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黒騎士の教え

 ケントは、ギルベルトに送ってもらい子供達をアルベドの町へ連れ帰った。


 そしてまたE地区に戻るギルベルトだが、一日だけ稽古をつけてくれる事になった。


「ケントは飲み込みが早いから、一日あれば基礎の練習法ぐらいは覚えるだろう。派手な技を覚えるよりも、基礎を繰り返し鍛練するんだ」


「はい、分かりました!」


 子供を連れて戻る道すがら、今日の予定について話す二人。その様子は師匠と弟子と言うより、父と子のような微笑ましさがあった。


「私にも教えてよー」


「ああ、魔法の練習法も教えてやる。剣だけじゃ魔王と戦うのはきついからな」


「やったー!」


 ギルベルトの答えに、クルクル回って喜ぶコレット。




 ケントはワクワクしていた。はやる気持ちが抑えられず、ギルドへの報告も程々にして切り上げ、役所にも確認の連絡だけ入れて子供達を親御さんたちの下へ送り届けた。


「時間がない。用事が済んだならさっさと始めようか」


 ギルベルトも少しでも多くの事を教えたいと思っていた。一時はE地区の住民を見捨ててケントに付いていこうかとも考えたが、それは無責任すぎると思い直し、ケントと合流する事があるとすれば、彼等を一人前の戦士に育て上げてからだと心に決めたのだった




「まずは足の運びと体捌たいさばきを教えよう。敵の攻撃をかわし、激しく動きながらでも力の篭もった一撃を繰り出すためには必要不可欠な技術だ」


 ケントは手本を真似て足を出し、前後左右に動く。


「基本は進行方向と逆の足で地面を蹴る事。前に進むなら後ろ足、右に進むなら左足で地を蹴れ。体軸は真っ直ぐに保て」


 コレットも地面に下りて真似をしているが、足がもつれて転んでしまった。


「結構難しい!」



「敵の攻撃を避ける時、腕で武器を打ち払うのみでは力負けしたらまともに喰らう。必ず敵の攻撃線上から自分の身体を外せ。可能であれば少ない動きでギリギリの回避をした方がその後が有利になるが、何よりも優先するのは自分の安全だ。出来もしない高度な回避をしようとして死んだらただの馬鹿だぞ」


 ケントは言われるままに『入り身い み』という体捌きを繰り返す。


(何となく仕組みが分かってきたような気がする)


「攻撃は一撃で終わりとはいかない。仕留めきれなかったり、防がれたり、躱されたりする。だから攻撃した後も次の攻撃に移れるように体勢を維持しろ。攻撃の軌道は直線よりも円を描く。剣先で円を描くわけじゃないぞ。自分の身体を中心に円を描くんだ」


 少し高度な技術になってきた。言葉では上手くイメージできなかったが、ギルベルトの手本を見ながら解説を聞くと、どういう事か理解できた。


(視点は自分じゃないんだ。自分から見て円ではなく、自分を中心に円が出来るように剣を動かすんだ)




「重心の移動は当然敵も行う。敵の動きを利用しろ。可能な限り敵の重心を崩すんだ」


 フェイントと簡単な姿勢崩しの技術も教わった。これで剣術の基本は終わりのようだ。今まで教わった事を決して忘れないように、必死でメモに書き残すケントに、ギルベルトが補足や注釈をつけてやった。




「さて、次は魔法だ」


「待ってました!」


 コレットが気勢を上げた。


「武術で同じ事を繰り返すと技の鋭さが増すのは、その動きに身体が慣れ、身体を動かす神経が発達して動きやすいように変化していくためだ。魔力を上げるのはそれとは違って、筋トレのようなものだな。筋肉は限界近くまで使い、疲労すると休んでいる間に回復する。その時に筋トレを始めた時よりも強い状態まで回復『しすぎる』んだ。それが筋トレで筋力が強化される仕組み。同じく魔法も限界近くまで魔力を使い、休んで回復する事で威力が増す。現状でケントよりコレットの方が多くの魔力を持っているため、同じ事をしてもケントだけが成長してコレットは成長しないだろう」


 それがスライム退治をした時にケントだけ成長した理由かと、二人は納得した。


「なるほどネ!」


「また、高度な魔法を使うためには勉強と試行錯誤が欠かせない。こちらの方がこの世界では難しいかもな」


 魔法の威力を上げるには魔力をとにかく使えばいいが、より高度な魔法を使いたかったらその使い方を身に付けなければならない。この世界にはない風習だから、独学で編み出していくしかないわけだ。


「べ、勉強かぁ……」


 勉強と聞いて露骨に表情が曇るコレット。


「いくつか、便利で応用の利く魔法を教えてやろう。俺の知っている魔法を全て教えている時間はないからな」


「わーい!」


 こうして、ケントとコレットは黒騎士から幾らかの教えを受け、成長の糸口を掴むのだった。




 夜になり、ギルベルトがE地区に戻る時間になった。


「今日教えた事をしっかり身に付ければ、より高度な技術は自分で編み出していけるだろう。頑張れよ」


「ありがとうございました!」


「またねー!」


 互いに手を振り、再会を誓いつつも淡泊な別れとなった。


「さて、白馬亭に戻って今日は休もうか。また明日からモンスター退治だ」


「うん、ガンバろーね!」


 共に行きたい気持ちはまだ強いが、一緒に旅をしても実力差があり過ぎて足手まといにしかならない。いつの日か肩を並べて戦うために、今は実力をつける事に専念しようと決心する勇者だった。

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