目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十一話 流石は私の未来の旦那様

オーティン通りから東側に数えて四本目の街道沿い、その途中に空いた空間に、奇妙な五人の男女の姿が有った。

 それぞれ男女のペアと、三人の男達とに分かれて対峙していた。

 人数的には三人組の方が有利。しかし、現況は全く真逆だった。


 男女のペアの方は、余裕の笑みを浮かべながら自然体で立っていた。

 対して三人組の方は、それぞれの厳めしい顔に引きつった表情をしながら、奇妙な片足立ちをしていた。

 何の意味が有ってか、男達は右腕を真上に突き上げて、左手を胸元に添えていた。更に右膝を曲げて、足の裏を上向きにしながら左脚に重ねていた。彼らの格好を見ていると、「シェーッ」という幻聴が聞こえた。

 そのポーズの意味は「驚き」だった。彼らは「人生最大級の奇跡(或いは絶望)」に遭遇していた。彼らの視線は「それ」に釘付けになっていた。

 三人組の視線は、男女のペアの「頭部」に集中していた。


 そこには「角」が生えていた。

 角。彼らの国、ティン王国では「ティン」と呼称する。


 尤も、ティンならば三人の男達の額からも「指の第二関節から先程の大きさ」のものが一本ずつ生えていた。「ティンが有る」程度のことならば、驚くに値しない。

 しかし、三人組は驚いた。恐怖した。その理由が、彼らの脳内に何度もリフレインしていた。


 デカい、絶対にデカい。デカ過ぎるっ!!


 男女のペアの内、男性(実年齢十五の男子)の方、そ額に生えたティンは「大人の男性の腕、その肘から先」と思えるほど長大だった。その先端から中ほどまでが「金属的な光沢を持つど漆黒」に染まっていた。

 女性(実年齢十五の女子)ほう、その両蟀谷辺りから生えたティン(二本有るので『ティンティン』)は、「大人の女性の腕、その肘から先」と思えるほど長大だった。その先端部分から中ほどまでが、「金属的な光沢を持つ紅蓮」に染まっていた。


 こんなデカいティン、見たこと無い。


 三人組の男達の常識が、それぞれ音を立てて崩れ掛けた。さもありなん、宜なるかな。

 ティン王国の歴史に於いて、「最大」と言われたティンの大きさは「手」と表現されていた。

 しかし今、三人の男達の目に映っているティンは「腕」なのだ。歴史を逸脱するほどのデカいティンを目の当たりにして、「目と常識を疑うな」と言う方が無理な話だろう。

 しかし、男達は幸運だった。彼らの常識は完全に崩壊した訳ではなかった。

 何故ならば、三人それぞれの脳内には「思い当たる節」という名の強力な修復剤が存在していたからだ。


 まさか、この二人は「デッカ殿下」と、「リザベル辺境伯令嬢」ではっ!?


 デッカとリザベルの名前は、二人が持つ「デカいティン(或いはティンティン)」と共に、ティン王国中に知れ渡っていた。例え初見であろうと分からないはずもない。男達も「それ」を見た瞬間理解していた。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。相手の正体が分かったのだから、「それなりの対処」というものが有る。

 三人組の男達は「それ」を実行した。


 先ず、両膝を地面に着いた。

 次に、両掌を地面に着いた。

 最後に、身を屈めて、ティンの生えた額を地面に擦り付けた。


「「「はは――っ」」」


 三人組の男達は平伏した。その行為の意味は、見る者全てに理解できた。


 完全な屈服、或いは服従。その行為は、或る意味苦渋の選択だっただろう。まあ、致し方なし、宣なるかな。

 尤も、デッカにとっては僥倖だった。


 やっと真面な話ができそうだ。


 デッカは、長大なティンを晒したまま、三人の男達に近付いた。そのまま真ん中で平伏する年長者、リーダー格と思しき男の前に身を屈めた。


「そんなに畏まらなくても良い――です」


 デッカは「自分の立場の方が上」と知っていた。しかし、敢えて相手に対して敬語で、優しげに話し掛けた。その気遣いは十二分に功を奏していた。


「も、勿体なきお言葉」


 リーダー格の男は、平伏したまま声を上げた。しかし、デッカの思惑とは裏腹に、その声は震えていた。「真面な精神状態」とは言い難い。

 それでも、「デッカの呼び掛けに答えてくれた」ということが、デッカにとっては十分な成果だった。

 デッカは引き続き、幼児をあやすように優しく語り掛けた。


「貴方達は誰――どちらの人達なのかな? 答えて頂けませんか?」


 デッカはニッコリ柔らかな笑みを浮かべた。しかし、三人組は全員平伏している。その表情が見えることは無かった。

 それでも、柔らかな雰囲気、気配は伝わっていた。


 冬眠していた動物が春の陽射しに誘われるように、リーダー格の男はオズオズと、震えながらも声を上げた。


「私達は、『王都参事会の保安委員』なんです」

「!」


 王都参事会。平たく言えば、「王都民で構成された『自治会』」だ。


 王都の管理者は、当然ながら現国王ムケイ・ティンその人だ。しかし、実務に関しては「王都のことは、『王都をよく知る者』に任せるのが良かろう」だった。

 王都をよく知る者。即ち「王都に住む市民(王都民)」だ。彼らが主導する実質的な王都管理機関が、件の「王都参事会」だった。


 現況に於ける王都政の仕組みを簡潔にまとめると、「管理責任者(国王)が目標を立て、王の臣下(貴族)が目標に即した作戦を立案し、それを参事会が実行、運営する」となる。

 王都政の階級、立場に関して家は、参事会は「最底辺」と言わざるを得ない。しかし、都政で果たす役割は「最重要」。正に「王都の屋台骨」、或いは「縁の下の力持ち」と言うべき組織だった。


 まさか、こんなところで「調査対象」と繋がってくるなんて。


 参事会は王都政の実務を担当している。そこには「王都の税収」にかかわる資料、記録が有るだろう。

 事実、参事会は王都に於ける酒税、食品税など、「特定商品の税収権」を国王ムケイから与えられていた。


 この機会を活かさない手は無い。


 相手が参事会の人間と分かった瞬間、デッカの腹は決まった。


「貴方達に頼みたいことが有ります」


 デッカは地面に片膝を着いて、ペコリと頭を下げた。その行為は、当然ながら平伏する三人組、参事会治安委員達の視界には映ってはいなかった。

 しかし、デッカを見ていようと見ていまいと、治安委員達には関係なかった。彼らの腹も決まっていた。


 殿下の――「あの」デッカ殿下のお役に立てるならば。


 ティン族に於けるデッカのカリスマ性は、国王ムケイどころか建国王オーティンさえも軽々超えて「生ける伝説状態」になっていた。


「「「ははーっ、何なりとお申し付けください」」」


 治安委員達は、異口同音に全力全開で快諾した。その返事を聞いて、デッカは満足げに頷いた。

 その一方で、デッカの後ろに控えていたリザベルは軽く仰け反って、その発育の良い胸部を思い切り張りながら、


「流石は私(わたくし)の未来の旦那様」


 物凄いドヤ顔を晒していた。




 ここは「事実は小説より奇なり」と言うべきか。人間万事塞翁が馬、瓢箪から駒、棚から牡丹餅。

 思わぬところで「王手」を掛けたデッカ調査隊。終に、彼らは「事の真相」が収められた参事会本部に突入する。そこで、デッカ達が見たものとは?


 次回、「第十二話 この人は、何をしているのだろう?」


 王都参事会の財務委員。彼らに安息の時間は無い。多分。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?