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ゴブリンの集落へ

 ジャレッド達のおかげで、ケントとコレットはゆっくり休むことができた。


「元気は出たかい?」


 二人が目覚めた気配を察知したジャレッドが大剣を手に敵襲を警戒しながら声をかけてきた。


「うん、ありがとう。もう行けるよ」


 ケントの言葉に合わせ、コレットも腕を上げて元気アピールをする。しかし、ジャレッドは険しい顔をしていた。


「様子がおかしいんだ」



 ジャレッドの話では、ケント達が寝ている間襲撃してくるゴブリンがまるでいなかったという。彼等が裏切った事は軍師やキングも知っているはずなので、大量の刺客が送り込まれてくる覚悟だったのだ。


 その刺客はキングが虐殺したのだが、そんな状況になっているとは彼等が知る由もなかった。


「住処に兵を集めて迎え撃つつもりかも知れない。これは不味いな……」


「大丈夫だよ、一か所に固まってるならまとめてやっつける魔法があるから!」


 コレットが自信満々に言うが、これは全くその通りだ。魔法使いにとっては消費魔力の効率的に大勢が一度に襲ってきてくれた方が都合が良い。軍師が消耗させる為に兵を小出しにしたのも単に連携が取れないと言うだけの理由ではなく、魔法で一網打尽にされないためなのであった。


「分かった。キングの所へ案内しよう」


 ゴブリン達に案内され、ゴブリンキングのいる集落へ向かう事になった。


◇◆◇


「申し訳ありません。私の失策です」


 軍師であるゴブリンメイジがキングに謝罪する。もはやそこに残る兵はなく、集落の中にゴブリンは二匹だけだ。


「いや、策は問題ない。兵が軟弱だっただけだ」


 王は気にした様子もないが、軍師はこのまま勇者たちを相手にするのは危険と判断し、次の策を講じた。


「この裏切り者達を利用しましょう」


 ゴブリンメイジは杖を振り、兵士達の死体に魔法をかけた。


『ビカム・アンデッド』


 最早ただの赤い汚れと化していたゴブリン達が、骨を組み上げ肉を纏い人型を取って起き上がる。ゴブリンのゾンビ、ゴブリンゾンビの完成である。


「おお、ゾンビなら下らぬ感傷で逆らう事もないな」


 王は玉座につき、ゾンビが組み上げられていく不気味な光景を見ながら満足そうに笑うのだった。


◇◆◇


「ここから一旦外に出る。少し歩いた先にまた洞窟があって、その中が我々の集落になっている」


 やっと外の空気が吸えると、喜ぶコレット。ケントはこの先に待つ戦いを意識して緊張し始めていた。


(落ち着け、まだ集落にもついていないんだ)


 兵の強さから見ても、ゴブリンキングという個体は相当な実力の持ち主だと想像がつく。


「ケント、緊張してるの?」


 コレットが顔を覗き込んできた。無邪気な彼女には珍しく、心配そうな表情だ。先の洞窟で危うく死にかけた経験から、ケントの心が弱っているのではないかと考えているのだった。


「そりゃ緊張はしてるよ、でも大丈夫」


 そんな彼女の心配を読み取り、ケントは笑顔を作って返事をして見せた。


「なんだあれは?」


 先頭を進むゴブリンが、前方の光景に目を疑った。


 しっかりとした足取りで大剣を手に歩いてくるゴブリンの集団。だが、遠目にもはっきりと分かる、ボロボロというよりグチャグチャとでも表現するべき破損した肉体。


「ゾンビだ!」


 ケントは書物で学んだ知識を思い出す。死霊術ネクロマンシーによって生物の死体から生み出されるモンスターだ。死体を材料にしたゴーレムのようなものだが、ゴーレムとの大きな違いは体に宿る魂である。人工的に作られ魔力で動くゴーレムと違い、死者の魂が宿っている。その魂を死霊術で操ることで大量のゾンビを一度に動かすことが出来るのだ。


「あいつら……王の近くにいた兵じゃねぇか! どうしてゾンビになってるんだ!」


 ジャレッドは彼等も王に不満を持っていたとは知らない。ただ、奴らに殺されゾンビになった事だけははっきりと分かる。



「何故だ! どうしてあいつらは同じゴブリンを平気で死なせるんだ!」


 ジャレッドは道中出会うゴブリンも可能な限り説得しようと思っていた。まだまだ自分と同じ不満を持つ者はいるはずだと。その考えは正しかったが、死んだ兵達は直接王に不満をぶつけてしまうという間違いを犯してしまったのだった。


 意見が合わなければ戦い、殺す事になるのは仕方ない。そう覚悟していても、まさかこんな変わり果てた姿で自分の前に現れるとは思っていなかった。


 思わずその場に崩れ落ち王への罵倒を叫ぶジャレッドの姿を見たケントは、自分達がこのゾンビを倒すしかないと心に決める。


「いきましょ!」


 何も言わずとも意思を酌んだコレットが交戦を促す。


 ケントは、ゴブリン達をその場に留めゾンビの群れに向かって駆け出した。

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