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不可解な襲撃

 一夜明け、ケントはまたタリアにモンスターの情報を聞いた。


「タリアさん、またモンスターの情報を教えて貰えますか?」


 タリアは軽く驚いたように返事をする。


「えっ、あんな大事件を解決したばかりでもう次の事件に向かうんですか? 本当に凄い方ですね。ちょっと心配です」


 すると、ケントより先にコレットが口を開いた。


「私達はどんどんモンスターを退治していかないといけないの! 何か無い?」


 その様子は使命感というより、早く戦いたくてうずうずしているという様子だ。


「そうですね、最近ゴブリンの動きが活発になっているようで、町の近くでも襲われる人が増えてきています」


 ゴブリンはモンスターの中では低級の存在だが、社会性があり集団で生活し個体差がある。モンスターというよりは敵対的な異種族と考えた方がその性質を理解しやすいだろう。


「ゴブリンですか。どちらの方角からやってくるか分かりますか?」


 集団生活する種である以上、集落のようなものが近くにあるはずだ。


「それが、襲撃が全方位で散発的に発生するのでどこが集落か分からないんですよ。冒険者達も探っているんですが」


 全方位から攻めてくるという事は考えにくい。拠点を悟られないように意図的に場所を変えているのだろう。


(これは、統率者のいる計画的な襲撃だな)


 話を聞いたケントは、今度の相手は戦闘力とはまた違う意味で手強い敵だと感じるのだった。




 まずは何でもいいから情報が欲しいと思った二人は、ゴブリンに襲われたという商人を訪ねた。


「あの時は南のブルート港から交易品を運んでいたのですが、突然物陰から二匹で現れて襲い掛かって来ました。幸い護衛の冒険者が蹴散らしてくれたので被害はありませんでしたが」


「待ち伏せですね。その場所はどこですか?」


 地図を見せ、襲撃地点に印をつけて貰う。


「ゴブリンは荷物を狙ってたの?」


 コレットが不思議そうに尋ねる。ブルート港は南方の島々から様々な香辛料を仕入れる場所だ。ゴブリンは香辛料を好まない。それが南からやって来る商人を襲うだろうか?


「言われてみれば、ゴブリンは荷物には目もくれずに私達に襲い掛かって来ましたね。これは不思議な事だ」


「荷物ではなく、人間を狙う……それでいて、護衛の冒険者には簡単に蹴散らされる、か」


 不審な行動だ。何か別の狙いがあると見ていいだろう。


「ありがとうございました。とても参考になりました」


 謝辞を述べ、商人の店を離れた。


「次は、北で襲われた兵士だ」


 二人は次に町を守る兵の詰所へと向かった。


「北の見回りから帰ってきた時に、二匹で襲ってきましたね。雑魚だったので簡単に返り討ちにしてやりましたよ」


 北のゴブリンも、南と同じく物陰から突然襲って来たという。兵士に武器を弾き飛ばされ、一目散に逃げていったそうだ。


「ゴブリンが逃げた方向は分かりますか?」


「北の方ですね。特に気にも留めなかったので、正確な方向は確認していません」


 兵士はゴブリンの行先を確認していなかったが、これは怠慢というわけではない。雑魚モンスターが襲ってきて返り討ちにあったというだけの出来事で、相手の逃げた先まで気にする事はまずないのだ。


「どう見ても勝ち目のない兵士にわざわざ挑んで、すぐ逃げる……やはり何か別の目的がありそうですね」


 北の方に逃げたというが、それで北からやって来たと考えるのは早計にすぎる。


「ゴブリンはどんな武器を持ってたの?」


「剣ですよ。ゴブリンが好んで使うショートソードでした」


 ゴブリンは主に剣を使う。体が小さいので片手持ちの短剣を持つ事が多い。使う武器には特におかしい点は無かった。


「ありがとうございました」


 次は東で襲われたという冒険者に話を聞いてみる。


「ええ、ルーブ村から来る途中に森から襲ってきましたね。二匹いましたが、魔法で追い払いましたよ」


 また二匹。北も南も二匹で襲ってきたそうだが、この数に意味があるのだろうかとケントは疑問に思った。


「わざわざ戦える人間を襲う。決まって二匹。荷物には目もくれない」


「変わった武器を使うわけでもないなら、新しい武器を試してみたかったって事も無さそうネ」


 法則性は見えてきたが、意図は全く分からない。最後は西で襲われた農夫の家へと向かった。


「あれは農作業から帰る時でした。町の門が見えてきたところで、二匹のゴブリンが私に斬りかかって来たんです。幸い、このぺスが吠え掛かったら驚いて逃げて行きましたが」


 ぺスと呼ばれた犬が誇らしげにワン! と吠えた。


(また二匹か。でも、本気の襲撃なら犬に吠えられたぐらいで驚いて逃げるわけがない)


 もしかしたらゴブリンの数が違って、それがヒントになるかと思ったがそうはいかなかった。


――手元の動きに惑わされるな。


 ふと、ゴブリンの奇妙な行動に隠された意味を考えていたケントの脳裏にギルベルトの言葉が浮かんだ。


「フェイント……」


――敵のガードを崩す為に、本当の狙いと別の場所を攻撃する振りをするんだ。


――敵のフェイントに惑わされない為には、手元じゃなく全身を見ろ。視点を一点に集中させるな。


「ゴブリンが僕達人間の目を逸らす為に偽の襲撃を行っているのは間違いない。ゴブリンは決まって町に入る人間を襲っている。そしてすぐに逃げる。襲われた人は町に帰って襲撃の事を知らせる。……その後の町の対応は、決まっている」


 わずか二匹の襲撃とはいえ、ゴブリンの住処を探って退治しようとするだろう。冒険者達や、今のケント達のように。


 その時、探るのは……

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