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第8話 『二人の師』

sideーースパルダ・カームブル。


ニグラスが剣術を習い始めてから数ヶ月が経過した。

この数ヶ月、ニグラスに剣を教えた感想は"感動"だ。

そして、同時に"恐怖"も抱いた。


その理由は、奴の潜在能力と吸収力。

あの日、ニグラスが初めて剣を握った日から感じていた。

こいつは…強くなる、と。

型や基礎は口程にもないが、言ったことは全て一度で完璧にこなす。

どんなに地味で厳しい体力訓練や素振りを弱音を吐きながらもやり遂げ。

どんなに自分に打ち合いでボコボコに骨を折られても、何度でも立ち上がり向かってくる。


日に日に動きが洗練されていく。

偶に、私が教えた事もないような奇妙な技を使ってくる。

何処で憶えたのか気になる所だが…まぁいい。

我流、それはそれで大歓迎だ。

私もまた我流の剣術をニグラスに教えているのだから。


更に。

ニグラスの成長速度は異常だ。

剣術もそうだが、魔法に関してもセイラムが同じ言葉を口にしている。


そして私が何よりも気に入っているのは、奴の人柄だ。

勇王国内で連日のように伝え聴いていた噂とはまるで異なった奴の人柄。

紳士的。

気遣い。

そして、異性に触れられた時に見せる照れ顔。


どんなに辛い鍛錬でも決して諦めず。

勉学も毎日、数時間励み。

鍛錬や食事の終わりには感謝を忘れない。

噂なぞ全て嘘だったかのようなその人間性に私は好印象を抱いている。


私は性格上、言葉遣いや態度が冷たくなってしまう事を理解している。

普通の人間はそんな私に近づく者はいない。

しかし、ニグラスは違う。

こんな私を師匠と呼び尊敬し、フェン達に見せる態度と変わらない態度で話し掛けてくれる。

それが何よりも嬉しかった。


どんなに打ちのめしても。

どんなに厳しい課題を貸しても。

ニグラスを奮い立たせる為とはいえ、どんなに酷く罵っても。

当の本人は、「師匠!師匠!」と犬のように寄ってくる。

ま、初めてから私の太ももや胸を見て邪な視線を向けていたが。

今となってはそれすら愛おしく感じる。


最初は、適当に教えて。

剣術を習った気にさせて放っておこうと思ったが、今はただただ純粋にこの剣士が何処まで高みに上れるかと言う期待と興味が沸いている。

だから、戦闘訓練も熱が入ってしまう。

何度も言うが、ニグラスの成長速度は驚異的だ。


最近は魔力を常に身体に纏い続ける身体強化を維持しながら闘い続ける事も行っている。

打ち合う度に強くなり、駆け引きも卓越してきた。

私の剣撃にもなんとか身体が追い付いている様子も見られる。

まだ本気ではないにしても『剣聖』たる私の剣に対応出来る事だけでも素晴らしい事だ。


初めてだ。

これまでも私に師事したいと頼み込んできた者が居る。

その誰も彼もが中途半端で心の底から剣術が好きだと感じた奴が居なかった。

だが、ニグラスからはそれが伝わってくる。

打ち合うたびに奴の熱い魂が木剣を通して伝わってくる。

そして楽しそうに剣を振るう姿に胸が熱くなる。

剣に魅入られた者が魅せるその姿に、私は心が燃え上がる。

かつて幼き日に抱いた感情。

あの時、僅かに自覚した感情。


それに気付いてから私はもうニグラスをただの弟子だけだと思えなくなった。

自分に届き得る剣士として。

そして、一人の男として意識するようになった。

本人には死んでも伝えないが。


全く、人生とは何があるか分からないものだ。

あれほど嫌っていた貴族に、それも自分がもっとも嫌悪していた少年に恋心を抱くとはな。

あの狼女フェンもまた、私と同じ感情をニグラスに向けている。

私は其処に不満はない。

フェンもまた私の心に気付いていながら、それを肯定する。

ある時、女子会が開かれた。

その時に、ニグラスについて語り合った際に将来は2人で共有しようと結論づけた。


私は何があってもニグラスを守る。


たとえ彼が、この世界の敵となっても私は必ずニグラスの味方で有り続けるだろう。





sideーーセイラム・エリエッタ・ユードラシル。


あーしの名前はセイラム・エリエッタ・ユードラシル。

自分で言うのもなんだが、私は王国いや、世界全土で名を馳せる大魔法使い。

研究施設に引き篭もって新たな魔法の開発などの研究を行っている。

こう見えて私は悠久の時を生きるハイ・エルフの生き残りである。

もう自分の歳さえ数えるのをやめてしまった。


そんなある日。

王国内である噂を聞いた。

どうやら、少し前に冒険者として一緒に活動していたある剣士の女とある貴族についての話だ。

この勇王国で一番、悪い意味で有名な貴族ニグラス・シュブーリナの剣術講師をかの名高き『剣聖』スパルダ・カームブルがしていると言う。

彼女の性格を知っているセイラムとしてはその噂を聞いた時、信じられなかった。

彼女は貴族を極端に嫌っていた筈だ、特にそのニグラスを。

それでも何故、剣術の師事を受け入れたのか興味が湧いたセイラムはニグラスに会う事に決めた。


どうせ退屈で無駄に永い人生なので少しくらい、無駄遣いしても問題ない。

あの貴族嫌いの剣聖が気に掛ける貴族の少年がどんな人物なのか見定めてやるか。

そんな事を思っていた矢先、スパルダから一通の手紙が届いていた。


なんでも例のニグラス・シュブーリナが魔法を学びたいと言っているようだ。

その講師をセイラムに引き受けて欲しいという手紙の内容だった。

丁度いい。

そう思ったセイラムは快くそれを引き受けた。

どうせ、貴族の坊ちゃんが遊び心で魔法を学びたいと言ったんだろう。

適当に教えて、学んだ気にさせておこう。


そして、対面する日がやってきた。


出会った時の第一印象は意外にもまともで礼儀正しい貴族。

少し予想と違った。

伝え聞くニグラスの印象は、傲慢で強欲で屑。

しかし、いざ話してみると好青年で紳士的。

あのスパルダもまた、態度こそ厳しく鬼の様だがニグラスを気に入ってる様子だ。


ニグラスは自分の事をおたくくん?と呼んでほしいと頼んできた。

全く意味が分からなかったが、本人はとても満悦していたので良しとする。

そんなこんなで魔法の授業が始まった。

驚いたのはニグラスは思ったよりも魔法について詳しいらしい。

本当に学びたいと言うのが伝わってくる。

少しだけ嬉しかった。


基礎訓練ではひたすらに体内の魔力を限界まで伸ばし続けるという訓練を行わせる。

魔力が多ければ多いほど、魔法の威力や使用量が上がる。

魔法使いにとって魔力は命よりも大切なもの。

ニグラスは魔法使いではないものの、それは変わらない。

どんなに辛く、どんなに気絶しても、ニグラスは決して諦めなかった。


その成果は如実に現れる。

正直、驚いている。

ニグラスの魔力量はハッキリ言って異常だ。

本来、魔力というのはそんなに簡単に増えるものではない。

人や生物の持つ魔力は本来、一度決められた量から増えない…そんなルールがある。

どんなに死に物狂いの努力をしてそのルールを破ったとしても魔力はコップに数滴分しか増えない。

それ以上に、身体に襲い掛かる代償の方が多い。


しかしごく稀に、そのルールから外れた者がいる。

私自身がそうだ。

私は生まれながらにして天才であった。

元々、魔力量はトップレベルだった。

其処からたった数年でこの世界で最大の魔力量を有した。


ニグラスは違う。

はっきりと言える。

ニグラスは"天才"ではない。

むしろ、"非才"。

凡人の中の凡人である。

剣術を教えているスパルダも同じ事を言うだろう。


いや、ある意味天才ではある。

努力と成長速度に関しては天才かも知れない。

魔力を増やすには限界まで魔力を使い続ける事が必要だ。

しかし、それでも僅かにしか伸びず代償が伴う。

ニグラスは魔力を使い切る度に身体に激痛が走り意識を失う。

それでもニグラスは立ち上がる。

何が彼を其処まで突き動かすのか。


鍛錬の成果は現れている。

正直、感心してる。

凄まじい魔力量が体内を巡っている。

その魔力は宮廷魔法士レベル。

あれほど馬鹿にしていた自分が恥ずかしく後悔している。

今では彼に魔法を教えて良かったと、心から思っている。

彼は最高の生徒だ。

これまでも自分に魔法を教わりたいと近付いてきた者がいたが、てんで駄目。

魔力量を増やすには方法はこれしかない。

だが、彼等は総じて「馬鹿らしい」と吐き捨てて去っていく。

たった一人、ニグラスだけは真摯に彼女の言葉を受け入れた。

それも、嬉しかった。


私は決めた。


ニグラスを最高の魔法使いにしてみせると。


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