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行方不明の子供を追え

「勇者様にスライムを退治して頂いたおかげで、町の人々が喜んでいます。特に小さい子供を持つ親御さんは心配事が一つ減って安心しているようですね」


 タリアがニコニコしながら感謝を述べる。


「心配事が一つ減ったという事は、他にも心配事が?」


 世の親達は心配事が絶えない。他の心配事がモンスター関連とは限らないが、スライムが退治されて一つ減ったと言われると、他にもモンスターの悩みがあるように思えた。


「さすが勇者様。でも、モンスターかどうかは分からないんですよ。ギルドにも依頼を出しているので何人かの冒険者が引き受けているんですが、子供が行方不明になる事件が起こっているんです」


 子供が行方不明とは穏やかではない。


 モンスターではなくても、放っておくわけにはいかない。ケントとコレットは頷き合った。


「タリアさん、その話を詳しく教えてください」



 子供がいなくなったのはいずれも町外れの空き地。危険だからと止めても、子供はこういう場所に行きたがるものだ。


「まずは聞き込みをしてみよう」


 周辺住民に変わった事はなかったか聞いて回る事にした。空き地の周りには数件の家がある。


「一軒ずつ訪ねてみましょ!」


 コレットが張り切って一番近くの家に飛んで行く。


「コレット! 君が行ったら……」


 警戒される、と言いかけたところで異変に気付く。ケントは走り出し、家の窓から出てきた人影とコレットの間に割り込んだ。


「きゃっ!?」


「ちっ」


 その人影は即座に踵を返し、家の裏へ走って行く。


「何、今の?」


 コレットの疑問に対する明確な答えはケントも持ち合わせていなかった。ただ、友好的な相手ではない事は確かだ。


「ただの予想だけど……人さらい、かな?」


 子供の行方不明事件にも関係があると予想し、後を追う事にした。



 裏に回ると、そこは何もない裏庭だった。


「家の中から出てきたし、やっぱり中を調べるしかないか」


「ちょっと待って!」


 家に入れる場所を探そうと思った時、コレットが少し強い口調で制止した。


「隠された入口があるっポイ」


 そう言って、鱗粉のような光の粒をまき散らしながら空中を飛び回るコレット。


 その光が当たった地面の一部に穴が出現し、みるみる変化して地下に下りる階段になった。


「凄い! そんな事も出来るんだ」


「エッヘン!」


 称賛の声に、飛びながら胸を張った。


※フェアリィ・ダンス:まやかしを破り、隠されたものを見つけるスキル。



 階段を降りると、そこは意外にも快適な居住空間が広がっていた。


「来たな、勇者!」


 出迎えたのは、三日月刀シミターを手にし、胸当てをした軽装の男達。ガラの悪さから一目でわかる盗賊だった。


「盗賊か! 子供達をさらったのはお前達だな? 覚悟しろ!」


 すぐに剣を構え、戦闘態勢になるケント。コレットも魔法を放つ準備に入った。


「ええっ!? そりゃ濡れ衣だ、ちょっと待て!」


 驚いた様子の盗賊達はその場に武器を捨て両手を上げた。


「油断させるための罠かもしれないヨ! 気を付けて」


「そうだね、濡れ衣だというならさっきコレットを襲ったのは何だったんだ?」


 剣を構えたまま詰問する。仮に子供の事件と関係無くても、襲ってきた事に変わりはない。


「いや、違うって。その妖精を襲ったのも俺達じゃねえ。犯人を退治して欲しいんだよ!」


 必死に懇願する盗賊の様子を見ていると、彼等が嘘を言っているようには思えなかった。


「じゃあ、犯人は誰なんだ?」


「それは……」



 盗賊達の証言によると、犯人は魔王を信奉する邪教の信徒で、アジトはケントの予想した通り家の中から行くらしい。最初はここも空き地だったがそいつらが後から家を建てた上に子供をさらって怪しい儀式を行っているから困っているという。


「魔王の手下だし、Aランク向けの討伐依頼を出していたんだよ」


 彼等は勇者向けの依頼を取り扱う役所に依頼を出していた。身分は隠し、入口の隠蔽を消す道具を渡してこの上の裏庭に来るように指示していたのだ。念のため、役所に行ったら盗賊達が言う通りの依頼があった。


 要するに、同じ事件について別々の被害者から訴えがあったという事だ。


「問題は、そんな危険な連中を僕が倒せるのかって事だ」


「確かに、勇者様はまだ雑魚モンスターにも苦戦するレベルだもんネ」


 とはいえ、勇者としては実力的に不安だからといって目の前で起こっている犯罪を見過ごすわけにはいかない。覚悟を決めて突入するしかないのだった。


「危ないから、コレットは待っていて」


「何言ってるの? 相棒でしょ!」


 コレットは頼りになる仲間だが、だからこそ危険と分かっているところへ連れて行くのは気が引けた。ケントは溜息をつき、一言。


「危ない時はすぐに逃げてね」


 そう言って、怪しい魔王教団のアジトへと向かうのだった。

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