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第二話 私のティンティンがデカくなってる

 ティン王国の王子が侍女のティンティンを弄っている間に、少しだけ「惑星マサクーン」、及び「ティン王国」に付いて説明したい。


 惑星マサクーンは、元・地球人の神が「俺流ファンタジー」を企図して創造した、神(人)工惑星である。

 造物主が「元・地球人」であるが故に、マサクーンにも地球と同じく「海」と「陸」が有った。


 星の七割を占める大海「リバイアス」。そのど真ん中に鎮座する大陸「アゲパン」。


 海と陸には、それぞれの環境に適した生物が住んでいる。その中で、万物の霊長である人間種はと言うと、殆どが陸、アゲパン大陸に住んでいた。


 アゲパン大陸には、人間種が建てた様々な国が有った。その中に有角人の国、「ティン王国」が有った。 

 ティン王国は、他国から「辺境の大国」と呼ばれていた。その異名は伊達ではなかった。王国には「異名を保証する好条件」が幾つか有った。


 ティン王国は、アゲパン大陸の北東部、北の際に位置している。そこには「ピタラ」と呼ばれる峻険な山脈が有った。それを超えて海に出ることは至難の業。逆に海から大陸に上がるのも至難の業だった。

 神が創りし天然自然の城壁ピタラ山脈。その山裾には「モリッコロ」と呼ばれる大森林地帯が有った。それがティン王国の領土だった。


 ティン王国の地理的好条件は、中世日本の鎌倉幕府を彷彿とする。


 マサクーンに住む人間種の文明レベル「地球の中世期」で停滞中である以上、王国には「絶対無敵」と言えるほどの地の利が有った。

 しかし、他国視点で「最も厄介」と言える要素は、地の利ではなく、ティン王国の国民、「ティン族」だった。


 有角人であるティン族は、その額に生えた角、「ティン」に不思議な力、「ティン力」を宿している。


 ティン力がティン族に「他種族を圧倒する戦闘力」を与えていた。その優位性を、ティン族達は良く心得ていた。彼らはティンを崇め、敬い、拘った。


 取り分け執着していたティン要素は、「大きさ」だった。


 何故ならば、ティン力の出力の大きさ(威力)はティンの「大きさ」に比例していたからだ。その事実は、ティン族にとって僥倖ではあった。しかし、同時に「差別」と言う呪いをもたらしていた。


「ティンのデカさこそが、人の優劣を決める絶対的な基準」


 所謂「ティンのデカさ至上主義」。これを体現し、強力に推奨したのが建国の王、初代ティン王国国王「オーティン・ティン」だった。

 オーティンのティンは並外れてデカかった。他のティン族は「指」程度なのだが、彼のものは「大人の手」程の大きさが有った。


「俺のティンは誰よりもデカい。誰よりもデカいが故に、俺は誰よりも強い。誰よりも強いが故に、俺は誰よりも偉い。だから、俺こそが王に相応しい」


 オーティンは「ティンのデカさ」を根拠として王となった。この話を他国の者が聞いたなら、「そんな馬鹿な」と呆れるだろう。

 しかし、ティン族にとって、ティン力は彼らの優位性を示す唯一無二の特殊能力なのだ。その恩恵を無視することは難しい。


 ティン族に与えられた「ティンのデカさ至上主義」という呪いは、オーティン王の誕生によってティン王国の国是となった。

 王国内では「よりティンのデカき者」がもてはやされ、「より小さき者」が軽んじられるようになった。


 差別は人を不幸にする。ティンの小さき者にとって、ティン王国は地獄だった。


「こんな小さなティン(或いはティンティン)じゃ、もう生きていられませんっ」


 ティンのデカさ至上主義がもたらした精神的苦痛は、国家と国民との信頼関係に深刻な亀裂を生じさせていた。放置すれば、何れ国家崩壊の憂き目に遭う。その可能性を想像した者は存外に多い。その中に、(幸いにして)王国の為政者達も含まれていた。

 そもそも、王国存亡の危機を回避する舵取りができる者は、為政者達を措いて他に無い。その「筆頭」と言うべき存在が、オーティンの子孫であるティン王家の人間、王族だった。


 ティン王国の王子デッカ・ティン。彼には「ティン小さき者を救う義務」が有る。

 そんな彼の前に、「ティン小さき者」が救いを求めてやって来た。

 さあ、デッカはどうする? どうした? デッカは――


「俺がどうにかする」


 敢然と立ち向かった。その結果、


「ティンティンが、どうにかなっちゃううううっ!!」


 ティン王国の王城に少女の絶叫が轟いた。それを聞いた城内の侍従達は、慌てて衛兵に声を掛けた。


「城内に獣、いや、魔物が入り込んでいるかもしれませんっ」


 衛兵は総出で城内を奔走した。その際、デッカの執務室にも何人か訪れていた。


「殿下」「こちらで何か――」

「いや、何も」


 デッカは恍けた。すると、


「「そうですか」」


 衛兵達はデッカの言葉(嘘)をアッサリ信じてしまった。この素直過ぎる反応は、「衛兵として、どうなのよ?」と、疑念を覚えなくもない。

 しかし、これもティン族ならば致し方なし。宣なるかな。


 デッカは王族にして王位継承権第一位の「やんごとなきお方」だった。何より「史上最大のティンの持ち主」という、最強のカリスマ要素が備わっていた。ティン族のの中には、デッカの言葉を「神託」と錯覚する者は存外に多い。


 かくして、デッカの嘘によって「真犯人」が容疑者の中から除外された。その為、誰も原因を突き止められなかった。

 原因不明となれば、有らぬ噂が立つのは必定。幽霊や怨霊の類を主張する者も出る始末。

 この事件後、大々的な除霊の儀式をするまでに至る。しかし、その可能性を予想した者は、少なくとも「真犯人達」の中にはいなかった。


 城内で大騒ぎになっているとも知らず、咆哮を上げた少女、リィン・モータルは執務室の床に蹲っていた。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 リィンは荒い息を吐きながら、何とか息を整えようと努力していた。その奮闘振りを、デッカとリィンの父、ケイン・モータルが無言で見守っていた。


「はぁっ、はぁっ」

「「…………」」


 デッカの執務室内に、重苦しい雰囲気が漂っていた。リィンが息を一つ吐く度、室内の空気が密度を増していくように錯覚した。

 娘を見詰めるケインの額には汗が滲んでいた。それが雫となって一滴、二滴と頬を伝っていく。それらの内の一つがケインの口許まで伝ったところで――口が開いた。


「リィン――」


 ケインは娘の名前を呼びながら、蹲った彼女の右肩に右手を伸ばした。それが届いたならば、リィンも幾分か心安らかになったかもしれない。

 ところが、この場には意地悪な王子様がいた。


「ケイン、ちょっと待って」

「!」


 デッカは右手を上げて、ケインの行為を阻んだ。すると、ケインは驚いたような顔をしてデッカを見た。


 ケインの視界に映ったデッカの顔は、能面のような無表情だった。しかし、その瞳にはキラリと光る涼しい「知性の輝き」が有った。


 殿下には、何か確信が有るのやもしれぬ。


 ケインは静かに右手を下ろした。そのままデッカと共に、娘リィンの様子を黙って窺っていた。


「はぁっ、はぁっ」

「「…………」」


 暫く、時間にして五分ほど経った。そこで漸くリィンの呼吸が収まり出した。その変調に、デッカがいち早く反応した。


「落ち着いた?」


 デッカの問いに、リィンは「はい」と小さく頷いた。すると、デッカの口端が僅かに吊り上がった。


「ならば、自分のティンティンに『触れて』みてくれ」

「!」


 ティンティンに触れる。それも人前で。幼少期ならいざ知らず、思春期ともなれば躊躇いを覚える者も多い。リィンの頬は朱に染まった。

 しかし、今は「恥ずかしい」という惰弱な理由で躊躇う訳にはいかなかった。


「はい」


 リィンはオズオズと自分の蟀谷上部に手を伸ばした。すると、彼女の指先に今まで覚えたことの無い「硬い感触」が伝わった。その瞬間、


「!?」


 リィンの目が大きく開いた。それも、顔半分埋め尽くすほどに大きく。その様子を見詰める父ケインの目も、娘に負けないくらい大きく開いていた。


「嘘――」

「まさか、こんなことが――」


 リィンは「嘘、嘘」と繰り返し呟きながら、両手の指、その全てを使ってティンティンを弄り出した。

 すると、リィンの細い指の間からニョキリと「大人の親指大の角」が現れた。それがデッカの視界に「こんにちは」した瞬間、リィンの口から「嘘」以外の言葉が飛び出した。


「私のティンティンがデカくなってる」


 リィンの声は震えていた。彼女を見詰めるケインの瞳が涙で揺れていた。二人の様子を見て、デッカは満足そうに頷いた。


「上手くいった――かな」


 リィンのティンティンはデカくなっていた。それも、父ケインに迫るほど。その事実は、モータル親子を大いに喜ばせた。二人とも、この場で小躍りしたい気分だった。

 しかし、「喜びの舞」を披露することは、部屋の主が断固拒否した。


「これは飽くまで俺の個人的な憶測だけど――」


 デッカは、浮かれるモータル親子に「苦言」という冷や水を浴びせた。


「これはリィンだけでなく、ケインにも問題が有るのかもしれない」

「「えっ!?」」

「『厳しく躾け過ぎた』んじゃないかな?」

「「…………」」


 厳しく躾け過ぎた。その言葉に思い当たる節が、モータル親子には有った。

 ケインは、気弱な娘を強くする為に、敢えて厳しい態度を取り続けていた。リィンは、文句を言うことを諦めた。「自分は駄目な奴」と思い込みながら、唯々諾々と父に従っていた。

 その「駄目な奴」という呪いが、リィンから「ティンティンの成長」という大事を奪ってしまった。


 過ぎたるは猶及ばざるが如し。何事も「ほどほど」が肝要。無理をすれば弊害が出る。地面から生えかけた芽を踏み続ければ、伸びなくなってしまう。


「私が厳しかったから、娘のティンティンが成長できなかったのですか」


 ケインの顔に、今にも泣き出しそうな悲しげな表情が浮かんだ。それはデッカの視界にも映っていた。


「ティンも体の一部だから、感情に影響されることも有る――とは思う。飽くまで憶測だけど」


 デッカは、ケインに「気にし過ぎないで」と声を掛けながら、爽やかに微笑んだ。その気遣いに、リィンが反応した。


「お父さん、その――」


 リィンは何か言い掛けて、口を噤んだ。しかし、直ぐ様口を開いて、ケインに向かって思いの丈を告げた。


「お父さんは、悪くない。私が弱かったの。弱過ぎたの。だから――」

「リィン――」


 モータル親子は互いに見詰め合い、どちらともなく静かに抱き締め合った。

 この一件で、親子の絆は一層深まった。そんな二人を見詰めるデッカの視線は、どこまでも優しかった。

 しかし、笑っていられたのも束の間だった。


 暫く、時間にして三分経ったところで、ケインが顔を上げてデッカを見た。

 その際、ケインの顔には「泣いている」と錯覚するほど申し訳なさげな表情が浮かんでいた。それを見たデッカは、嫌な予感を覚えた。


 何だ、その顔は。


 デッカの予感は、直後に具現化した。


「殿下」

「ん?」

「このこと、『リザベル様の耳に入った』ら――」

「!!!」


 デッカの脳内に、最悪の可能性が幾つも閃いた。それと同時に、室内の温度が一度ほど下がった。その事実は、デッカだけでなく、モータル親子も直感していた。


「「「…………」」」


 三人とも何も言わなかった。彼らは固まっていた。心が押し潰されるような精神的衝撃を受けて石化していた。

 そのような状況で「動ける強者」は、デッカを措いて他にいなかった。


「そちらも、俺が何とかする」


 何とかする。その方法は、実は未だ考えていなかった。それでも、デッカは敢えて宣言した。その行為は、誰の目にもハッキリ分かる虚勢だった。

 デッカを見詰めるモータル親子の目が、不安に揺れていた。


「「ですが――」」


 二人は不安げな声を上げた。しかし、その声は震えていなかった。


 もし、殿下の身に何か有ったならば、我らが命を賭してお守りいたします。


 二人とも、命を賭す覚悟を決めていた。その覚悟は天晴れ。

 しかし、相手はデッカ並みのティンティンを持つ女傑、リザベル・ティムル。モータル親子の命が一ダース有ったとしても、恐らく何の役にも立たないだろう。その可能性は、リザベルをよく知るデッカには容易に想像できた。


 そもそも、この国、いや、このマサクーンに於いて「リザベルと対等に渡り合える人間」は、恐らく一人しかいないだろう(後になってバンバン出てくるかもしれないが)。


「俺が何とかするから」


 デッカは苦笑した。それを見たモータル親子は「「申し訳ありません」」と言いながら、床に突っ伏して号泣した。




 果たして、デッカは起死回生の策を捻り出すことができのか? 彼に国を救うことができるのか? それとも、どうにもならずに国を亡ぼすのか?


 次回、「第三話 ああああああああああああっ、デッカ様っ」


 リザベルの慟哭、咆哮が、王立オーティン大学女子寮に響き渡る。

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