アイリスは、類まれなる才能値を持つ勇者として生まれた。しかし、今現在Aランクとして知られている三人にその名は挙がっていない。
何故なら、彼女は弱かったのだ。
生まれつき目が見えない事も大きなハンデではあったが、凄まじい才能値を記録した事と生物の魂が見える不思議な能力を持っている事から周囲に期待され、大事に育てられていた。それはケントとも同じである。
だが十三歳のある日、彼女の住む町にモンスターが現れた。そのモンスターとは、ヌマネズミ。ケントが初めての敗北を喫したあの最弱のモンスターである。
当然、こんな雑魚はアイリスが簡単に退治するものだと周囲の人々は思っていた。だが、攻撃魔法は覚えておらず、メイスを振るい殴っても毛皮に跳ね返された。危うくかみ殺されそうになったところをCランクの衛兵に助けられたのだった。
その日、彼女は『出来損ない』と呼ばれ町から追放された。彼女に関する記録も全て抹消され、最初からいなかった事にされた。そんなアイリスを引き取ってくれたのがアルベドの北にある名もない修道院だった。
「そのおかげで治癒と浄化の魔法を使えるようになりました」
コレットが根掘り葉掘り聞いた結果、アイリスの不遇な身の上が判明した。
(もし僕も旅立つ前にエルドベアでヌマネズミと戦っていたら、同じようにいなかった事にされたのだろうか?)
ヌマネズミに敗北した時の悔しさを思い出すケント。アイリスに親近感を覚えたケントはすぐに提案した。
「僕と一緒に魔王を倒しませんか?」
目標が飛躍しすぎである。
ギルベルトと別れた時にもっと強く引き留めればよかったと後悔していたので、次に一緒に行きたいと思う人に出会ったら絶対に引き下がらないと心に決めていたのだが、今度は気持ちが先行しすぎたようだ。
「どんな誘い文句よ!」
すかさずコレットの突っ込みが入る。当のアイリスは困惑した様子だ。
「ま、魔王ですか? 私では足手まといになってしまいますよ」
しかし、今度はジャレッドが懇願する。
「いや、あれほどの魔法を使える方が足手まといになるはずがないでしょう。せめて非道なゴブリンの王を倒す手伝いをお願いできないでしょうか?」
非道な、という言葉に反応したアイリスは事情を聞いた。
「まあ、何という事でしょう。分かりました、治癒魔法ぐらいでしかお役に立てませんがその王を倒す協力をさせて頂きます」
◇◆◇
「ゾンビが一掃されました」
軍師が王に報告している。
「こうなったら腹をくくって、我々で勇者を迎え撃とうではないか。どうせ魔王軍に入ったら勇者と戦う事になるのだ、勇者の首を手土産にすれば魔王もワシに一目置くだろう」
王は楽し気に言う。
彼は、別の集落に生まれたゴブリンだった。生まれた時から他のゴブリンより体が大きく、強かった彼は自分が他のゴブリンとは違うと常々考えていた。
彼には特に不遇なエピソードなどない。
ただ、あまりにも強すぎたために同等の立場で接する仲間がいなかった事は不幸だったと言えるだろう。全ての同胞が
◇◆◇
「ところでゴブリンは別種族の雌を襲うんでしょ? ジャレッドはアイリスにムラムラしちゃったりしないの?」
コレットの不躾な質問に、ジャレッドは笑って答えた。
「俺はオークの女が好みなんだ。人間の女は肉付きが足りないな」
なんとコメントして良いかわからず、ケントは曖昧な笑みを浮かべて足を進める。
「そうなんですか? 私はオークの女性にお会いした事が無いので気になります」
(そんな会話は聞かなかった事にしておいた方が……)
真面目に反応するアイリスの様子に、心配になりつつも庇護欲を刺激されるケントだった。