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怪異1 事故物件請負人始めました 亡霊アパート鬼哭館 4

 俺でも一応清和源氏ってのは聞いた事がある。

 征夷大将軍と呼ばれる武家のいちばん偉いボスになるには、その血を引いている者という暗黙の了解があるくらいだ。

 だから農民の出だと言われていた豊臣秀吉は関白、太閤であり、征夷大将軍にはなれなかった。


 つまり、滝川家とは、時代が違えば征夷大将軍になれた血筋ともいえる由緒正しい家柄だ。

 平安貴族の蘆屋あしや家がいくら名門とはいえ、清和源氏の正統の血を継ぐ相手には立場的に負けるといえるだろう。


「くぅ……まさか、清和源氏の所縁の者とは、不本意ではあるがおれも貴族の端くれ。ここは素直に頭を下げるでおじゃ……」

「アホか! だーかーらー……何いっとんじゃボケ!」


 満生みつきという女性が平安貴族の亡霊に大声で叫んだ。


「アホか、あのなー、いくら清和源氏の血と言っても、滝川なんて戦国時代に滅びた家系やろ。それに対してあーしら蘆屋はこの令和の時代まで続いてる由緒正しい陰陽師の家系なんやで、そんなんで気落ちすんなや、アレ付いとんか、アレ!」


 いやこの満生さん、見た目の綺麗さに対して口メチャクチャ悪いな。


「う、うむ。そうでおじゃった。蘆屋は今の時代まで残っている銘家でおじゃる。おれとしたことが気迫で押されてしまったでおじゃる。ここは一度態勢を立てなおすでおじゃる」


 平安貴族の霊はそう言うと、何かの文言を唱え、黒い何かで紗夜姫さんの身体を縛った。


「これぞ令呪金縛り、これはおれが術を解かない限り決して外す事が出来ないのでおじゃる」

「ほう、この程度でワシを縛ったというか、面白い」


 紗夜さや姫が、美少女が決してしてはいけないような、目が真っ赤で口が真横に裂けたような表情をしている。

 そしてその直後、彼女は自らを縛っていた黒い霊力の糸を力任せに引きちぎった。


「ぬん、この程度の令呪でワシを縛れると思っておったのか、このたわけめ」

「な、何でおじゃる。おれの令呪を解くなど、千年前にもいやしなかったというのに」

「ワシはこの地で怪異と恐れられた滝夜叉姫たきやしゃひめじゃ、貴様ごときには想像も出来ぬ、この地に住む者共の恐怖の感情で倍加された念の力、思い知るがよいわ!」


 そう言うと彼女は霊力を高め、その姿は中学生くらいの美少女から……大学生か成人くらいの美女になっていた。

 元から美少女だったのに、それが成長した姿なので絶世の美女と言えるナイススタイルに和風な黒髪ロングで前髪ぱっつんの姫カットがとても似合っている。

 その姿は、怖さの中に美しさを感じるようなまるで吸い込まれるようなものだった。


「では見せてやろう、これがワシの力じゃ」


 今度は紗夜姫の身体から放たれた赤色の帯のようなモノが血の色の桜の花びらと共に平安貴族の霊を包み込んだ。


「これぞ桜花血破乱舞おうかけっぱらんぶ、桜の花びらに食い殺されるがよいわ!!」

「ぬう、これしきの事で、やられるおれではないでおじゃる!!」


 平安貴族は持っていた扇子を振り、桜の花びらを散り飛ばした。

 そして散り飛ばされた花びらは、鬼哭館に降り注ぎ、花びらの触れた場所がどんどん穴が開き、鬼哭館の外観はボロボロで、屋根は穴だらけになっていた。


「な、何やのあのバケモン……傲満ごうまんと対等に戦うなんてありえへんわ」


 ツムギリフォームの面々はこの妖怪大戦争に巻き込まれないように敷地の外に出ている。

 とりあえずはあの平安貴族と紗夜姫、この敷地内の外には被害が出ないように結界を張っているのでフルパワーで戦ったとしても周りに被害は出ないみたいだが、それでもやっている事はまさに妖怪大戦争としか言えない。


 紗夜姫と平安貴族の戦いは、霊力対決の次は、今度は肉弾戦になっていた。

 平安貴族なんて普通に肉体的に貧弱なのだろうと思っていた俺だったが、昔の日本人は違うな。流石に車や電車の無い時代に生きていただけに元の体力が今のプロレスラー並みだ。

 一方の紗夜姫も戦国武将のお姫様というだけに、どこから出したか分からない刀だったがそれを器用に使い、扇子と刀でお互いが斬り合う剣戟が繰り広げられている。


 しかもお互いが霊力で空中を自在に飛び回る事が出来ているので、見た目はまるで少年漫画のバトルシーンか格闘ゲームのプレイキャラの戦いっぷりだ。


 流石のあの満生さんという女性もこの紗夜姫と平安貴族の対決にあんぐりと口を開けて見ているしかないようだ。


「其方、やるでおじゃるな。まさかおれと対等にこれほど戦えるとは」

「キサマこそやるではないか、ワシの知っておる弱虫の馬鹿殿よりよほど腕が立つようじゃな」


 紗夜姫と平安貴族の対決はお互いが一歩も引かないものだった。

 だが流石にフルパワー同士で斬り合い、疲れが見えたところで紗夜姫の鋭い蹴りが平安貴族を捉えた!


「ぶぐぉっ!!」


 激しく蹴り飛ばされた平安貴族は鬼哭館の外の時計塔部分に激しくぶつかり、三階部分の時計塔が瓦礫になってしまった。

あー勿体ない。いくら解体するとはいえ、あの時計は貴重品で残しておきたかったのに。


「やるでおじゃるな、それではおれの本気を見せてやろう、満生、力を貸すでおじゃる!」

「わーったよ、アレを呼ぶんやね、ほな……行くで!!」


 平安貴族と満生さんは二人で力を合わせ、何かを呼び出そうとしていた。


「「来い! ぬえ!!」」

「ヒョウヒョウゥゥゥゥーッ!!」


 闇の中から姿を見せたのはけたたましく鳥の鳴き声を叫ぶ異形の怪物だった。

 満生という女性と平安貴族の二人が力を合わせて呼んだのは、猿の顔に虎の脚、キジの翼に蛇の尻尾を合わせたような巨大な魔獣だった。


「ヒョウゥゥゥウ!!!」

「くッ、もののけか! まさかこのようなモノがおるとはな!」


 紗夜姫は刀で虎の脚を弾こうとしたが、その勢いに吹き飛ばされ、鬼哭館の外階段に激突した。


「ほう……そちらは増援を呼んだか、それではワシも部下を呼ばせてもらうとしようかのう……」


 紗夜姫の目が真っ赤に光った。

 そして、地面に手を触れた彼女の周りの地面が激しく揺れ始めた。


「地に眠る滝川の家臣達よ、ワシの力となり、常世に再び姿を見せよ!! 来るのじゃ、武者髑髏むしゃどくろよ!」


 紗夜姫が大きな声で呼ぶと、地面を割り、中から大量の人骨と朽ちた鎧兜が姿を見せた。


 もうホラーとしか言えない、地面から大量の骸骨が出て来たかと思ったら、それが一つに合体して数メートルクラスの巨大な鎧武者の姿の骸骨に姿を変えた。

 こんなもんホラー映画とか苦手な人が見たら一瞬で卒倒する光景だ。


 そして数メートルの怪物同士がオンボロアパートの鬼哭館の敷地内で激しいバトルを開始した。

 数メートルの巨体の妖怪同士がぶつかると、それだけで木造アパートがどんどん崩れていく。

 あーマジで解体するとはいえ、自分達の手でやろうと思っていたのが勝手に巨大妖怪対決で粉々になっていくって。


「ちょ、鵺、やめてーや、あーしの部屋、結界張ってても完全やないんやて。そんなに激しく暴れたらここぶっ壊れてしまうやないの」

「ヒョヒョォオオウオウウッッ!!」

「駄目でおじゃる。今は鵺は満生の言葉を聞いている余裕が無さそうなのでおじゃる」

「だーかーらー! あー、あーしの安らぎの場所がー!!」


 この鵺と武者髑髏の対決で鬼哭館はどんどん瓦礫の山になっている。

 壁が崩れ、二階部分がかろうじて残っているものの、屋根は骨組みが見え、木造の外のモルタルはヒビだらけでまるで震災の後にかろうじて残った建物状態だ。


「Oh。これぞジャパニーズKaiju battle!! 凄いモノを見たのデース!!」

「そんな事言っとる場合じゃないじゃろ! ここはさっさと逃げた方がええ!!」

「でもたくみさんがまだあそこに」


 ツムギリフォームの人達は鬼哭館の結界の外で何かを言っているみたいだ。

 だが、俺は鵺と武者髑髏の激しいバトルの音のせいでそれが聞き取れなかった。

 だが一つ言えるのは、紗夜姫のくれたというじいちゃんからもらったお守りのおかげで俺はこの激しいバトルの中でも無傷で守られているという事だ。


「武者髑髏! そろそろとどめを刺すのじゃ、行け! 骸刀乱雅がいとうらんが!」

「そうはさせへんでぇ! とどめや、鵺! 暗夜哮弄あんやこうろう!!」


 二つの巨大妖怪の本気のエネルギーのぶつかり合い!!

 それは周りの全てを吹き飛ばした!!


 そして……空が白み始めた頃、鬼哭館の在った場所は、瓦礫の山だけが残るまるで焼け野原のようになっていた。

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