それは数年前の事だった。ゴブリン達は悪さと言えば人間の食糧庫に忍び込んで食べ物を盗んで来る事ぐらい。ゴブリンに雌がいないため他種族の雌を襲って子を作ると言っても、主に豚や山羊を子を産ませるために育てるのが一般的という、比較的平和な生活を送っていた。
「豚でいいの!?」
「コレット、静かに聞こう」
話の腰を折るコレットを
その集落に現れた巨体のゴブリンはそんな生活をするゴブリン達を暴力で支配した。戦う事を好まない彼等はそいつに従い、王と呼ぶようになる。強さに惹かれた者も少なくはないが、反抗しても殺されるだけなので渋々従っていた者も多かった。
「それがあなた達ネ」
「ああ、そうだ」
王は集落でも一番の知恵者であった一人のゴブリンを軍師として重宝した。
そいつはある時、王に提案をした。
「我々も魔王の配下になりましょう。王の実力なら魔王軍でも一目置かれるはずです」
実際に王の実力はこの周辺地域においては抜きん出ていたので、魔王軍は話を聞いてくれたという。
そして、魔王は配下になるための条件として、人間の頭蓋骨を百個捧げる事を要求したのだった。
「それで、人間の町を襲ったのか」
話を聞く限り、既に捕まった人々の命は無いだろう。そう悟ったケントはなんとしてもゴブリンの王を倒さなくてはならないと決意した。
「いつも二人組で襲って来たのはなんで?」
「単独では危険が大きいが、多人数で連携出来る奴は多くないからだ」
コレットの疑問に対し特別な理由はないかのように答えるゴブリンだが、実際に三人以上の組で敵と乱戦になったら仲間を攻撃しないようにするのは困難だ。
彼等の練度なら二人組が丁度いいのだろう。
◇◆◇
「なんだあの連中は! 王を裏切るつもりか?」
ジャレッド達が武器を置き、勇者を何処かへ連れて行く様子が映し出された直後、映像が途絶えた。
映像は軍師が放った監視用の使い魔が見た光景を映し出したものであった。ジャレッドの仲間が使い魔を仕留めたためにケントの様子を知る事が出来なくなってしまったのだ。
「ええい、お前達で裏切り者どもを仕留めてこい!」
その場にいた兵に命令する軍師。だが、誰も動こうとしない。
「どうした? まさか、お前達も!」
武器を構えるソルジャー達に、軍師は驚きと怒りを向ける。
「あいつらとは別さ。俺達は俺達で、お前らのやり口が気に食わない。同胞を勇者に殺させて、ヘラヘラと笑っているような奴について行けるか!」
次第に語気が強くなり、最後には吠えるように大声で叫ぶソルジャー。
「……そうか」
キングが、低く静かな声を上げた。
◇◆◇
「ゆっくり休んでくれ。その間は俺達がこの場を守る」
ジャレッドの言葉に甘え、一眠りする事にした。
(確実に倒さなきゃ、もっと被害が大きくなる。焦らずに今は体力を回復させよう)
今すぐにでも倒しに行きたい気持ちだったが、心の中で必死に自分を嗜めた。
「……ぐう」
横では、既にコレットが寝息を立てていた。限界近くまで魔力を使ったのだ、それだけ疲れ果てているのだろう。
二人は、ゴブリン達に守られて一時の休息を取るのだった。
◇◆◇
室内に充満する血の臭い。凄惨な戦い――否、虐殺の跡が見られる。
「幾ら兵が死のうが、そこらの雌を捕まえてまた産ませれば良いのだ」
そこには、牙を剥き狂気に満ちた笑みを浮かべる巨体のゴブリンがいた。