目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

決戦ゴブリンキング

 ゴブリンの集落で待っていたのは、たった二匹のゴブリン。片方は大柄で大剣を手にした個体でもう片方は小柄で杖を持った個体だ。


「あれが王と軍師か」


 ケントの呟きにジャレッドが頷く。


「空虚な魂ですね、自分の為に周りを利用する事しか考えていません。ただ二人で残った間柄でさえ、互いが自分にとって有益な存在であるというだけの理由で共にあるだけ」


 アイリスが二匹の関係を看破する。王も軍師も相手を信頼してはいるが、それは自分にとって有益であるというだけであり、そうでなくなったら何の感情もなく捨て去る事の出来る程度の『信頼』でしかなかった。


「カカカ、弱き者ほど役に立たない相手を大事にするものよ。ワシにとって役に立つかどうかが何よりも大切な判断基準であろうが」


 王はアイリスの言葉を嘲笑する。


「当然の事だ。王に付いて行くことが私にとって有益であるからこそ、全力で王に尽くすのだ。互恵の無い繋がりほど信用の出来ないものはない。お前達も群れる事で安心感や性欲の充足を図っているだけに過ぎないだろう」


 軍師はアイリスの言葉を肯定しつつも、ケント達も同じだと指摘する。


 考えの違う相手と討論する意味は無い。重要なのは倒すべき敵であるという事なのだが、この堂々たる態度にケント達は出鼻を挫かれたような気持ちになった。


(悪には悪の理がある……か。彼等なりの信頼関係が構築されているようだ。これは厄介だぞ)


 無言で剣を構えるケント。これ以上言葉を交わせば、さらに心乱されるだろう。


『ソニックファイア!』


 コレットが先制する。二匹の身体を炎が包んだ。


「その手はもう何度も見た」


 軍師・ゴブリンメイジが杖を振ると、二匹の身体を包む炎が音を立てて消滅する。


「うおおおお!」


 ジャレッドが駆け出し、他のゴブリンソルジャー達も後に続いた。皆一様に大剣を振りかぶり、次々と二匹に襲い掛かる。


「ふん、役立たずの裏切り者どもが」


 王・ゴブリンキングが吐き捨て、大剣を片手で振るう。その凄まじい剣圧がジャレッド達を薙ぎ払った……が、全員が球状の障壁バリアに護られ切り裂かれる事なく壁へと吹き飛ばされ激突した。


「む?」


 壁に激突したゴブリン達は、やはり障壁に護られて無傷である。アイリスの守護魔法だった。



「行くぞ!」


 ジャレッド達に引き続き、ケントが地を蹴った。王は剣を構えるが、迎え撃ったのは軍師だ。


「させるか!」


『アイシクル・アロー!』


 空中に氷の矢が何本も生まれ、ケントに襲い掛かった。


『ミサイルガード!』


 コレットの魔法が襲い掛かる氷矢を防ぐ。ケントは構わずそのまま王に剣を振るう。


「ふんっ!」


 王も剣を振るい、二本の剣がぶつかる。その瞬間脳裏に浮かぶ、黒騎士の教え。


――剣の刃は脆い。敵の武器と正面からぶつかるな。


 咄嗟に剣の角度を少し変え、敵の剣の上で刃を滑らせるようにして受け流し武器の破壊を防いだ。


 王は予想外の動きに一瞬体勢を崩す。


「今だっ!」


 その隙を狙ったゴブリン達の奇襲。だがそれも軍師によって阻まれる。


『ウィンドボム!』


 爆風が発生し、彼等とケントを吹き飛ばした。また壁に激突するが、アイリスの障壁で無傷であった。


「……あの女、面倒くさいな」


 守護魔法を絶やさず展開する修道女に目を向けるキング。すぐに軍師が次の魔法をアイリスに向かって放つ。


『ライトニング!』


 杖から放出される雷撃がアイリスを襲うが、その雷を手で受け止めたのはコレットだった。


「その魔法には嫌な思い出があるのよ!」


 王がアイリスに視線を向けると同時に軍師とアイリスの間に割り込み、両手に魔力を込めて敵の魔法を受け止める。


 言葉で説明するのは簡単だが、実現する為には状況判断、敵の行動予測と瞬時に膨大な魔力を集中する実力が必要だ。


「あの妖精、昨日よりも魔力が増大している! これもあの女の力だというのか?」


 もちろんアイリスの能力などではない。疲労からの休息を経て、コレットが成長したのだ。




 戦闘が始まって数分が経った。双方、無傷ではあるが体力・魔力共に消耗が激しく次第に肩で息をするようになっている。


「……そろそろ、決着をつけよう」


 ゴブリンキングが、大剣を両手で持ち腰を落とした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?