次の日、俺達は解体予定のアパートに到着した。
亡霊アパートと噂の鬼哭館に到着した俺達ツムギリフォーム一行。
すると、いきなり気持ちが悪いと言い出す作業員が出た。
おいおい、昨日の食事で食中毒とか勘弁してくれよ。
でもそれなら同じ食事をしていた俺は何故何の問題も無いんだろうか?
「出ていけぇぇぇぇー! 出ていけぇぇええ!!」
「ヒエエエェェェー!! 出たぁぁぁあ!!」
「オマーイガーッ パパよ、助けてクダサイ!」
何だ何だなんなんだ!?
解体予定の鬼哭館の見積もりのつもりでやって来た俺達は、いきなりの作業員の異変にパニックになっている。
中にはゲロを吐き出す人、泣き出す人、笑い出す人、色々だ。
ただ一つ言えているのは、誰一人としてまともじゃないって事だ。
だがそんな事で仕事を諦めたら待っているのは倒産だけだ、ここは確実に仕事をやらないと。
俺は鬼哭館の敷地に入り、庭を見渡した。
草がぼうぼうと生い茂る中、見つかったのは……人骨!?
まままま、待てよ、どうなっているんだ? こんな場所に人骨があるなんて。
しかも、人骨はいきなり動き出し、俺に向かって飛んできた!!
「のわあああ!!」
俺は思わず、人骨に向かってパンチを入れたが……手ごたえが無い。
え? コレって何なんだ!?
「ェェエエケケケケケ、出ていけ、出ていかないと呪い殺すぞぉぉぉ!」
オイオイ、この科学全盛の時代にお化け騒動って、コレって誰かの立体映像を使ったイタズラか?
俺はビックリする事無く、アパートの階段を上り、二階に向かった。
そして、ボロアパートの住人にここを解体工事する事を伝える為、ドアを叩いた。
どうやらここの住人は全員立ち退き、残っているのは一部屋だけみたいだ。
「お邪魔します、ツムギリフォームと申します」
「あー? あーし、新聞とかいらないからー」
見えた部屋の中はまさに汚部屋、大量の山積みのゴミ袋と無造作に転がった350mlのアームストロング缶が外からも見えていた。
そして中から出て来たのは……金髪でナイススタイルの綺麗な女性だった。
しかも、胸が大きい! それに下、ズボンをはいていないで縞々のパンツ一枚って!!
だが、そんな彼女の胸元を見て俺はビックリしてしまった。
いや、それは胸が大きいからではない、彼女の来ていたTシャツのセンスが常人には理解できないようなモノだったのだ。
彼女の来ていたTシャツに書かれていた文字は『まろやか人生』だった。
いったいどこに行けばこんな変な柄のTシャツを売っているのだろうか。
「新聞じゃない、って事はあーしにここを出ていけって言いにきたんやね。やーだよ、あーしぜったいここ出て行かへんから」
そう言うと彼女は何かブツブツ言い出し、俺は見えない何かに殴られて二階から吹っ飛ばされ、庭の草むらに落下した。
「イテテ、うーん、いったい何があったんだ!?」
仕方なく俺達はここを引き上げる事にした。
このアパートを離れると、おかしな挙動をしていた従業員達も正気を取り戻したようだ。
そして俺達は地域住民に話を聞き出し、このオンボロアパート鬼哭館が、以前の変人アパートから今は亡霊アパートと呼ばれている事を知った。
どうやらあのアパートに居座って亡霊騒ぎを起こしているのがあの金髪の住人って事みたいだ。
冗談じゃない! 俺達はあのアパートを解体しなければ倒産だ。
こうなったら何が何でもあの女性に出て行ってもらわないと。
でもいったいどうすれば……。
俺は、じいちゃんにこっぴどく怒られた後に言われた事を思い出していた。
――巧よ、この壺の中には昔の悪霊が封じられておる。何があっても開けてはならんぞ、
――そうだ、亡霊に対抗するなら亡霊をぶつけてやればどうだろうか。
そう考えた俺は、次の日、家の台所にあった壺を持ち出した。
この壺はずっと昔に宮大工だったじいちゃんの祖先が偉い陰陽師の家を普請した際にもらった物で、この壺があるとたいていの霊的現象が納まると言われた凄い物だ。
じいちゃんの死後、使われる事も無く床の間から間違えて母さんが台所に持って行ってしまい、そのまま置かれたままになっていたが、その地鎮の壺ならあの霊現象も抑える事が出来るかもしれない。
俺は家に帰りじいちゃんの遺影に手を合わせてから台所の地鎮の壺を持ち出した。
壺はかなり重かったが、ペドロさんが持ってくれたので助かった。
そして鬼哭館に再度到着した俺は、土地の霊を抑える為に地鎮の壺をアパートの庭に丁寧に置いた。
すると、アレだけ硬かった壺は何故か簡単に蓋が開いてしまった。
アレだけ硬い壺の蓋だったのに、何故だろうか? そして壺の中身は……空っぽだった。
「何だよ、怖がらせてこのオチか?」
だが、その直後……壺の中から何かが飛び出し、空中に女性の顔のようなモノが見えた。
「ワシの封印を解いたのはキサマか……? ワシは
どうやら俺は、とんでもなくヤバいモノを開いてしまったようだ。
「答えよ、ワシの封印を解いたのは……キサマ……か?」
「あああああ、貴女は、だだだだ、誰ですか?」
「坊ちゃん、ありゃあ儂ですら見た事ありませんぜ」
「オーマイガー、パパ様、助けてくだサーイ!!」
ツムギリフォームの作業員達がみんな大混乱中だ。
下手すりゃ全員あのトンデモなく強そうな悪霊に呪われてしまいそうだ。
だが、何故か俺はその変な影響を受けていないようだ。
何でだろうか? ツムギリフォームの作業員達はあの甚五郎さんですらその場に倒れ、泡を吹いている。
その様子を見ていたのはあの昨日の金髪の女性だった。
「アアアア、アンタらいったい何持ってきたんやー!? それめちゃくちゃヤバいヤツやんか! あーしですらあんなモン見た事ないで!」
昨日の金髪の女性が二階の窓から何か叫んでる。
しかしやはり気になるのは変なTシャツだ、今日のTシャツには――ネコと和解せよ――と書いている。
「わ、分からないです! 持ってきた壺が、いきなり蓋が開いたと思ったら、中から凄いモノが出てきたんです!!」
「何をごちゃごちゃ言っておるのじゃ、ワシは滝夜叉姫、この地に古くから根付く存在じゃ。ワシを封印したのは誰じゃ。その者は絶対に許さん、ワシが呪い殺してくれるわ! キサマ、安倍の末裔か!!」
「何かわからないけど、この悪霊姫、メチャクチャ激おこだ。そして安倍って誰なのよ?」
「だーかーらー何で安倍やねん! 安倍は敵や! あのなーあーしは
わーやめて、これ以上悪霊姫を怒らせないで下さい。
「安倍……では無いと、言うのかえ。じゃが関係無いわ、ワシが常世に戻って来たからには、全てを呪い、死に至らしめてやろう!」
俺は後悔してた、これがじいちゃんが決してこの壺を開くなと言っていた理由だったんだ。
まさか地鎮の壺の中にこれ程の怪異が封印されていたなんて、これは仕事どころじゃない、下手すれば全員謎の変死だ。
だが、それでも俺はツムギリフォームのみんなを守らないと、マジでじいちゃんの会社を俺のミスのせいで潰させるわけにはいかない。
「そうはさせない、呪うなら俺だけにしてくれ、うちの社員は関係無いんだ、貴女の壺を開いてしまったのは俺なんだから」
「ほう、潔い主じゃな、よかろう、それではキサマから呪い殺してくれるわ!!」
俺は滝夜叉姫の放った呪いを全身に受け、死ぬ覚悟を決めた。
あーあ、短い人生だったな、でも社員のみんなを守る最後の仕事くらいはしてやらないと。
……だが、滝夜叉姫の呪いは俺を蝕む事が無く、周りで止まったままだ。
何故だ? 俺は胸元で何かが光っているのを感じた。
これは、じいちゃんが俺にくれた
「な、何故じゃ。何故キサマがそれを持っておるのじゃ!?」
悪霊姫が大声で俺に叫んだ。