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ゴブリンゾンビと修道女

 大勢の敵は魔法で一網打尽にするのが良い。メイジもそんなことは分かっているので兵は小出しにしてきた。


 ではなぜゾンビは集団なのか?


 それは簡単な話で、別々に操ろうとしたら余計な魔力を使ってしまうからだ。単なる足止め、敵の体力・魔力を消耗させるのが目的の行動で自分が消耗していては本末転倒なのである。


「行くヨ!」


 コレットが宣言通りに広範囲魔法を使う。


『ファイアストーム!』


 その名の通り強力な炎の嵐がゾンビ達を焼いていく。だが、一網打尽とはいかなかった。前のゾンビに遮られ、後ろのゾンビに熱が届かないという事が起こり、半数ほどのゾンビはそのまま向かってくる。


 それを次々と切り捨てるケント。自分でも驚くほどに、地下でゴブリンと戦っていた時よりも動きが軽やかに、剣閃は鋭くなっていた。


(凄い! 今まで感じていたのとは比べ物にならない程、自分が強くなっているのが分かる)


 疲労し、剣を振るのも困難な状況におかれ、無駄な力を使わない動きが格段に磨かれたのだ。軍師の作戦は、ケントに休息を許した事で逆に彼を強力に鍛え上げる結果となっていた。


「次、行くヨ!」


 コレットの合図に、ケントは大きく飛び退いてゾンビの群れと距離を取る。


 すぐに、次の魔法が発動した。


『アーススパイク!』


 地面が波打ち、ゾンビ達は足を取られる。次の瞬間、無数の石針が地面から突き出し、彼等を串刺しにした。


「オオオ……」


 唸り声をあげるゾンビ。ケントに斬られたゾンビがまた人の形を取り、仲間を貫く針を叩き壊していく。


「むむっ、これはあんまり効果なかったか」


 コレットが悔しそうな声を上げた。物理的な破壊は効果が薄いと見たケントは追撃をせず、魔法での攻撃を試みる。


『シャイン!』


 光の魔法。聖なる光に照らされた不死者は、浄化の力により肉体の維持力を低下させられる。光に当たった数体のゾンビは、灰となってその場に積もった。


「効果はあるけど、範囲が狭すぎるな」


 まだ王と軍師を倒さなければならないのに、足止めのゾンビにこれ以上消耗させられてはいけない。どうしたものかと思案していると、聞き覚えの無い女性の声が響いた。


『ターンアンデッド!』


 上位の魔法である。その名の通り、不死者を強制的に死者へと変える。ゾンビの群れを光の柱が包み、一気に全てを灰に変えた。


「凄い!」


 その強大な魔力に感嘆の声を上げるコレット。


「邪悪な気配を感じました。大丈夫でしたか? 怪我などありませんか?」


 魔法を使った人物が優しい口調で気遣う言葉をかけてきたが、その姿を見たケントは少なからず動揺した。


 彼女は修道服を着た、若い女性だった。その目の部分には黒い布が巻かれ、目隠しをされている。


――この世界で、黒は不吉な色として忌避されている。修道女が身に付けるような色ではない。


 それも、目隠しした状態で通常の人間と何も変わらないような足取りで近づいて来たのだ。


「ありがとうございました、助かりました」


「その目はどうしたの?」


 とりあえず礼を述べ、どんな言葉をかけたらいいか迷うケントを尻目にコレットが直球の質問をした。


「私は生まれつき、目が見えないのです。……ああ、申し遅れました、私はアイリスと言います」


 盲目の修道女アイリスに対し二人も自己紹介をする。


「同胞を浄化してくれてありがとう」


 ジャレッドとゴブリン達がやってきて、礼を言った。


「あら、ゴブリンの方なのですね。とても綺麗な魂の色をしています」


 アイリスの言葉に驚きの声を上げる一同。


「ゴブリンって分かるの!? それに魂の色って?」


 コレットが全員を代表して疑問の言葉を述べる。


(羨ましい性格だなぁ)


 はっきりと聞けるその図太い神経が少し羨ましくなるケントだった。


――――――


 盲目の修道女 アイリス

 才能値 24000

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