隠し扉の先は、しっかりとした構造の下り階段になっていた。
「近くにゴブリンはいないみたい」
後続がいないという事は入口で待ち伏せしていたゴブリンはそれだけ飛びぬけて強いゴブリンだったのだろうと楽観しつつ、案内の盗賊に別れを告げるケント。
(そういえば、さっきの奴等も二匹だったな。二匹で待ち伏せするのがよほど好きなんだな)
「案内ありがとうございました。後は僕達にお任せ下さい」
大人しく帰る盗賊を見送り、コレットが呟く。
「あんな弱い奴じゃ足手まといだもんネ」
「そういう事を言うもんじゃないよ、戦うのが専門の兵士じゃないんだから」
正直なところ、戦力としては頼りにならないとケントも思っていたが人数が減るとそれだけで心細くなるものだ。先程心によぎった不安が再度首をもたげてくる。
「他のゴブリンもあんな強さだったら……」
「あの程度ならだいじょーぶ! 私が焼き尽くしてやるワ!」
コレットは徹底的に楽観主義だった。
しばらく進むと、少し開けた場所に出た。そして現れるゴブリン。こいつらも大剣を手にした二匹組だったが、今度は様子が違う。広場の奥にもう二匹、それも弓を手にしたゴブリン達がいた。
「まずい!」
弓手は既に矢を
――攻撃線上から身体を外せ!
(剣は線、矢は点の攻撃だ。戸惑わず、冷静に)
大きく足を踏み込み、身体を円を描くように回転させる。ゴブリンの剣は空を斬り、矢はケントの頬を掠めて壁に突き刺さった。
『ミサイルガード!』
空を舞う小さな体のコレットにゴブリンの攻撃は当たらなかった。直ぐに飛び道具を防ぐ魔法が発動する。
これで弓を恐れる必要は無い。頬から一筋の血が流れるが、構わず剣を振るって目の前の一匹を斬り伏せるケント。
(矢じりに毒でも塗ってあったら大変だったな)
まだ甘い自分の回避を戒めつつ、続けざまにもう一匹の首を飛ばす。彼の繰り出す斬撃は旅立ったばかりの頃とは違い、既に致命的な威力を持ち合わせていた。
『ソニックファイア!』
コレットが弓を持つゴブリンを焼き尽くした。こちらは大剣持ちに比べて幾分脆いようだ。
◇◆◇
戦いの様子を魔法の光で壁に映し出し、真剣な目で分析する者達がいた。
「やはり手強いな」
短時間で兵を倒された王は、唸る。
(……確かに強いが、この程度か?)
対照的に、軍師はケントの強さに疑問を抱いていた。桁外れの才能値を持つ希代の勇者である。その割には、動きも甘いし攻撃の威力も目を見張る程ではない。共に行動する妖精の方が戦闘力では上に見えた。
(あの妖精は、我と同等の実力者と見た。だがあの勇者はお世辞にも我が王と張り合えるほどの強者とは思えぬ)
彼の見立ては正確であった。だがそれ故に、沈着冷静な彼が油断という大きな間違いを犯してしまう事になる。
「このまま、同数の兵をぶつけ続けましょう。地上に出る頃には疲れ果て隙だらけになるはずです」
王は、軍師の言葉に従った。
油断は、慎重な分析力も奪う。敵の実力を見誤るだけではなく、味方の状態も読み取れなくなる程に。