「着きましたわよ、ニグラス様」
「ふがっ」
ようやく着いたのか。
馬車の乗り心地があまりにも良くて寝てしまっていた。
さてと…行きますかね。
え?
何処に居るのかって?
ま、それは後々分かるからさ。
「しかし、こんなに大きかったんだなー」
辿り着いたのは巨大な大屋敷。
シュブーリナ邸も相当な物だが、此方も負けず劣らず。
こんな豪華で淑やかな屋敷にあんな怪物が住んでいるなんて想像も出来ないよな〜。
それにしても。
やはり、そうか。
ダメ元でカトリーナに頼んで手紙を送らせた。
その時点でカトリーナが手紙の送り先の知らなかったら難易度は三つに絞られていた。
しかし、カトリーナはニグラスが直筆した手紙を受け取りこの屋敷に住んでいる人間に送った。
この時点でこの世界の難易度は【スター・ウォーリアーズ】最高難易度"災厄級"である事が確定した。
最悪でもあり最高である。
ニグラスの考える通りこの世界の難易度が災厄級であるなら他力本願で最強になるという思惑は上手く行く。
「それではお気を付けて下さいまし」
「ああ、ありがとう」
フェンには此処でお留守番してもらう。
一人で行く事に意味があるのだ。
大丈夫、きっと上手くいくだろう。
これから会う人物の事はよーく知っている。
ゲームでも何度も何度もお世話になったからね。
大きな扉の前に立つ。
やばい、緊張してきた。
心臓の鼓動が高鳴る。
無理もないさ…【スター・ウォーリアーズ】で何度も見てきたキャラクターと対面出来るのだから。
大ファンとしてこれ以上、嬉しく幸せな事はないだろう。
コンコン、と扉をノックする。
おっと、2回は失礼だったな。
改めてコンコンコン、と3回ノックする。
計5回になってしまったがまぁいいでしょう。
"彼女"に貴族のあれこれなんて関係ないしね。
「うぉ!、oh…fantastic!」
急に扉が開いた。
扉を開けたのは大柄の女性。
"彼女"の登場に思わず声を漏らしてしまう。
「待っていたぞ。入れ話はそれからだ」
"彼女"に案内され応接室に来た。
"彼女"なんか趣味の悪い椅子に足を組んで座りニグラスを見下ろす。
そんな彼女と改めて対面し感動する。
手入れがあまり行き届いていないボサボサの長い銀髪。
鋭く獣のような眼光。
美しく整った凛々しい美貌。
黒ニーハイとデニムショートのパンツから覗くムチムチの太ももちゃん。
彼女の名前はスパルダ・カームブル。
【スター・ウォーリアーズ】で彼女はあまり有名なキャラではない。
これにはある理由がある。
実はこのキャラクターは特定の条件でしか登場しないゲームシナリオにはあまり関わりがないキャラなのだ。
その条件とはニグラスが懸念していたこの世界の"難易度"が"災厄級"であるということ。
このスパルダ・カームブルは災厄級でしか登場せず、災厄級のある試練イベントをクリアする事で解放されるキャラクターなので彼女の存在を知っているのは公式と唯一全攻略した奏多だけである。
何を隠そう、彼女は【スター・ウォーリアーズ】内で公式最強キャラクターなのだ。
筋力と敏捷のステータスはEXを超え、その他のステータスもSのカンストという正にチートキャラクター。
また彼女はスキル"指導者"を保有しているので師匠としての適性も高い。
そんな最強キャラに師事したら自ずと自分も最強になれるのでは?と思い彼女の元に訪れた。
正直…いやー、何というか。
ゲーム画面で見るのと、リアルに見るのだと…違うね。
特に、太ももとか!
「お前がニグラス・シュブーリナか」
「はい。初めましてスパルダ・カームブルさん、噂で聞くより美しいですね」
「それで…この私に何の用事だ?まさか、口説きに来たとかそんな下らないことを言わないよな?」
「仮にそうだと言ったら…「殺す」
「ヒッ!?」
こ、怖い…風格がある。
ゲームで彼女の性格は知り尽くしているが、実際となるとやっぱり迫力があるな。
凄い魔力だ…これ言ってみたかったんだよな〜
「冗談ですよ〜ははは」
「それで、何のようだ」
スパルダが改めて聞き直してくる。
どうやら彼女は頗る機嫌が悪いようだ。
カトリーナさんの話では今日、ニグラスが来ると分かっていた時点で相当渋っていたらしいし。
こんな時、やる事は一つである。
ニグラスは、勢いよく地面に頭を付ける。
そう、土下座である。
「スパルダ・カームブル殿。貴女に剣術の指南役をして欲しいです!」
「お前、貴族としての誇りはないのか…本当に下らない奴だ」
「貴族としての矜持など今の僕には不要。ただ求めるのは純粋な強さです」
スパルダの目の色が変わる。
侮蔑から僅かな興味へ。
ゴクリと唾を飲む。
「ほう?どうして強さを求める」
「大切な人達を…そして自分を変える為に」
変わらなければならない。
コレから降りかかる己への死亡フラグを!
その為ならば貴族の誇りなんて捨ててやるぜ!!
土下座は十八番でーす。
「ニグラス・シュブーリナ…何がお前を其処まで動かした」
「スパルダ・カームブル。変わるきっかけなんて、いつもふとした瞬間に来るんですよ。ま、強いて言うなら…コレまで碌な生き方をして来なかった自分を変えるためですよ」
紛れもなく、これまでのニグラス・シュブーリナは救いようの無い粕だった。
【スター・ウォーリアーズ】に於いて、ニグラスという男は正に悪役悪虐最低最悪の男。
なら、今世だけはそんな人生から抜け出してやると決意した。
「それで、なんで私の元に来た」
「剣術で貴女に並ぶ人物は居なかった」
「ふん。それだけか」
「そして…他人の剣術の潜在力を限・界・ま・で・引・き・出・せ・る・力を持つのは貴女しかいない」
原作に於いて、このスパルダ・カームブルの持つスキル『指南』はゲーム内で唯一『S』を超えている。
主人公のステータスを限界突破させる為には、彼女の鍛錬が必須であった。
それを自分は、自分だけは知っている。
「!…」
「そしてもう一つ。貴・女・は・必・ず・此・度・の・剣・術・指・南・役・を・受・け・ざ・る・得・な・い・」
「ほう?それは一体、どういう意味だ?」
ニグラスの放ったその言葉にスパルダの眉が僅かに動く。
組んだ足を組み外し大きく身を乗り出す。
たゆんと大きな胸が揺れ動くので思わず其方に目がいってしまった。
紅き瞳が此方を見て離さない。
「俺は貴女の秘密を握っている」
「言ってみるがいい」
「あれはある女がまだ幼く可愛らしい少女だった時の話ーー」
まだ幼かった少女は純粋でそれはもう幸せな生活を送っていました。
ある日、少女は両親の言いつけを破り森の中に冒険に出掛けました。
「……ぁ?」
初めて見る景色に少女は心を躍らせました。
森の中を自由に羽ばたく蝶々。
様々な彩りで咲き誇る花畑。
森を駆け回る動物達。
それはもう美しく少女の目には何もかもが新鮮で素晴らしい景色でした。
森の動物達と追いかけっこをしていると、少女はいつの間にか迷子になっていました。
お父さん!お母さん!と叫んでも声は届きません。
ザワザワと騒めく森の声に少女は次第に不安になって来ます。
突如、少女の目の前に恐ろしい魔物が現れました。
自分よりも遥かに大きく恐ろしい魔物を目にした少女は腰を抜かし大泣きし助けを求めました。
もう駄目だと思った瞬間ーーある一人の青年が少女を庇うようにして現れました。
大きな魔物と対峙し恐れず勇敢に魔物を討伐した青年に少女は恋心を抱きました。
「きききき、貴様!!?」
スパルダが顔を真っ赤にして騒ぎ始めた。
少女の名前はーースパルダ・カームブル。
「なっ!?ななな、なんで!なんで貴様がそんな事を知っている!?私の弱みを握って無理矢理従わせる…そんな魂胆か!」
悪いね、此方には原作で培った貴女の知識を持っている。
次の話で彼女は必ず指南役を引き受けるだろう。
それだけのカードを切る。
「そしてその少女はある日ーー悲劇に見舞われます。少女の住む街に恐ろしい龍が現れたのです」
「!!?」
スパルダの表情は一気に変わる。
殺伐とした空気が場を支配する。
「家族は少女を逃がす為に囮となり、少女が恋をした青年もまた少女を守る為にその命を犠牲に龍を退けました。
しかし、少女は全てを失いました…街も、愛した家族も、何もかも…そして少女は青年が最期まで握っていたボロボロの剣を持ち決意しました。
ーー必ず赤龍ウェールズを殺すと」
原作の後半で明らかになる彼女の過去と生きる目的。
自分の全てを蹂躙し奪い尽くした赤龍を自分の手で殺す事が彼女の目的。
「……」
「もし貴女が俺に剣を教えてくれるならば、俺は約束します。必ず貴方の望みを叶えてやると、ね」
嘘じゃない。
ハッタリなんかじゃない。
紛れもない真実にして事実。
赤龍の居場所は知っている。
「くっ、ははははは!!いや、すまない…お前を馬鹿にしている訳ではない…その言葉に偽りはないな?」
「ああ、ないとも」
「分かった。いいだろう…今日から私はお前の師匠だ。お前を剣士の真髄に導いてやる」
よし、よし!
なんとか上手くいった…!!
うひょー、焦ったぁ…
「それじゃあ、明日…僕の屋敷で待ってますね!」
「ああ。それと最後に一つ、訂正しておこう…王国最強は一・人・じ・ゃ・な・い・」
「ええ…知ってますよ。こ・の・世・界・の・誰・よ・り・も・ね・」
ーー
ニグラス達が乗る煌びやかでダサい装飾が施された馬車がスパルダの邸から離れていく。
「なんてダサい馬車だ…」そう心の中で吐き捨てながら、椅子に腰を掛ける。
そして、先ほど自分と対話していた少年の事を思い出す。
あの男の事は嫌でも知っている。
貴族やこの国の間では、少年の話で持ちきりだからだ。
史上最低のクソ野郎。
人として救いようのない屑人間。
悪虐非道最低最悪の貴族。
スパルダもまた、ニグラスという男を心底毛嫌いしていた。
自分の親友を騎士の身から使用人に陥れて、その親友の操を自分の欲を満たす為に奪った憎き人もどき。
そんな、イメージだった…ついこの前までは。
半信半疑だった。
腐れ縁のカトリーナから手紙が送られてきた時点では、遂に気でも狂ってしまったのかと思った程だ。
実際に奴と会った時、瞳の奥に揺るがない信念のような物を感じた。
奴は私に剣術の指導をして欲しいと懇願してきた。
対価も払わずに教えを請おうとする物なら首を刎ねてやろうと思ったが…その心配も杞憂。
何処で知ったのか、誰にも話したことの無い私自身の過去を語り始めた。
あの時の奴の瞳は、全て知っているぞ…そんな意思を感じた。
あろうことか、奴は私の真なる目的を言い当てた…面白い、そう思った。
だから、私は奴に剣術を教える事にした。
容赦なく。
死ぬ方がマシな程の鍛錬をしてやろう、そう心に誓った。