はどうも霊力が足りず姿を保てぬようなので、いったん姿を消すでおじゃる」
「あー、この薄情もーんっ!!」
どうやら平安貴族の亡霊は姿を消してしまったようだ。
さて、一方の悪霊姫の紗夜姫は……というと。
「何故じゃ、ワシが姿を消す事も、空を飛ぶ事も出来ぬのじゃ、いったいどうなっておるのじゃ?」
どうやらこちらもこちらで、霊力が封印されてしまい、本来の力からかなり激減しているようだ。
「紗夜姫さん?」
「タクミー、そんな他人行儀な言い方は嫌なのじゃー、ワシの事は紗夜と呼ぶのじゃー」
「紗夜……さん、それで、この後俺達はご飯を食べるんですけど、いっしょに行きませんか?」
「わかったのじゃ、タクミが行くならワシもついていくのじゃ」
どうやら紗夜姫は霊力を封印され、空高く飛ぶ事が出来ないようだ。
彼女はかろうじて地面からふわふわ浮いて移動している。
そしてツムギリフォームの面々は瓦礫になった鬼哭館を離れ、一旦会社に戻って朝食をとる事にした。
紗夜姫、それに満生さんは、工具の積まれた俺達の社用車の後ろに乗せてもらい、ツムギリフォームの社屋兼俺の家に到着した。