エヴァの追求にエイベルは顔色を変えることなく、答えた。
「どうしてそう思うんですか?」
「貴方と再会した時、違和感があったの。ホムンクルスが人間を模して作られたとしても、医者の知識だけではホムンクルスを診る事は出来ない。かなりホムンクルスについて勉強したんだなって思ったの」
エヴァはエイベルの研究室を思い返しながら続ける。
「本棚にホムンクルスの製造方法だったり、私の執筆した本があったり。あと、『臓器は記憶を持つのか』という本もあった。私の頭蓋骨を使って創り出したんじゃないかな? 私の人格を持つホムンクルスが生成出来るか知るために」
彼は表情を変えることなく、頷いた。
「そうです。墓荒らしをしてエヴァ先輩をホムンクルスとして生まれ変わらせたのは僕ですよ」
「どうしてそんなことをしたの?」
エイベルはエヴァから視線を外し、ノグレー院を眺める。
「教授の計画を阻止したかったんです。教授が特許権を専有したら僕は研究が出来なくなる。多額の使用料なんて払えませんから。僕のもう一つの夢は、ホムンクルス製造会社を設立してお金を作り、母を楽にしてあげることなんです」
今の研究員の給金では、満足のいく金額を母に仕送り出来ないと言う。エヴァは黙りこむ。
「エヴァ先輩を復活させればいつか教授の計画に気付いて阻止してくれるんじゃないかって。何よりフィン先輩という護衛付きだから、僕が動くより確実なんじゃないかと思って。想像よりも早く止めてくださいましたけどね」
彼はふっと目を伏せる。息を吸い、エヴァを見る。
「僕を恨んでいますか?」
エイベルが初めて瞳に不安を浮かべた。エヴァは微笑みを浮かべ、首を振る。
「いいえ、むしろ感謝してるわ。また大事な人達に会わせてくれたから」
やり残した事もあるしね、とエヴァが笑いかけると、エイベルは安心したように微笑みを返したのだった。
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一連の出来事が過ぎ去り、落ち着いた頃。
エヴァとフィンは結婚し、幸せな家庭を築いたという。アルゼンタム皇国のどこかでひっそりと暮らしているらしい……。