目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

裏切り者

 ゴブリンの待ち伏せはある程度の間隔で繰り返された。時には間を置かず、時には長い間隔を取って、ケント達に次の襲撃タイミングを悟らせないように不規則な攻撃を繰り返す。


 既に二人が倒したゴブリンの数は二十体を超えていた。


「うぅ、魔力が無くなってきたよ。ヤバいかも」


 魔法を使い続けていたコレットは、ついに魔法を使うためのエネルギーが尽きかけていた。


「ふぅっ……そろそろ休憩をしないと」


 大きく息をつく。ケントも疲労困憊ひろうこんぱいだ。二人は休息を必要としていたが、地下道の出口は見えない。


(来た道を戻るか? いや、後ろにいないとは限らない)


 進むべきか退くべきか、判断を迫られるケントだった。


◇◆◇


「よし、勇者達が消耗してきたな」


 王と軍師は勇者達の戦いを見ながら策の成功を確信していた。


 満足そうに映像に見入る二人を、冷ややかな目で見つめる者達の存在には気付かずに。


◇◆◇


 ゴブリンは非常に個体差の大きい生物だ。中には当然、臆病者もいるし狡賢ずるがしこく生き抜こうとする者もいる。そして、王の命令に反発する者も。


 ゴブリンの兵士、ジャレッドは勇者を倒すために捨て石になるなんて真っ平だと考えていた。


 そもそも、ゴブリンは人間を殺す事に快感を覚える様な種族ではない。人間を捕まえ、殺せと命令された彼は、内心非常に不服だったので、町に侵入した時も人間を探す振りをして仲間を誘導し、見つけた子供を密かに逃がしていた。そして今回の命令である。


「なんで死ぬと分かっているのに襲い掛からなきゃいけないんだ!」


 もう限界だった。この王と軍師にはとてもついていけない、こうなったら天才と有名な勇者を利用して王に反旗をひるがえそうと思っていた。幸いな事に、賛同する者は少なくなかった。


 ただ自分の考えを訴えても、信用されないであろう事は火を見るよりも明らかである。なので、軍師の策も利用して上手く勇者に信用してもらう手筈を整えていた。要するに、恩を売るのだ。


 王に忠誠を誓う連中を先に行かせ、勇者を消耗させる。様子を窺い、いよいよ限界が来た頃を見計らって自分と仲間達で勇者の前に現れ、戦闘の意志が無い事を伝えるのだ。疲労した勇者を休ませる場所も提供し、王のいる拠点まで案内もする。王を倒す手伝いもする。そのかわりに見逃して貰おうという算段である。


「そろそろかな?」


「いや、まだ余裕がありそうだ。次の襲撃が返り討ちにあった直後を狙おう」


 物陰でそんな会話が交わされているとは露知らず、ケントは出口が近い事を祈って前に進む事を決めていた。


「ここまでかなりの距離を歩いてきたし、出口はきっと近いよ。もう少し頑張ろう」


 コレットを肩の上で休ませ、自分もゆっくりと歩を進める。だが、次の襲撃はすぐだった。


「死ねぇ!」


 殺意をむき出しにして大剣を振り下ろしてくるゴブリン。ケントは疲れた身体に活を入れ、あくまで教わった通りに体を捌く。


(こうやって動く事で、体力が消耗していても十分な力が発揮できるのか)


 疲弊ひへいし、身体を動かすのも億劫おっくうになった事で、ギルベルトから教わった体捌きの重要性を改めて認識した。


 ゴブリンの攻撃を最少の動きで躱し、攻撃後の隙を突いて少ない力で斬り付ける。遠心力と武器の重みで、十分な威力を発揮する事が出来た。


「ぐわあっ!」


 絶叫するゴブリン。物陰から見つめるジャレッドは、その動きに少なからず感心していた。


「見るからに疲れているのに、剣の鋭さは先程よりむしろ増している。これが魔王を倒す勇者の強さなのか……」


 ずっと様子を窺っていたからこそわかる。勇者は戦う度に少しずつ強くなっているのだった。


「思ったよりも消耗しなかったが、もう良いだろう。あの人を休ませてあげたい」


 ジャレッドは仲間に合図を送った。


「くっ、これは万事休すか」


 突然現れた十数匹のゴブリンに、ケントは死を覚悟した。だが、すぐに先頭のゴブリンが武器を地面に置き、両手を上げた。


「待ってくれ、戦うつもりはない」


 狐につままれた様な顔のケントとコレットに、自己紹介をするジャレッド。


(確かに、ここで攻撃すれば僕を殺せるのにだます必要はない。彼の言葉を信じるしかないな)


 疑ったところでどうする事も出来ない。ケントは信用して案内に従う事にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?