俺が持っているお守りは、
じいちゃんが生前持っていた物で、俺が二十歳になった時に譲ってくれた。
どうやら何か由来があるとは聞いていたけど、まさかこんなところで効果を発揮するなんて!
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「何故じゃ、何故……貴様がそれを持っておるのじゃ! それはワシが……渡した物……」
今俺の前で空中に浮いているのは、
滝夜叉姫の伝説は、地元の紀國図書館の絵本か紙芝居かで見た事がある。
それはこの土地に昔あったお城で、落城の際に抜け穴から逃げようとして家臣全員と生き埋めになってしまった悲劇のお姫様の話だ。
その後、城跡で自らの骨を捜し、さまよう亡霊と聞いていたが、まさか本当に実在したとは。
だが、その悪霊姫の呪いが、何故か俺の持っているお守りのおかげで効かなかったようだ。
でも、そのお守りがその滝夜叉姫の渡した物って??
闇を切り裂くように響いた滝夜叉姫の怒声は、怨霊のそれだった。
目の前の俺を睨みつける彼女の瞳は、深い恨みと絶望に染まっている。だが、俺は一歩も引かずに立っていた。
「なぜ、ここに…!」
滝夜叉姫は声を震わせる。だが、次の瞬間、俺の胸元に彼女の視線が吸い寄せられた。
そこには、古びたお守りがぶら下がっていた。
「貴様…それ…どこで手に入れた?」
滝夜叉姫の声が変わる。先ほどまでの怒気は霧散し、まるで別人のように震えていた。俺はお守りをそっと手に取りながら答えた。
「これ? じいちゃんがくれたんだ。ずっと大事にしてるんだよ」
その瞬間、彼女の顔色がさっと変わった。驚きと戸惑い、そして何かを確信したような表情。
「…タクミ…?」
か細い声だった。だが、俺には確かに聞こえた。
「え?」
次の瞬間、姫はゆっくりと近づいてきた。怨霊の気配は完全に消え、彼女の瞳は潤んでいた。
「タクミ……なのか……? そなた……生まれ変わったのか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! え、俺のこと知ってるの?」
だが、俺の戸惑いをよそに、姫はふわりと笑った。その笑顔は、それまでの怨霊の面影を微塵も感じさせない、柔らかく可憐なものだった。
「やっぱり……間違いない……! タクミ、ずっと会いたかった……のじゃ!」
次の瞬間、彼女はふわりと俺に抱きついた。
その小さな体は震えていて、彼女の声もかすかに泣いているようだった。
「おいおい! マジで急にどうしたんだよ!」
「うるさい! ワシはずっと……ずっとそなたに会いたかったのじゃ……!」
俺の困惑をよそに、悪霊姫は離れようとしなかった。ふわっとした黒髪が俺の首元をくすぐる。彼女の体温は思ったよりも温かかった。
「本当に……タクミなのか……」
「いや、俺は
「……いい。今はそれでいいのじゃ……」
姫はそっと顔を上げた。涙をためた瞳で俺を見つめ、微笑む。
「…これから、全部思い出させてあげるからの。ワシがそばにいるからな……」
俺は心底困惑していた。だが、その小さな手が自分の服をぎゅっと掴んでいる感触に、なぜか懐かしさを感じていた。
「もう……どこにも行かせなどせぬ……タクミ……」
滝夜叉姫は、まるで夢でも見ているかのように俺の顔を見つめていた。
その瞳には、驚きと、涙が宿っている。彼女は震える指先で、俺が持っていた古びたお守りに触れた。
「それ……間違いない……ワシが……そなたに差し上げたものじゃ……」
俺は困惑しながらお守りを見下ろした。
じいちゃんから受け継いだこのお守りは、ずっと家に伝わるものだと聞いていた。
だが、目の前の少女は、それを自分が渡したものだと言う。
「え、いや……どういう……うーん?」
「間違いない! タクミ……やはり……生まれ変わって……」
次の瞬間、紗夜は涙をぽろぽろと零しながら、俺の腕に飛びついた。
先ほどまで怨霊じみた恐ろしさを纏っていた少女とは思えないほど、彼女は必死で俺にしがみつく。
「ずっと……ずっと待っておった……! ワシは……置いていかれたと……思って……」
「あ、あの……滝夜叉姫さん?」
「
ぴしゃりと訂正され、俺はますます混乱する。
アパートの住人の女性は少し離れたところで「ふふっ」と楽しそうに笑っている。完全に面白がっている顔だ。
「ええと……それは、その……?」
「タクミ……」
紗夜はじっと俺を見上げる。その目は、まるで長年会えなかった恋人を見るかのように、潤んでいた。
「もう……一人にはせぬ……今度こそ……永遠に……」
「え、えええ……!?」
俺の顔が一瞬にして真っ赤になる。だが紗夜は構わず、さらにぴったりと身体を寄せてくる。その様子を見て、アパートの住人の女性は吹き出した。
「あっはははは! いやー、良かったやん、キミ。前世の因縁ってすごいなぁ! それってさー、ツンデレってやつ? あーしアニメとか見ないからわからへんけどな」
「笑ってる場合じゃない! 助けてくれってば!」
「ええやない、こんな美少女が慕ってくれてるんやで。なぁ、紗夜ちゃん?」
「そうじゃ、ワシはタクミのためなら何でもするのじゃ!」
紗夜はキラキラと目を輝かせながら即答する、その勢いに、俺は完全に押されっぱなしだった。
どうやら先程まで正気を失っていたツムギリフォームの面々もどうやら正気を取り戻したようだ。
「おや、いったい何があったんじゃ? って、これはあの地鎮の壺!? 何で空いておるんじゃい」
「Oh! これぞジャパニーズツンデレ、とても良いものみせてもらいマシター!」
戦いの緊張感はどこへやら、鬼哭館には、賑やかな笑い声が響いていた。
だが、それで話はオシマイってワケじゃないんだ、俺がここに来たのは鬼哭館を解体する為、その為にあの住人の女性には出て行ってもらわないと困る。
「タクミ、ワシはそなたの事なら何でも聞いてやるのじゃ、何でも申してみよ」
「えっと、それじゃあ……あの女性を、ここから出て行ってもらいたいんで、話してもらえます?」
「え? あーし?? 冗談やね、さっきのヤバいの、見たよな。それが、あーしの敵ってことかいな?」
いくらあの女性が霊的に強くても、この辺りで恐れられている伝説の悪霊姫の滝夜叉姫に勝てるとは思えない。
まああの人には気の毒だけど、こちらも仕事がかかってるんだ、それなら紗夜姫に手伝ってもらおう。
「ふむ、いいじゃろう。まあ、死なぬ程度に痛めつけてやろう。タクミも目の前で人が死ぬのは見たく無いじゃろうからな」
「じょーだん! いくら戦国時代の悪霊姫といっても、このあーし、
女性が何かの札を胸元から取り出した、すると、札が空中で小さな竜巻になり、中から出て来たのは平安時代の貴族のような姿の銀髪の男だった。
「満生、
「あのなー、あの悪霊姫さんやっつけてや! アレ相当ヤバいやつやて!」
「わかったでおじゃる、平安貴族の陰陽師である
満生さんと言っていた女性は、平安貴族の陰陽師を呼び出し、紗夜姫と戦おうとしていた。
「ほう、平安の貴族とな、古の亡霊ごときがワシに勝てると思っておるのか! このたわけめ!」
さっきまで俺にデレデレしていたはずの紗夜姫は、いきなり目を真っ赤に光らせ、周りを黒いオーラで満たし始めた。
「これはこれは、高貴な姫君と見たでおじゃる、では、これを食らうのでおじゃる!!」
平安貴族が何かの動物のような姿の光を放ってきた、だが、紗夜姫は一歩も動かず、それを消し去った。
「ふむ、このような低級な式神でワシに毛筋ほどの傷すら与えられると思っておったか、この愚か者め」
「な、何でおじゃる。
「ワシか、ワシは……滝川家当主、
いや、そんな過去のマウント合戦やられても困るんだけど……。